役割分担
「で、これからどうしますか?」
と言ったのはコトネだった。
みんなで楽しくお喋りしたいのは山々だが、事態は緊急を要する。あまり長居はしていられない。
コトネに答えたのは国王シュンだった。
「気配を探ってみたが、親玉――創造神ストレイムは最上階にいるな。そいつを始末しない限り、天使はいなくならねえだろう」
「ディストの時もそうだったが、とんでもない数だからな……」
ため息をつくアルス。
僕は全員を見渡すと、こほんと咳払いをして言った。
「シュンの言う通り、僕もすぐに最上階に行こうと思ったんだよ。でも見ての通り、多くの貴族が襲われてるからさ。みんなを助けながら最上階に行くのは厳しいね」
せっかく助けた貴族も、新たに侵入してきた天使に再び襲われる可能性がある。かといって戦場を連れ回すのも危険だ。それこそ大勢の魔物がここを訪れている。
だから足踏みしていた。
先に進みたいのに、進めなかったのである。
と。
いままで黙りこくっていたルイスが、ふいに僕を見た。
「それなら……手分けといかないか」
「ん?」
「正直、俺ごときでは創造神に勝てる気がしない。でも、おまえはその……大魔神なんだろ? 創造神に対抗できるのはおまえしかいない。だから……お願いしたい。魔物界を……守ってほしい」
「へえ……」
思わず感心してしまった。
ずいぶん殊勝なことを言うようになったものである。
「ま、そうだね。創造神と戦うのはまず僕で決定だろう」
「じゃ、俺もいくぜ」
シュンがにんまりと笑った。
「俺も創造神と戦ったことがあるからな。手助けしてやんよ」
「助かるね。君がいると心強い」
ということは、役割分担だ。
僕とシュンとで、創造神と戦う。
そして残るメンバーで魔物を守る。
コトネやルイスたちが心配だが、こちらにはロニンやアルスもいる。二人に任せておけばとりあえず安心だろう。
どこかでひとつ、大きな悲鳴が聞こえた。また別のところで魔物が襲われているらしい。
やはり、あまりのんびりしていられる時間はないようだ。
ロニンが心配そうにシュンを見上げた。
「じゃ、その、頑張ってお兄ちゃん。どうか死なないで……」
「おう。おまえもみんなを守ってやれよ」
続いて、コトネも不安そうに僕の手を握る。
「エ、エル君も無事で帰ってきてね。エル君が強いのはわかってるけど、今回は相手も強いみたいだし……」
「大丈夫さ。任せてよ」
「う、うん……!」
そして。
最後に、ルイス・アルゼイドが僕の目前まで歩み寄ってきた。
「俺からもよろしく頼む。魔物界を守れるのはおまえしかいない……」
そう言うなり、なんと彼は右手を差し出してきた。
「頼む。父の敵を……魔物界の敵を……倒してきてくれ……!」
「…………ふふ」
僕は薄く微笑むと、その手をしっかり握りしめた。
「いいだろう。創造神を倒したら、あとの魔物界は君に任せるよ。ルイス」
そのとき、僕は思い出していた。
ルイスに狂信的な好意を寄せていた、テルモの言葉を。
――ルイス様は素晴らしいお方なのだ。名門貴族なのに、我々のような爵位の低い貴族家をみんな受け入れてくれて……お優しい方、なのだ……――
「じゃ、創造神をぶっ倒しにいってくる。みんなも頑張ってね」




