7話 彼女と彼ら
説明回です。
「そう、だから異界の召喚者と意志疎通が出来るように翻訳の技能を与えることができる魔法に改良されたらしいわ。ま、どういう仕組みなのか私にはさっぱりだけどね」
場所を教会に付設した客間――今はアリーさんの生活スペースだそうな――に移して、これからのことを話すはずがいつの間にか雑談タイムに突入してました。
……私が質問したからなんですけどね。
今は召喚魔法のことを聞いていたら、実は召喚の際に翻訳の技能というものが付与されることを教えてもらったとこです。
気にしてなかったけど、そういえばすごい魔法ですよね。さっきからすごいを連発してる気がするよ、……よし、こうなったらすごいの大放出ですっ!
凄い すごーい ス ゴ ー イ ッ!!
異世界ふぁんたじーだよぉっ!!
はっ!?
いけない、いけない、興奮しすぎでした。ビークールです。vehicle? いいえビー=クールです。(誰
とにかく! 私、主人公が異世界に行く小説を読んだことあるのですが、こういう時は興奮したり焦ったりすると大抵ろくなことにならないんですよ。魔法は凄いけど私はここで強く生きるのっ!
――そう約束したからっ、
私が何処へ行こうともそれは変わらない……。
たとえ異世界へ行っても、
私は私、強い人間になるの―――
うん! 落ち着いた。アリーさんはソファーに寄りかかりクスクス笑っている。むぅ、表情に出てたかな……。
――アリーさん曰く、このオネットの街の地下に、大昔とある国の大司教が禁術の儀式場を作ったらしい。なんでも地脈の流れがなんとかかんとか……、とにかくそれがあの地下室=『秘密の間』で、そのカモフラージュの為に建てられたのがこの教会だそうです。
「時代が流れ、やがてその大司教の国も廃れた。
この教会のことを知る人間もいなくなったわ。でもある時『王国』が司教の書簡を発見した、当然この教会のことも そして禁術……召喚魔法も『王国』の知るところとなった。
当初『王国』は異界の戦士の物語から、戦争に役に立つような兵士を欲しがったわ 好んで若い少年を召喚して 勇者と持て囃し 教練して強力な兵士に育て上げようとしたの。
でも、ま、結果は言葉が通じないとかいろんな理由で全部失敗だったそうよ。ふふ、最後は国が乗っ取られかけて止めたんだって。」
「えぇ……。あ、アリーさん待って。異界の戦士?……って何?」
「あぁ、そうだった!ごめんね。異界の戦士っていうのは……」
――異界の戦士の物語――
むかし、むかし あるむらに
ちいさなおんなのこが すんでいました
おんなのこには おやがいません
ちちおやも ははおやも しりません
おんなのこは いつもひとりです
あさごはんも みずくみも
もりにいても ねるときも
まいにち ひとりでくらしています
むらのおとなは おんなのこがちかづくと
おおきなこえで おこります
おんなのこは ひとりぼっちです
おんなのこは おそらにおいのりしました
ああ、かみさま さみしいです
どうかわたしに おともだちをください
けれどもおそらは あおいまま
さっきとなんにもかわりません
おんなのこは さみしくなりました
あるひ またおとなにおこられました
おんなのこは よぞらにおいのりしました
ああ、かみさま かなしいです
どうかわたしに やさしいひとをください
けれどもおそらは くろいまま
さっきとなんにもかわりません
おんなのこは かなしくなりました
あるひ むらがマモノにおそわれました
おんなのこは ふるえていました
おそとには こわいマモノがいます
おんなのこは おいのりしました
ああ、がみさま こわいです
どうかわたしを たすけてください
けれども だれもたすけにはきません
おんなのこは ないてしまいました
しくしく しくしく
するとどうでしょう ガシャン
おそとでおおきな おとがしました
おんなのこは おそとをのぞきました
ああ、たいへん マモノがさんびき
おんなのこを ねらっていました
