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記憶がないよ

 気づいたとき、僕は薄暗い場所にいた。


「ん……?」


 そこかしこに松明が掛けられており、ごつごつとせり上がった岩壁がんぺきを薄く照らし出している。


 薄暗くてまだ全景を見通すことはできないが、かなり広い場所のようだ。あたりを見回しても、出口らしきものは見あたらない。


 どこか洞窟の内部のようだ。


「……ふう」


 思わずため息をつく。

 直前までの記憶がない。

 どうやら、長い間、棺桶かんおけの中で眠っていたようだ。


「…………」


 ここは一体どこなのか。

 なぜ僕はこんな場所にいるのか。

 詳しいことはなにもわからない。


 わからないが、いつまでもこんなシケたところにいるも嫌である。


 とりあえず出口を探そう。

 話はそれからだ。


 そうして歩き出そうとしたとき、僕は気づいた。

 棺桶の側面に、張り紙が貼ってあったのだ。


 ――最古級ノ大魔神、ココ二封ズ。決シテ開ケルべカラズ――


「…………」


 最古級の大魔神……ってまさか、僕のこと?


 いやいやまさか。

 ありえない。


 過去のことは全然思い出せないが、これだけは覚えている。

 僕はたしかぼっちであり、童貞であり、そのことについて真剣に悩んでいて、つまりそんな奴が大魔神だなんて……


 瞬間。

 大音量の警報音が、ぶおーん、ぶおーん、と鳴り響き、僕は身を竦ませた。続いて、室内全体が赤く点滅する。


「非常事態デス、非常事態デス。大魔神ガ脱走シタモヨウ」


 いったいどんな仕掛けがあるというのか、機械的な女の声が室内全体に反響する。


「防衛魔法ヲ発動シマス。伝説ノ古代竜リュザークヲ召還シマス」


 ――な、なんだなんだ?

 呆気に取られていると、僕の眼前に、新緑に輝く幾何学模様が発生した。


 強い魔力を感じる。

 おそらく魔法を用いてなにかを召還させようとしているのだろうが、古代竜ってまさか。


 直後。


 幾何学模様から光の柱が出現し。

 その輝きが薄れたときには、僕の数十倍はあろう巨大な竜が姿を現していた。


 体表は紺碧こんぺきの鱗に覆われている。


 見上げんばかりの巨大な翼は、無数の棘によって包まれており、触れたが最後、大きなダメージを受けることは必須だろう。


 ――古代竜リュザーク。


 なぜだろう。僕は奴の名を知っている。そして、魔物においてトップクラスの実力を誇っていることも。


 古代竜は四つん這いに俺を見下ろすと、こちらも紺碧の双眸そうぼうで僕を見下ろした。大きな口から、凶悪な牙が垣間見える。


「殺す……大魔神。殺すべき敵……」


「うっ、口くっさ!」

 僕は思わず顔をしかめた。

「ちょっと待った。君、最近ハミガキしたのいつだい?」


「シルカァァイ!」


 冗談めかした僕の発言にもまったく聞く耳を持たず、古代竜は雄叫びを発する。


 そのままぎょろりと僕を睨むや、数秒だけ動きを止め――こちらに突進してきた。


 さすがは巨体というだけあって、奴が走ればそれだけで地響きが発生する。ゴゴゴゴゴ……という轟音が、洞窟内に響き渡る。


「……やれやれ、いきなり襲ってくるなんてね」


 正直、僕は自分が誰だかよくわかっていない。

 だが、なんとなく理解しつつある。

 僕は大魔神……だかなんだか知らないが、通常ならざる存在らしい。


 ――こうして伝説の古代竜を前にしても、まったく動じないほどに。


 僕は最小限の動きでサイドステップし、竜の突進をかわした。


「……あのさ」

 ため息をつきながら、竜の背中に問いかける。

「正直、お引き取り願いたいんだよね。戦う気が起きなくてさ」


「我は口臭くないィィイ!」


 古代竜はまったく聞く耳を持たず、途中で身を翻すと、再度、こちらへ向けて猛烈な突進をかましてくる。


「やれやれ……まったく」


 ため息を吐き、僕は肩を竦めた。

 これだから話の通じない奴は嫌いなのだ。


 僕は古代竜へ向け、右手を突き出した。


 大魔法だいまほう発動。

 ――インフェルノ・エクスプロージョン。


 竜の周囲で大爆発が発生する。

 ぱっと眩いばかりの閃光があたりを照らしたあと、すさまじい衝撃音が響きわたる。並の者であれば、この音圧にすら耐えられないだろう。


「グアアアアアッ!」


 地獄のビッグバンに呑み込まれ、竜は野太い悲鳴を轟かせる。


 だが、それでも死ななかったのはさすがの耐久力だった。

 手加減してやったとはいえ、だてに古代竜を語っていない。


 竜は両足をふらつかせながらも、ギリギリのところで踏ん張ったようだ。ふらつきながらも立ち姿勢をキープする。


「め、盟主めいしゅ様……!」

 ふいに、古代竜がそんなことを言った。

「私はどうすればいいのですか……! どうか、私に力を……」


 ――盟主様。

 一体誰のことを言っているのか。

 虚ろな記憶を手繰りよせるが、しかし聞き覚えはない。


「ふむ」

 と僕は唸った。

「興味があるね。誰だいそれは」

「おまえに答える義理はない! 私は盟主様の意に沿い、貴様を監視・殺害すべく潜んでいたのだ!」


「あ、そう」


 ――盟主。

 この場所に古代竜を潜ませていたということは、僕の封印に一役買っていたことは間違いない。


 誰だ。いったいなんのために僕を封じ込めた……


「じゃあ、教えてもらおうか。――力づくでね」


 僕はぽつりと呟くと、古代竜に向けて駆けだした。


 ……のだが。

 少々やりすぎてしまったらしい。


 ちょっと本気を出して古代竜の顔面をぶん殴ったら、そのまま動かなくなってしまった。


 見事に気絶してしまったようだ。


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