表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/126

ナルル

 ――地獄絵図。


 トリスクに到着した僕は、最初にそんな言葉を思い浮かべた。

 元はのどかな村なのだろう、そこかしこに畑や牧場、馬小屋などが見て取れる。民家の脇には米俵なんかが置かれていて、不覚にも懐かしさのようなものを抱いてしまった。


 そんな村が――一方的に蹂躙されれいた。


 敵は灰色のローブをかぶった、魔術師然とした魔物だ。

 足がなく、ふわりと空中に浮いているさまは、どこか幽霊を思い出させる。両目の部分が黄色く発光していて、それが不気味さを助長させた。こいつらがサクヤたちの言う《ミール族》という奴らか。


 ミール族はその見た目に違わず、魔法を用いて村を襲っていた。


 炎の可視放射によって、馬小屋を燃やし尽くす。中から馬の死にそうな鳴き声が聞こえてくるが、ミール族は無情にも炎をかまし続ける。


 また別のところで、奴らは混乱魔法を使用していた。

 混乱魔法――すなわち、五感と認識を操る呪い。これにかけられた人間が、《お父さん、やめてよ!》と泣きじゃくる子どもの首を容赦なく切り裂いていた。


 これを地獄絵図と言わずしてなんという。

 トリスク村は滅茶苦茶だった。

 あちこちに人間の死体が横たわり、民家は無惨に焼き焦げている。


「ひどい……こんなの……!」


 コトネが青ざめた顔で口を覆う。

 さすがの僕もちょっと刺激を感じてしまった。たまらず顔を背けてしまう。


「これが魔物のやり方なんだよ……。俺たち人間だって散々やられてきたんだ……!」


 サクヤが両拳を力強く握り締める。


 なんと悲しい戦争なのか。

 本質はそれほど変わらない、歩み寄れば仲良くなれるかもしれないのに、種族が違う、たったそれだけのことで、憎しみ合い、殺し合う。

 そんな戦いの、いったいどこに意味があるのか。なぜいま、人間と魔物は戦争の危機に陥っているのか。


 僕はどうしようもない怒りに駆られたが、いまはそんなことを考えている時ではない。まず魔物どもを止めなければ……


 そう思って魔力を解放しようとしたのだが、それより先にコトネが一歩前に進み出た。厳しい目つきで周囲を見渡すと、張りのある声を響かせる。


「いるんでしょ! ナルル! 出てきて!」


 ――ナルル。

 いったい誰のことだ。


 僕が目をぱちくりさせている間に、突如、一体のミール族がふわりと目前に現れた。どうやら転移の魔法を使用したらしい。口の部分には、他の者にはない大きな白ヒゲが伸びている。


「おお、おまえさんは……コトネか!? そうじゃろう? はっはー、久しぶりじゃな、大きくなったのう! 見違えるようになって! ワシの記憶では、おまえさんはこんなに小さい幼子おさなごでな……」


 ナルルの長ったらしい台詞を、コトネは右手を上げて制した

「挨拶は後。あなたが……この襲撃を仕切ってるの?」


「そうじゃ。おまえさんも覚えとるだろう? ニルヴァ市の前市長が襲われたとき……犯人の多くは、ここの住人だとわかってな。ワシもこいつらに、セガレを殺されて……」


「…………」

 コトネは辛そうに両目を瞑った。

「また同じ過ちを繰り返すわけにはいかん。だからワシらは幻術でうまく潜伏して、機会を伺っておったのだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