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魔王ロニン

 魔王城。


 魔物界においてエリートだけが集う場所であり、警備する魔物もそこいらの連中とは一味も二味も違う。率直に言って、オークやカノーネなどは相手にならないだろう。


 そして。

 城下町に住む魔物たちも、ニルヴァ市の住民に比べ、どこか垢抜けて見えた。魔力もそこそこ感じられるし、なにより資産家が多いのだろう。通りがかる魔物たちはみなオシャレだ。


「わーすごい……」


 僕の隣で、コトネが目を輝かせながら周囲を見渡す。


「あまりキョロキョロしないでくれよ。目立つじゃないか」


「だ、だって、すごいんだもん」


 懲りずにあちらこちらに目を向けるコトネにため息をつきつつも、しかし僕も彼女の気持ちがわからないでもなかった。


 長らく神殿に引きこもっていたのだ。何千年と生きてきて、《都会》なる場所に足を踏み入れるのは初めてである。


 ――それにしても、近代の技術の進歩はほんとにすごいな……


 そこかしこに、天を貫かんばかりの高層ビルが軒を連ねている。その多くが商店らしく、服や食い物、生活雑貨などを売りつけている。ビルの上部に掛けられた垂れ幕が、派手な色合いでみずからの商品を宣伝している。


 十年間、魔物たちは自力でここまで文明を発展させてきた――ということか。


 人間との戦争により、これを失うのはたしかに痛い。

 そう思えば、魔王ワイズの心痛もわからなくもない。


「ねえ、お兄さん、ちょっといい?」


「なっ……」


 ふいに背後から声をかけられ、僕はぎょっとした。


 まったく気づけなかった。

 いつ後ろを取られていたのか。


 慌てて振り向くと、そこには赤髪の小さな女の子がいた。

 可愛らしい尻尾を生やし、幼さのある顔立ちはなかなかの愛嬌を放っているが、しかし……


「驚いたね。君、何者だい?」


「えっ?」

 女の子はきょとんと目を丸くした。

「えっと、その……ごめんなさい。と、とと通りがかりの魔物なんですけど、えっと」


 しどろもどろになりながら女の子が言う。


 その様子を見て、今度は僕が目を丸くする番だった。


 ――なんと下手な嘘なのか。


 これほど強烈な魔力を持つ者が、一般の魔物であるはずがない。

 魔王ワイズなど、この子とはもはや勝負にならないだろう。僕とも互角にやり合える力を持っている。


 そう、まさに《神の力》を手に入れている……


 僕の疑り深い顔に観念したか、女の子はふうと息を吐くと、申し訳なさそうに後頭部を掻いた。


「ごめんなさい。私はロニンといいます。別の国で魔王を務めてます」


「ま、魔王……!?」


 コトネが身体をびくんとさせる。

 そんな彼女の肩をぽんと叩き、僕は言葉を発した。


「魔王か……。そんなに強いなら納得だけど……けど、それだけじゃないね。君は《神の器》さえ手に入れてそうだ」


「す、すごいですね……あなたこそ何者ですか?」


「まあ、あんまり大きな声で言わないでほしいんだけど。大魔神、とでもいえばわかるかな?」


「そ、そうですか……。なら、騒がれると厄介なのはお互い様ですね。ここは静かにしていましょう」


「ふふ、そうだね」


 意味深な会話を繰り広げる僕とロニンを、コトネは不思議そうに見つめていたのだが――やがて、なぜだか頬を膨らませた。


「エルくんっ。お散歩に戻るよっ」


「えっ……どうしたんだいいきなり」


「いいの! ほら、早く!」


 まったく訳が分からない。

 僕が首をかしげていると、ロニンだけは彼女の心情を察したのか、ぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい。そんなつもりではなかったんですが……最後にひとつだけ教えてください。魔王城はあっちですか?」


「そ、そうだよ。見りゃわかるだろう?」


「そうですか。わかりました。ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げ、魔王ロニンは魔王城へと歩き出していった。


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