おんなのこは こわくなりました
こわくこわく なりました
いしょうだんすに かくれます
マモノのこえが おおきくなりました
でもマモノはすぐに だまってしまいます
ガシャン またおとがなります
ガシャン ガシャン ガシャン
いしょうだんすが ひらきました
そこにはよろいをきたきしさまがいました―――
その鎧の騎士というのが異界の戦士だそうです。
その後戦士は女の子と旅をするけど、言葉も違い、食べ物も違い、女の子がどうにも戦士はこの世界の者ではない、神が遣わしたのだと気づくという少女&鎧の冒険譚だそうな。
とある宗教の教典に入ってる子ども向けのお話だというのがアリーさんの説明です。何と絵本にもされてるようで、アリーさんも子どもの頃に読んだそう。この世界では有名な本で、他には召喚者のお話とかも好んで読まれるそうです。
……なんとなくだけど、剣と魔法の世界って娯楽に飢えてる気がしてたけど、実際もそういう感じのようですね。
それにしても、絵本って……。内容が子ども向けにしてはかなり怖そうな話だったよね……。異世界だからこんなものなのでしょうか? あと聞いた話では女の子が旅をして成長する姿を描いた長編なんだそうな……絵本なのに大作じゃないですかヤダー。
「ふふふ。また脱線したねー?」
「はわぁっ!?」
「いいよいいよ、サキちゃんは気にしないで。説明するのわたし楽しいから。ふふっ」
「~~~!!」
アリーさんに後ろから抱きすくめられました。
ええっ、いつの間に!?
考え込んでてアリーさんが回り込んで来るのに気づかなかったよっ。
……背中にアリーさんの双つの御山がふにふにと当たっています。おおう、ほっそりとした見た目とは裏腹に実際肌で触れるとなかなかの大きさ……。意外と着痩せするタイプなのかな?
「それでー、えっと結局若い男の子は駄目だったーって話からだったね」
どうやらこのまま説明を続けるようです。私的にはアリーさんのおっぱいを堪能したいけど……。み、耳もとで囁くように話されるとくすぐったいよぉっ……。
「その後もいろいろ試したみたいで、王子の妃をーって若い娘を何度か召喚したけど、どの娘も初めは借りてきた猫のように大人しかったのにやがて男漁りに目覚めていき……。親王派の侯爵家の令嬢の婚約者を寝と…、貶めるわ。反王派の貴族の子弟を従えて夜会を毎晩開いて……。召喚者のせいでもう王国の勢力図はグチャグチャのメチャクチャに掻き回されたみたいよ。」
「う、うわぁ……」
「挙げ句のはては国庫を使い切るまで浪費癖が酷い人もいてね。『パンが無いならケルクを食べればいいじゃない!!』って演説して、本にもなったんだよねー確か。」
な、なんだってー!?
パンが無いならってマリーアントワネットじゃないですかー。
あ、でもそんなことしてたら……
「そ、それって大丈夫だったんですか……?」
「んー? ああ、国のこと?」
「うん、今も王国ってありますよね。……その、よくまだ残ってるなーって。」
「ふふふ、それが不思議とね。あの浪費癖の王妃もそうなんだけど、使うのは国庫が底をつくまで使い果たすのに、民への課税は絶対許さなかったの。だから民衆には悪評は立ってないのよねあ、貴族達は貧乏になったから逆に王妃のこと大っ嫌いみたい……。それでもね、王国が残ってるのはある意味召喚者のおかげなのよ。召喚者が王国内をグチャグチャに掻き回したって言ったよね? その後も騒動が続いちゃって今は王国の上層部はほとんど身内関係なの……。王位継承権なんて何百位まであるのかよく分からないわ。」
「……。なんか、ね……。」
これはひどい。
もう滅茶苦茶で訳が分からないよーと、私の頭は思考停止する。
ふぁぁ……♪アリーさんの柔らかなマシュマロさんに抱擁されていると多幸感が溢れますー、ふわふわな雲の上でお昼寝してる気分といいますか、もうどこかのアニマルなもふもふ達の楽園のように語彙力を落としてしまっても気にならないくらいの幸せです。
これは、病みつきになるよっ!!
