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コトネの恋人として

 僕のサイコキネシスにより、女生徒はかなり落ち着きを取り戻したらしい。

 最初に比べ、明確に言葉を発するようになっていた。


 名前を《リノ》というらしい。


 僕たちと同じように田舎から越してきたこと、晴れて受験に合格したことを、よどみなく喋ってみせた。


「ふむ」

 リノの話を聞きながら、アリオスは深く頷いた。

「それで……大丈夫なのか。事件のことを詳しく聞いても」


「はい。私に協力できることなら……」


「そうか」


 アリオスはほんの一瞬だけチラッと僕を見た。

 どうやら僕がサイコキネシスを使用したことに気づいているようだ。


 さすがと言わざるを得ないが、さすがにアリオスといえど、サイコキネシスがどんな魔法かまでは知らないだろう。若干釈然としない表情ながらも、彼はリノに向き直り、話を続けた。


「まず単刀直入に聞こう。犯人の顔を覚えているか?」


「すみません……それが、まったく見えなくて……」


「では体型や身長はどうだ?」


「……ごめんなさい」


「失礼だが、自分が襲われることに心当たりは?」


「いえ。ありません」

 ここまで言い切ってから、リノは萎縮したように肩を落とした。

「すみません……これじゃ、なんの協力にもなってませんよね……」


 彼女の細々しい声に、僕は

「いや、そうでもないよ」

 と断言してみせた。


「顔も体型も見えなかったということは、犯人はかなり強いんだろうね。それだけのスピードが出せるってことだ」


「な、なるほど……」

 僕の隣で、コトネが小さい声を発した。



「となると、かなり厄介だね。そう思わないかい?」


 僕は真向かいのアリオスに同意を求めた。

 ちょうど同じことを考えていたのか、長髪の剣士はゆっくりと頷く。


「そうだな。城下町はできる限りの警備隊を巡回させているはずだ。……犯人には、その包囲網をくぐり抜けるだけの実力がある――ということになる」


「そ、そんな……じゃあ、もっと警備隊を増やすしかないってことですか?」


 動揺するコトネに、アリオスは首を横に振った。あまりにも力のない動きだった。


「さっきも話したように、上層部はこの事件を隠したがっている。これ以上の人数を割くことは無理だろう」


 街に来たばかりの僕でさえ、警備隊の多さに気づいたからね。

 一般の住民となれば、この違和感にとっくに気づいているだろう。これ以上、事を大きくするのは上層部の好むところではない。


「情けない話だ……! 魔物を守るはずの警備隊が……我が身可愛さになにもできないとはッ……」


 義憤のこもった声とともに、アリオスは両拳を震わせる。


 まったくその通りだ。

 秩序を保つための組織が動けないのでは……まるで意味がない。これだから信用ならないと思われるのだ。


「エルくん……」

 コトネが不安そうに僕を見上げてきた。

「どうにかできないの……? 私も、怖い……」


 そうだ。

 コトネも数年前、男に襲われそうになったことがある。


 そのときはなんとか逃げ切れたようだが、見ず知らずの男に身ぐるみ剥がされ、好き勝手にされるのは、女性にとって恐怖以外の何物でもなかろう。


 そしていま、まったく別のところで、同じ事件が起きようとしている……


 僕は向かいのリノに目を移した。

 いまはだいぶ落ち着いているものの、さっきまでは完全に錯乱し、まともに喋れる状況ではなかった。


 男の身勝手な欲望のために……身も心も傷つけられてしまったのだ。


 大魔神として、……いや、コトネの恋人として、断じて許しておけまい。

 僕はふうと息を吐くと、決意を胸に称え、言いきってみせた。


「アリオス。そちらはできる限り警備を強化してほしい。学園のほうは……僕に任せてくれ」


「なに……し、しかし……」


「心配いらないよ。僕を誰だと思ってる? あの骸骨ジジイなんか目にならないくらい強いんだからね」


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