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こんな戦いが普通とは笑わせる

 最初に僕たちは筆記試験をすることになった。


 広大なホールに詰め込まれ、受験者それぞれに三枚の試験用紙が配られる。


 ステータスの意味や歴史、魔法や基本戦術などが問われているのだが……全然、わからん。


 魔法の術式とか。

 偉大なる魔法使いの名前とか。


 いちいちこんなの知らなくても魔法くらい使えるでしょ。覚える意味がわからない。


 唯一ゆいいつ自信があるのは歴史くらいだ。

 これでも年齢的にはジジイだからね。何百年前、何千年前の歴史ならわかる。


 ……まあ、代わりに最近の国の情勢とかはさっぱりだけど。


 結果、解けたのは最後らへんにある問題くらいだ。

 最初の問題はなに言ってんのかさっぱりわからない。


 ちなみにコトネはかなり満足げな顔をしていた。たしかに見たところ、ペンを止めているようすはまったくなかったと思う。


 まったく。なにが「自信ない」だよ……

 今度から、試験前に勉強してないとか言ってる奴は信用しないことにしよう。


 さて。

 そんなこんなで筆記試験が終了し、お次は実技試験だ。


 こっちはちょろい。

 受験者はいくつかのグループに分けられ、一対一の模擬戦を行うことになる。


 試験官によると、ここでの勝敗は採点には関係ないようだ。


 まあ当然である。

 強すぎる相手とぶつかってしまったり、または互角の相手と戦うことになったり……どうしても不公平が生じてしまう。


 だから試合の結果ではなく、その過程を見ていると試験官は言っていた。


 会場はグラウンド。


 僕はコトネと同じグループに振り分けられ、受験者同士の模擬戦を眺めていた。


 ちなみに、グループひとつにつき、だいたい三十人前後が振られている。


 試験官に指名された二名が、残りの受験生に取り囲まれる格好で試合を行っているわけだ。


 僕たちのグループでは、現在、剣士同士の戦いが繰り広げられていた。試験官に渡された木刀を用いて、コン、コンと緊張感のない音を響かせている。


「退屈だねぇ」


 思わず呟いてしまい、コトネが「しーっ」と唇を人差し指で抑えた。


 そのコトネはさっき、ろくに攻撃できないまま負けてしまっている。

 点数はかなり低いだろうが、そのぶん、さっきの筆記試験でかなり稼いだはずだ。心配はいらない。


「そこまで!」


 試験官が号令を発したところで、模擬戦は終了した。勝敗はつかず、二人とも荒い呼吸を繰り返している。


 ふむ。

 僕は顎をさすり、いまの戦いを思い返した。


 正直なところ、かなりレベルが低い。


 未成年の集まりではあれど、もっとマシな戦いができていいはずだ。すくなくとも、このグラウンドくらいは全焼させる力があってほしい。


 これでは、あのオークやカノーネがだいぶ強者つわものに思えてしまう。


 退屈すぎる試合だったにも関わらず、試験官は見慣れているとでも言うかのように、無表情で紙に何事かを書き連ねていた。


 剣士二人も、決着こそつかなかったものの、満足そうに木刀を試験官に返却している。


 そのようすに、さすがに焦りを禁じ得ない。


 これはかなり深刻だ。

 仮に人間軍が攻めてきたら、魔物側は間違いなく負ける。それどころか――まったく勝負にならないだろう。


 ますますワイズ魔王を失脚させるわけにはいかなくなった。


 ――そうやって考え込みすぎていたからだろう。

「……ル。エル!」

 試験官の指名にしばらく気づけなかった。


 見渡すと、他の受験者たちが僕を見てクスクス笑っている。


「まったく。栄えあるノステル魔学園の入学試験にぼーっとするとは何事か。我々は君たちの態度も見ておるのだぞ。くれぐれも気をつけたまえ」


 あーはいはい。

 軽く受け流しておきたかったが、そうするとまた面倒なことになりそうだったので、ちゃんと頷いておいた。


 ぼーっとしてたんじゃなくて、君たちの将来を考えてあげてたのに。失礼な教師だな。


 僕の無言を反省と捉えたか、試験官は大きく頷くと、張りのある声を響かせた。


「では受験生エル。同じく受験生ルイス。これより模擬戦を行う。両者、前へ進み出よ」


 仕方ないか。


 僕は指示にならい、数歩前に出た。


 対面からは、受験生ルイスと呼ばれた青髪の青年が立ち上がっていた。


「ルイス様!」

「あんな奴、軽く蹴散らしちゃってください!」


 貴族の息子なのだろうか、取り巻きらしい受験生たちがルイスに向けて声援をあげる。


 ていうか、蹴散らすって……勝敗は関係ないのになに言ってんだ。


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