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大魔神の推理

 僕の番か。


「はーい」


 適当な返事をして立ち上がる。

 すると、それまで静かだった他の生徒たちが、じろじろと怪奇な瞳を向けてきた。


「おい、あいつ……」

「あのルイス様をたった一撃で倒した……」

「しかも魔王様じきじきに面談申し込みだってよ。やっぱり受かってたんだな……」


 あらあら。

 どういうわけだか、僕は学園内でかなりの有名人になっちゃたらしい。


 そうと狙ったつもりはないんだけどね。


 まあいい。鬱陶うっとうしくなったら記憶を消すまでだ。


「ふむ。どうやらみんなエル君に興味があるようだね。質問タイムは後にして、まずは自己紹介をお願いしてもいいかな?」


 ルーギウスの爽やかなスマイルに、僕はふうと息をつく。


「……そんなに期待されても、そんなに言いたいことはないんだけどね」


 大魔神なんて知られたら面倒くさいし。

 本当の年齢を言うわけにもいかないし。

 だから僕は、先生にならってにっこり微笑んでみせた。


「僕の名前はエル。いま城下町で起きている、連続の誘拐事件について調べてるところだよ」


「…………」


 瞬間、ほんの数秒だけ、先生の表情が曇った。


 ――この反応。

 明らかに、ルーギウスは事件を知っている。


 直後、他の生徒たちのささやき声が、さらにボリュームを増した。


「誘拐事件……?」

「なんだそれ……。聞いたことないな……」


 みんなわからないか。

 そりゃそうだろうね。街を守るはずの警備隊が、この事件を揉み消そうとしているんだもの。


 先生も同じように首を傾げ、乾いた笑みを浮かべた。


「私もわからないな。いったいなんのことだい?」


 演技のうまい奴だ。さっきの動揺を完全に隠している。

 にも関わらずシラを切るとはね。ますます怪しい。


 けれど、これは良い機会だ。簡単に引くわけにはいかない。


「みんなは身に覚えがないかな? 家族、友人、恋人……なんでもいい。突然、姿を消した女性はいないかい?」


 言いながら、サイコキネシスを用いて、クラス全体に軽く誘導をかける。これで引っ込み思案な生徒でも、覚えがあれば素直に意見を言うようになる。


 ――ん?

 ふと僕はある違和感を覚えたが、複数の生徒が声を挙げたことによって、その思考は断ち切られた。


「あ、あります!」

「そういえば俺も……妹が……」


 幸運というべきか、このクラスにも該当者が二人もいたようだ。


「警備隊の人が探してくれてるけど……見つからなくて……」

「マジかよ。俺の友達の友達もそうだよ」


 それらの発言を聞きながら、僕は片頬を吊り上げた。


 ――誘拐犯め。

 被害者を増やしすぎたのは迂闊うかつだったね。


 アリオスは被害総数が五十と言っていたが、それはあくまで警備隊が把握している数に過ぎない。実際にはもっと多いのかもしれないね。


「あれ先生、どうしたんだい?」

 僕はもう一度、にっこり微笑んでみせた。

「なんか、だいぶ苦い顔してるけど」


 ルーギウスは片眉をひくつかせると、ため息をつき、力のない笑みを浮かべた。


「……いや。なんでもないよ。教職者として、このことを知らなかった自分が情けなくなっただけだ」


「へえ……?」


「それが誘拐事件なのか私にはわかりかねるが……私にできることがあれば、なんでも協力しよう。悩める女性を放っておくわけにはいかない」


 そう言って最後にはしっかり爽やかスマイルを決めてくる。

 再び、女生徒たちがキャーキャー湧いた。


 ――でも、もうわかってるよ。


 確信はなにもないが、ルーギウスは容疑者のひとりとして充分考えられる。


 先生なら魔力も高いだろうし、一般人の目を欺くことも可能なはずだ。


 待ってるがいい。近いうちに真相を暴いて、化けの皮を剥がしてあげよう。


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