創造神の企み
「ぬおっ……!」
創造神はさすがの反応速度だった。
バシン――! と。
全魔力をつぎ込んだ僕の殴打さえ、右手で抑え込んでみせた。
「ぐぐぐ……」
相手の拳を押し出そうと全身の力を発揮するが、互いの拳は微動だにしない。やはり同じ神というだけあって、実力はほぼ拮抗している。
シュンはしばらく僕に加勢できないだろう。いくら陰陽の剣が強かろうと、気の遠くなるほど敵も多いのだ。
僕がやるべきことは、すべての黒幕であるこいつを倒すことのみ。
「ひとつ、聞いておきたい……」
拳の押し合いを続けながら、ストレイムは呻くように言った。
「トグラス塔を大勢の天使が襲ったことは貴様も知っているな? ――あいつらは、貴様に仕える天使どもではないのか?」
「……は?」
さすがに拍子抜けしてしまった。
こいつはなにを言っているのか。すべて、魔物界を滅ぼすために創造神が仕組んでいたはず……
「なに言ってるんだい? あれはおまえの仕業だろう。魔物界をつぶすために、ナイゼルと結託して……」
「ふふ。なるほどな。《そうなっている》のか――」
「は?」
「ひとつだけ教えておいてやる。封印前の記憶がないのは……私もだ」
「…………!?」
すさまじい衝撃が、僕の脳天からつま先までを貫いた。思わず全身が震えてしまう。
脳が理解を拒否していた。
――ありえない。
いままでの不可解な出来事は、創造神がなにかしら噛んでいると思っていた。創造神であればステータスというシステムを作成することも可能だし、古代竜リュザークすら意のままに操ることが可能だ。
なのに。
――こいつじゃない、のか……?
「私も十数年前、何者かに眠らされてな。目覚めたときは記憶がなかった。ちなみに、目覚めたきっかけがナイゼルだっただけで、人間界となにかを企んでいたわけではない」
「…………」
「封印されていた理由を探るべく、私は自分の素性を偽り、魔物界に潜んでいた。有力貴族ストレイム。誰も私の正体に気づく者はいなかったよ。……しばらくすると、あからさまに怪しい者に出くわすではないか。大魔神。あいつなら確かに私を封印させることさえ可能であるとな――」
「……それは……」
同じだ。
僕もまさに、同じような理由で創造神が怪しいと踏んでいた。ステータスという謎システムをつくったのも、僕を封じたのも、創造神がなにかしら知っているはずだと思っていた。
なのに。
「……僕たちは、踊らされていただけってことかい」
「――その通り。そしてまさに、期は熟したといえよう」
ふいに闖入者の声が響きわたり、僕は身を竦ませた。
戦場のなかにあって、その声はかなり響く音量だった。
シュンや創造神ストレイム、天使たちでさえ、ぴたりと動きを止め、その方向に目を向ける。
僕もつられて視線を向け――そして激しくせき込んだ。
魔王、ルハネス・アルゼイド。
天使に殺されたはずの彼が、堂々たる風格を滲ませ、不敵な笑みを浮かべていたからだ。
しかも、奴の左手には人間の首が握られていた。死ぬ間際まで苦しめられたのか、表情がひどく歪んでいたが、僕はそいつの顔に見覚えがあった。
人間界の王――ナイゼルである。
唖然とする一同に向けて、ルハネス・アルゼイドは右手の人差し指を突き出した。
「いままご苦労だった。……もう貴様は用済みだよ。創造神ストレイム殿」
瞬間。
ルハネスの人差し指から、極細の可視放射が放たれた。
「…………!」
僕はなんとか避けることができた。
だが、戦闘力にやや劣る創造神においてはその限りではなく。
「かはっ……!」
ルハネスの可視放射に胸部を貫かれ、その場に膝をついた。




