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まさかこの歳で学園とは思いもよらない

 大魔神の大胆なる宣戦布告から、一週間が経った。


 魔物と人間の癒着。

 この事実は世界中の生物を震えあがらせた。


 だが、それゆえに現実感を遠ざけている側面もあった。

 人間と魔物の争いは歴史における常識であり、まさかそのトップ同士が裏で手を繋いでいるとは誰も思わない。


 大きな戦争には発展しないまでも、世界のどこかでは必ず、息をするように両者の闘いが繰り広げられている。


 その《常識》を、いきなり大魔神を名乗る者が否定してきた……

 こんなものをほいほい信じられるほど、魔物も人間も単純ではない。


 しかしながら。


 魔物側のトップ――魔王。

 人間側のトップ――国王。


 両者は大魔神の表明に対し、肯定も否定もしなかった。「事実確認を調査中」と回答をぼかしているのが現状である。


 両者とも、大魔神をかなり警戒している。それゆえ、思い切った否定がしきれないというのが心境だった。


 その曖昧あいまいさが、さらに一般人の疑念に拍車をかけてしまっている。噂好きな者はどこの世界にも存在するものだ。


 世論が揺れ動くなかで、魔王と国王は部下たちの信頼を少しずつ失いつつある。


 大魔神エルの登場により、世界の情勢は一気に不安定なものとなった。


    ★


「え、学園?」


 僕は目を見張った。


 コトネの母親が思いもよらない発言をしたからだ。


「そ。あなたたちの年齢くらいだとね、学園に通うのが普通なの」


「マ、マジかい……?」


 おかしいな。

 母親には僕が十代に見えるのだろうか。


 あれから一週間。

 僕はコトネの家に住まわせてもらっていた。


 だって住むところがないからね。

 神殿に戻ろうとも思ったんだけど、ぶっ壊されていた。

 おおかた魔王たちの仕業だろうけど、かなりタチが悪い。


 次会ったときは半殺しにしてやろう。


 ちなみに、コトネと話し合った結果、魔王への復讐は《いまのところ》行わない予定である。


 僕が言えたことではないけど、いまは世界の情勢が不安定である。


 そこで魔王を殺してしまったら、一気に人間軍が襲ってきて魔物全滅――ってことになりかねない。


 そんな結末は望んでないからね。


 まあ、当分は魔王もこちらを襲う余裕はないはずだから大丈夫だと思う。

 大魔神に挑める者がそうそういるわけないし。

 それを狙ってあの表明をしたんだけどね。


 ……ということで。

 僕はいま、コトネと、その母親とで朝ご飯を食べていた。


 父親はご苦労にも出勤しているらしい。

 いやあサラリーマンって大変だね。


 食卓には、変な匂いがするサラダ、ブタの塩焼きが並んでいる。朝食としては充分なボリュームだ。


「ということで、コトネ。あなたも学園に行くのよ?」


「わ、私も? う、うーん……」

 黄緑色の菜っぱをくわえながら、コトネは困ったような顔をする。

「あんまり気乗りはしないかな。だって、人と関わるの苦手だし……」


「だからこそよ。せっかく元気になったんだし、社会復帰してもらわないと。それにあなたには、エルくんがいるじゃない? ね?」


 そこで僕を見られても困るよ……


 ……しかし、学園か。


 正直なところ、興味はあった。僕は一般の常識には明るくないし、人付き合いの経験も浅い。ここいらでそれらを学ぶのも悪くない。


 それに。


 十年前にはなかったはずの要素――ステータス。


 僕には違和感しかないが、ニルヴァ市の住民はこれを当然のものとして受け入れている。


 僕が眠らされていた間に、世界のあらゆることが変更されている可能性がある。


 それを学習するためにも、学園に行くのは悪くない選択といえた。


「コトネ。お母さんもああ言ってるし……行ってみようよ?」


「え……う、うーん。エルくんがそう言うなら……」


「よし、決まりね!」

 母親が嬉しそうに両手を叩いた。

「じゃあ、まずは入学試験の用意ね! 魔王様が面接してくださるんだから、きっちり準備しなさいよ?」


「……え?」


 僕とコトネは大きく目を見開き、顔を見合わせた。


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