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さいしょからはじめた  作者: 渡良瀬光一
この世界の全てを断つ勇者
2/7

あのひからはじめた

「なろう小説?」


「最近結構アツいの多いっすよ、異世界転生モノってのがジャンルとして溢れててー」


正午過ぎ、蒸暑い教室の中、(アツシ)に最近ハマっているものを尋ねた時だった、いつも通りのほんの暇つぶし…他愛無い会話で終わる日常の1コマになる筈だった。


「もしアレなら先輩にいくつか教えますよ」


「ありがとう…感想とか言った方がいい?」


「いや、いいっす」


「そっかー…」


携帯小説…昨今の携帯、スマホ普及率や紙媒体離れの関係で広まっていったジャンルだ。

かさばる事なく好きな時に読めて日々増えていくそれはある種無尽蔵の書庫とでも言おうか、はたまた欲望の掃き溜めと言おうか。


「じゃあおつかっす」


「うん、ありがとう敦君」


自らの教室へと戻る背中を見送り、さっそくというか…携帯に目を落とす、


異世界ーなろうー…ヒーロー。





そこは、とてもチープでファジーな世界だった、


ポエムに日記、テーブルトークゲームのルールブックやシナリオ、そして…小説。


「なんだこれ…この世界の攻撃意思を全て無効化して跳ね返す?チートもいいとこだ…どこがごく普通の学生なんだか…」


およそ考えうるバランスを全てぶち壊すような過剰な能力を持つ主人公…何故か多数のヒロインにモテる…ご都合主義のシナリオ…理屈なんて滅茶苦茶な作戦がまかり通る戦闘、そのどれもが僕のくだらないプライドに塗れた価値観には稚拙に感じ、まるで無理矢理嵌め込まれたジグソーパズルのように感じた…


「あはは…強すぎ…」


でも…


「…ー」


それらは僕が小さい頃に描いていた無敵のヒーローを、正義の味方を…


「…ロー…」


何処までも


「ヒーロー…か」


何処までも何処までも何処までも


「うん…帰ろう」


真っ直ぐ叩き付けるように描いていた。

僕は…その小さな夢の吹き溜まりに、

文字通り夢中になっていた。






もし僕が異世界に行ったらどんな力が手に入るんだろう…異世界くらい凄い能力が使いたいもんだ、例えばー


「どうしたの?校庭に何かあった?」


「え?あ、いや…」


その日最後の授業が終わり人が疎らになった教室、クラスメイトに話しかけられ慌てて校庭を指していた手を引く…開きっぱなしで机に置かれた携帯を弾き落としながら。


「小説家になろう…え?もしかして間城君作家志望?」


「あ、コレは暇つぶしというか、たまたま見てー」


「冗談だよ、私も見てるんだぁ…結構有名だよね?アニメになったやつもあるんだっけ」


…うう、話しを振られても普段ほとんど接点無いからどう返したらいいか分からない…当たり障り無く返して茶を濁そう…。


「まぁ書くつもりもないし、そこまで熱中もしてる訳じゃないし…頭使わずに読める感じ?」


「…へぇ…」


「ほら、もう放課後から結構経つし帰らなきゃじゃないかな?」


「あ、うん…じゃあね?」


「ばたばたして申し訳ないっ、じゃねっ?」


…逃げてるように映っただろうか?

しかしアニメ化か…迂闊だった、帰りにレンタルメディアショップでチェックしよう。






長くて短い1日…その最後をお気に入りのラーメン屋で締め括る。

傍らにはレンタルメディアショップのロゴ入りバッグ、左手付近に携帯、そして眼前には好物の味玉チャーシュー麺。

行儀悪いとはわかっていつつ携帯を開いて乍ら食いしてしまう。


「間城くん、何かいいことあったの?」


ふと顔を上げるとラーメン屋のおばさんがニコニコと笑って僕を見ていた。


「え?なんでですか?」


「笑顔、隠し切れてないよ?」


…どうやら重症らしい。

思えば今日授業中や時間が空いた時、楽しみの筈のお昼ご飯でさえどう過ごしたのか朧気だ、

今はっきり覚えてるのはどの主人公がどんな話しでどう活躍してたかくらいだし…。


「ええと…ごめんなさい…」


「いいのよ、人に見られてない時くらい行儀悪くなさいな?料理ってのは味だけじゃない、落ち着く空間を一緒にお腹に入れて、それで初めて料理なんだから」


「おばさん…」


「ほら、よくラーメン屋さんに漫画があるでしょう?そういうことよ」


「ん…ありがとうございます」



それから後ははおばさんを交えて小説について沢山話した、サイトのこと、小説のこと、冒険のこと、世界のこと、そして夢のこと。


おばさんはきっと分からない言葉や単語があったんだろうと思う、それでもうんうんと頷きながら聞いてくれていた…こんなに話したのは久しぶりだ…、


昔、両親に夢を語って…

失望するような表情を見た時以来だろうか…。





そう、思えばこの日から僕は毎日のようにヒーローの物語を追い、想いを馳せ、自信を持って夢と向き合えるようになったんだ。


例えその夢がどんなに現実と離れていようとも、

例えその夢がどんなに努力したって実現しなくとも。

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