人間との葛藤
人間――
それすなわち非道なる悪魔。
ノステル魔学園では当然のようにそんな教育がなされていた。
だからすべての魔物は人間を敵対視していた。人間は世界に住まう絶対悪で、滅ぼすべき敵なのだと。
だけど。
だけど、シュンのように、思慮深さを持ち合わせた人間もいる。
彼のおかげで戦争は免れ、サクセンドリア大陸は一旦の平和を確保できている。
そして、いま目の前にいるサクヤたちも、本質的には魔物たちとそれほど変わらないように思えた。彼らの粗暴さを見ていると、ニルヴァ市で警備隊を務めていたオークらを思い出す。
信じられないことだけど、人間と魔物は、たいして変わらない。
それを知ったから。
だからコトネは、必要以上に人間への悪意を語らなかったのだと思う。
彼女自身、人間のせいで苦しめられてきた。コトネが植物状態となり、その後まったく動けなくなってしまうのは、人間による《お遊び》が原因だったからだ。
でも、それでも彼女は、憎き人間たちを前に踏みとどまった。そんなコトネを攻めるわけにはいくまい。
長い、長い沈黙が流れた。
いつもは快活なのだろうサクヤも、このときばかりは黙りこくっていた。
結果として二百人もの人間が僕に殺された訳だが、そうでもしなければ、ニルヴァ市の住民が人間に惨殺されていたのだ。この後に及んで、まさか《魔物だから殺しても良かった》だなんて言えまい。
と。
「サクヤ殿! いるか!?」
ふいに、新たな人物が扉から姿を現した。銀色の甲冑を身にまとっている。兵士だ。
兵士は僕とコトネを見てぎょっとしたが、急いでいるのか、すぐに気を取り直してサクヤに目を移した。
「緊急案件だ。トリスクに大勢の魔物が現れた」
「なに……?」
「我々もすぐに向かいたいところだが、会議の絡みで自由に動けない。悪いが、急いで向かってくれないか」
「了解した。ターゲットの情報は?」
「幻術使い。未確認情報だが、ミール族だという話も出ている」
「えっ、ミール族……?」
コトネが小さく呟いた。
「わかった。任せてくれ」
サクヤの力強い返事に、兵士はこくりと頷くと、慌ただしく外に出ていった。
それを合図に、サクヤもバン! と椅子から立ち上がる。
「そういうわけだ。俺たちもすぐに出なきゃいけねえ。悪いが、今日のところはお引き取り願えるかな」
「…………」
僕とコトネは互いに目配せした。
二人して頷きあうと、サクヤに視線を戻す。
「敵が大勢いるんなら、味方は多いほうが良いだろう? 僕たちも行っていいかな?」




