これもある意味で優しさってやつかな
「しかし、どうするつもりだ?」
二人の生徒が去り、教室には僕とコトネ、それからアリオスだけが残された。
アリオスは周囲の気配を探ってみせてから、小さい声で言った。
「コトネが囮になるのはわかったが……犯行場所は完全にバラバラだぞ? そう簡単にいくとは思えないが」
「ああ、それについてはちょっとした算段があってね」
それから僕は、担任教師のルーギウスが怪しいことを軽く説明した。
もしあいつが犯人であれば、コトネの抜群の身体つきにとうに目をつけているはず。現にあいつの視線がそれを証明していた。
あとはこの学園周辺でコトネをひとりにさせれば、引っかかる可能性が極めて高い。……ルーギウスが犯人であればの話だが。
話を聞き終えたアリオスは小さく頷いた。
「……なるほど。容疑者がまるでわかっていない以上、怪しい者から探るしかないか。……しかし、ふむ……ルーギウスか」
「ん? どうかしたのかい?」
「いや、なんでもない」
アリオスは首を横に振ると、こほんと咳払いをし、僕とコトネを交互に見据えた。
「犯行場所はバラバラだが、犯行時間は絞れている。だいたい夕方の五時から七時……といったところだろう」
なるほど。
その時間ならば、教師陣が職務を終え、帰宅していてもおかしくないわけだ。
僕は壁面に掛けられている時計に目をやった。
四時四十分。
まもなく犯行の行われやすい時間になる。
僕はふうと息を吐くと、改めてコトネに目を向けた。
「もう一度聞くけど……本当に大丈夫なんだね?」
「うん。私にできることは、これくらいだから……」
「そうかい……」
本当は彼女を危険な目に遭わせたくない。安全なところで待っていてほしい。
けれど、それは自己陶酔というものだろう。
コトネはみずから囮になることを望んでいる。
それを拒否して、さらに被害が拡大したら……彼女はもっと悲しむだろう。
「わかった。必ず君を助ける。だから……無事でいてくれ」
「うん。約束だよ!」
僕とコトネは、小指と小指を重ね合わせ、固い契りを交わすのだった。




