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よくわからない警備隊のしきたり

 警備隊――


 すなわち、魔物界の秩序を保っている組織。


 いくら魔王ワイズが強いと言っても、魔物界すべてを見渡すのは無理がある。


 歴代の魔王では、魔物はとにかく弱肉強食であり、秩序などクソ喰らえだという王もいたが、それは魔王ワイズの望むところではない。


 魔物にも知性がある。

 獣のように下品に生きるのではなく、美しく、知性的に生きよ――

 それがワイズの方針である。


 そんな魔王ワイズに代わり、犯罪者たちを取り調べるのが警備隊の役目というわけだ。


 とはいえ、僕としてはこの警備隊がきちんと機能できているのか疑問である。


 所詮(しょせん)、魔王が作り上げた組織にすぎない。


 魔王を絶対的な正義としている以上、たとえば魔王が非道なことに手を染めたとしても、警備隊は動かないわけだ。十年前の、あの日のように。


 ――そんなことをコトネに教わっているうちに、いつのまに目的地に到着したらしい。


「あ、ついたよ」


 コトネが立ち止まり、つられて僕も眼前の建物を見上げた。


 一見して、金属質な要塞ようさいだとわかる。


 高層ビルのように巨大ではないものの、横に広く伸びており、かなりの面積を占めているようだ。外周は頑丈な塀に囲まれていて、出入口の門には二名の魔物が警備をしている。鎧なんかを身にまとっていて、ちょっと偉そうな態度だ。


 まあ、だからといって怖じ気づく必要もない。


「ねえ」


 僕は堂々と警備隊に話しかけた。


 うち一体の、人型の魔物がぎょろりと視線だけを向けてきた。巨大な槍を地面に突き刺しており、たしかに一般の魔物よりも多くの魔力が感じられる。


「……なんだ貴様は」


「いや。特にこれといって用はないんだけどね。街中にやたら警備隊が多いから、なにかあったのかなーって思って」


「なにかあったとしても、一般の魔物に答える義理はないな。去れ」


 あっちいけ、とでも言うように手の甲を振ってくる。


 ――やれやれ、取り付く島もないとはね。

 思わず僕は肩をすくめた。


 やろうと思えば《サイコキネシス》で彼を操ることもできるが、それはしないことにした。少々ムカつく態度だが、なにも悪いことはしていない。僕は節度ある大魔神なのだ。


「……仕方ないね。コトネ、帰ろう」


「え、いいの?」


「うん、僕としては本部を一目ひとめ見られただけで充分……ん?」


 そこまで言いかけて、僕は口をつぐんだ。

 見覚えのある警備隊がこちらに歩み寄ってきているからだ。


 相手も僕の存在に気づいていたらしく、僕の目前で立ち止まった。


「これはこれは。数日ぶりですか」


 アリオスはぺこりと頭を下げると、右手を差し出してきた。


 その握手に応じてから、僕は笑みを浮かべる。


「久しぶりだね。まさかこんなところで会うとは。例の事件のことかな?」


「ええ。また誘拐事件が起きまして……」


 すると、人型の魔物がたった一言、

「アリオス殿!」 

 と大声を発した。

「一体どういうおつもりですか! 一般人に事件内容を漏らすなど!」


 しかしアリオスは冷静なものだった。瞳を閉じると、諭すように言い返す。


「……貴公は妙だと思わないのか。多くの女性が巻き添えになっているにも関わらず、一般の魔物はこの事件を知らされていない。……これでは、また新たな犠牲者が出てしまう」


「あ、あなたの考えは関係ないでしょう! 上からの命令を忘れたのですか!」


「この事件についての秘匿義務か……やれやれ」


 やり取りを聞いていた僕は少なからぬ衝撃を受けていた。


 ――この誘拐事件が、一般の魔物に周知されていない?

 真犯人も見つかっておらず、新たなる被害者が出る可能性が高いこの状況で、いったいなぜ?


 言われてみれば学園内は異様に静かだった。

 何人もの学生が巻き込まれているにも関わらず、何事も起きていなかったかのような様相を呈していた。


 アリオスはため息をつくと、一瞬だけ僕を見て、また視線を警備隊に戻した。


「……ともかく、被害者のうち一人を発見した。これより事情聴取を行いたい。それと、参考人として、この二人の学生さんも同行願いたいと思うが」


 ひゅう、と思わず僕は口笛を吹いた。

 招待してくれるのか。なんというリップサービスだ。


「…………」


 警備隊はなおも黙りこくっていたが、アリオスは構わず話を続けた。


「貴公も私の地位と功績はわかっているだろう。どけ。これは命令だ」


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