ふわぁぁー、しっあわせー! ふふふー。たーのしー♪
私がトリップしていても説明は続けてくれるようだ。むー、私はアリーさんの魅力にメロメロでしたので小耳に挟む程度で聴いた分では、
――身内だらけの王宮で、あれ、これ一家独裁じゃない?僕許さないよ?って他国の勇者にいちゃもんつけられたけどむしろ王宮の団結が強すぎて外堀埋めて勇者を囲った話とか。
あと『王女さまのお友だちを召喚せよ大作戦』でワンコが飛び出てお犬様信仰が生まれたり、『第二回王女さまの(以下略』で猿とキジがロバの上に乗って出てきて大混乱に、結局サーカス団に引き取られて子ども達の人気者になった話とか。
最終的に王女さまのお友だちにはコロポックルと名のる不思議小人がなったという話とかたくさんありましたね。あ、私は最後の小人さん気になります。そもそも不思議小人ってなんなんでしょうか……?
「――繰り返しているうちにだんだん分かってきたの、やっぱり年の功かな? 召喚された賢者はみんなこの国に恩恵をもたらしていったから民衆にとって賢者は大人気なの。でもね、みんなお爺ちゃんお婆ちゃんだから…… まあ、寿命がね、今は何十年かおきに召喚するペースになってるわ。定期的にやるから、すっかりこの国と言えば賢者のイメージなっちゃってね、今では賢者召喚なんて呼ばれている、らしいよ。」
「ほへ~~ ……んぬ? らしい??」
☆
なでなで すりすり つんつん ふにふに
どうやらアリーさんの話が終わったようです。
……あれ、でも待ってください? 最後だけアリーさん、『らしい』と言ったよね? てっきり全部的確な説明をすると思ったけど、最後だけ伝聞だよね……実はあんまり広まってないのかな?
うーん……んぬぬぬ、分からないぃ。
「じ、実はねサキちゃん······」
「う、うん?」
私が頭の中でむむむーっと唸っているとアリーさんが真剣な顔でそう切り出しました。
お、思わず身構えてしまう。いったい何の話なんでしょうか······。
「実はね······私よく知らないの。さっきの話も、賢者召喚とか昨日初めて知ったんだ。」
「えっ、そうなの······えぇぇ!?」
「あっはっは。」
······
············は、えっ!?
ぬはっ、今一瞬思考が停止して口だけが勝手に動いていた気がします。
アリーさんはしてやったりと言いたげな満面の笑みでニコニコとしている。うわぁ、まんまとしてやられたようです それになんか無性に悔しい#
「さっき説明したことはほとんど王国の聖職者達が講釈垂れてきたことだよ。あの人達って、突然教会に押し掛けてきて さあ、私が賢者様を知らないと知ったら けしからんッ、けしからんッってカンカンに怒って凄い形相で詰めよって来てね、そのまま三日間徹底的に召喚とは何たるかについて徹底的に教え込まされたわ。白髪が混じるような暑苦しい聖職者が8人よ!? それも三日も、ずっとよ!! 私は、私は······、私はサキちゃんに癒されたいのよぉっ!!」
「ふにゃぁっ!?」
アリーさん今度はヒステリックですっ い、いったいどれだけ辛かったのでしょうかっ
「ふん~~ぅ、いいにおいだぁ~~よ」
「や、やめっ、ありーさん、んっ!?」
「?」
「!!?」
「っ!」
「~~~!!」
「♪」
「」
_______
「······はぁっ。······はぁっ。」
「ふふふ、サキちゃんって耳が(じゃくてん)なんだねっ」
「ひゃぅんっ!?」
「赤くなっちゃって可愛いなぁっ!もうっ!」
は、はずかしい はずかしい はずかしい。
三回となえて心のへいおん。
······うぅっ、や、やっぱりムリ~~!!