革命的でも保守的でもない、第三の道
プリミラ。
想いを届けるというその花に、ナルルがそれほどの気持ちを込めているのか。
若輩者たる私には、察するに余りある。
だけど。
それでも、私は負けるわけにはいかない。魔物界と人間界、どちらの運命をも左右する平和会議を、妨害させるわけにはいかないのだ。
迷いを振り切り、私も魔力を解放する。
魔女リトナから授けられた膨大なる力が、身体の芯から溢れてくる。全身が熱くなり、鼓動がドクドクと早まっていく。
知らず知らずのうちに、私は白銀の霊気を身にまとっていた。エル君のように、一定以上の魔力を持つ者が力を解放すると、それぞれの特性に応じた霊気が出現する。
私の場合は白銀。まだ世界のなにをもわかっていない、何にも染まっていない色――
私の様子を見て、ナルルは大きく目を見開いた。
「な、コトネ……。おまえさん、行つの間にそんな力を……!」
「色々あってね。未熟者の私には不釣り合いだけど、うまく使いこなしてみせる」
「…………」
ナルルはそこで、険しくも優しさの混じった表情を浮かべた。
「本当に大きくなりよったな……。素晴らしいことじゃ。これが若者、か……」
その慈愛が込められた瞳を見ていると、ここトリスクを襲ったのもまるで嘘だったかのように思えてくる。
もしそうだとしたら、どんなに幸せだろう。
その世界には戦争がなくて、人間も魔物も、民族を越えた親しみを持っている。人間と一緒に笑い、ときには喧嘩し、それでも明日には仲直りしている……
そんな世界があったら、どんなに幸せだろう。
保守的でも革命的でもない、第三の道。
それを模索するためにも、私は……!
「いくよナルル。全力でいくからね!」
「おうさ。おまえさんがいままでに身につけたすべてを、ワシにぶつけなさい!」
私とナルルは頷き合い、同時に右手を突き出した。
私の手からは、白銀の可視放射が。
ナルルの手からは、漆黒の可視放射が。
ほぼ同じタイミングで、両者に向けて放たれた。
銀と黒の輝きが激突し、混じり合い、周囲にすさまじい衝撃波を広げていく。
(この力は……!)
私にとってまさに予想外の威力だった。
家屋を飲み込んでいた業火が、暴風によって吹き飛ばされていく。瓦礫もゴトゴトと音を立てていずこへと姿を消していく。
破壊活動を行っていたミール族も、足を止め、私たちに目を向けた。
(こんなに強くなっているなんて……ありがとう、魔女さん。それに……)
一瞬だけ、脇にいるエル君をチラ見する。
私の想い人は、両手を腰にあてがい、真剣な顔で私を見守ってくれていた。
そう、いつもは飄々としているけれど、心のどこかでは私のことを心配してくれているエル君……
いまも、離れたところで戦いを眺めてはいるが、いつでも動けるように体勢を整えている。
彼のためにも、私は……
「うおああああああっ!」
身体にくすぶっていた全力を放出し、私はすべての魔力を可視放射に注ぎ込んだ。




