5話 Introduction さんっ
――そっか······、もう、会えないんだ······。
未熟な私でも分かる。
もう身近な大切な人達は行ってしまった。
遠く、遠く、私の手が届かない所に。
でもあの人達は私のことを思って離れていったの。
それに私のことを好きと言っていたわ。
幸せに生きろって······。
だから私は嬉しい。
嬉しい
嬉しい
嬉しい?
……やっぱり強がりですよね。別れるのは辛いです、司書さんやおじいちゃんにおばあちゃん達、それに家のひいおばぁちゃん達も…ちゃんとお礼言いたかったなぁ。いつもありがとうって。司書さんにも…大好きだよって言いたかった……。
それでもあの時ほど悲しくないのは私が成長したからなのかな?
それとも異世界に浮かれているだけ?
そうかもしれないし、そうでないかもしれない、
……やっぱりこの人のおかげなのかな?―――
★
窓が開いているのだろうか、柔らかな風が二人の髪を揺らす。少女は椅子に座った状態で目と鼻の先にある美女の後頭部をじっと見つめている。彼女の手は抱きつかれて所在無さげにさ迷ったままだ。美女は彼女の腰にやさしく抱きつき、胸もとに鼻を埋めている。
少女は先ほどまで目を潤ませて熱心に何か考えていたようだったが、やがてふっと表情を緩ませると微笑を浮かべ彼女の方からも美女を抱きしめ、その青い髪に鼻を埋めた。
「お願い、私を守って。」
――ギュッ…と抱きしめるのが返事なのだろうか。美女にやさしく、よりしっかりと抱きしめられる、そして少女もしっかりと抱き返す。
風が柔らかく吹く、髪が揺れる、時間がながれる。
まるでそこだけ切り取ったように時間が止まっている。
穏やかな風、青と白の髪、緩やかな時間。
甘い空間。
幸せな雰囲気
二人の世界
ふたりだけの……
☆
「さあ、さっそく祝福を決めてしまいましょ!」
「うん…でも祝福って?」
私はユーカさんに疑問を送ります。あ、ユーカさんは女神様のことです、本当はもっと長いそうなんですけど…(ユーレイアなんとかかんとか、だそうです。はい聞き取れませんでした…。)愛称でこう呼んでって言われたので。
ふふふ♪嬉しいですね! 親しい感じがしますよっ!!
「何この子、質問してすごく嬉しそう…うぅ、撫で回したいわぁ……。」
「うぬぅ… 説明してよー」
「ふふふ、ごめんね~。ヨシヨシ、じゃあ祝福について説明するわ。私のような世界を管理する神が……私これでも凄いのよ♪こほん。神が自分の持つ世界の住人に特別な能力や技能を与えることを言うの。でも実際どんな祝福があるか、そもそも有るのか無いのかは神によってまちまちねぇ。力が弱い神もいるし複数の神がいるところもある、仲が良い神達も仲が悪い神達もいる。ただ1つ言えることは、私はサキちゃんにとびっきりのすごい祝福をあげられるってことねっ! ふふふ、私ってて強い神様なのよ♪だからたーんとおまかせ?」
「ふぇえ~ふゅごひへっ!」
もうーっ! ほっぺムニムニしないでよ、ちゃんと喋れないじゃん! むー、でも嬉しいな…それにユーカさんのおっぱいが身体に押し付けられてふわふわもふっ!とした感触が堪らなく幸せです。ここは天国ですかーー!? …あっ、本当にそんなような所かもしれないよね……。
「さて、じゃあサキの祝福を決めるわね、といっても聖女と一緒にほとんど決めちゃったんだけどね。」
「んゅ…?」
「まずは『身体強化の祝福』ね、向こうだとサキちゃんはとっても虚弱だからね。強化しても元が弱いから一般の大人程度の力になる程度だけど無いよりはいいわ。それから『雷魔法の才能』そっちの世界でスタンガンって言うのかしら?これはサキちゃんの安全のためね。雷を操る魔法が上手に使えるようになるの……ついでに『魔力強化の祝福』も付けとこうね、サキちゃんは魔力が多いみたいだから魔力で困ることはなさそうよ。」
……もう決まってましたかそうですか。どうやら聖女――司書さんもユーカさんと一緒に考えてくれたそうです。…もう聖女様って呼んじゃおうかな? ふふっ、だって司書さんより聖女様の方がしっくりきますからねっ!
「そうだわ。いっそ魔法メインにしましょ!『無詠唱』に『魔力親和』スキルね、無詠唱は詠唱が要らなくなってイメージだけで魔法が使えるようになる、魔力親和は魔力を使う際の効率が上がる感じね、イメージの補助もしてくれるからサキちゃんにぴったりよ。……あ、『生活魔法』も入れておくわ便利な魔法よ。」
魔法が使えるようになるのですか。異世界で魔法……私、すごく楽しみですっ!(ワクワクドキドキ
「あとは『不老不死』ね聖女にもいつか会いにいってあげてね。それと不死だからって怪我したら痛いから危ないことはダメよ、そして『清潔』に『美容』…これは半分私の趣味ね、……あぁ、キョトンとしてサキちゃん可愛いわ~♡」
――え……?
「一応『偽装』も入れましょう、ストーカー退治用のトラップも用意しといたわ……。」
――えっ……!
「そして最後の目玉よー!聖女から聞いたんだけど、『WOS』って遊びをやってたそうね? うん、やっぱりそうよね、面白そうだからサキちゃんの固有スキルとして作ってみたわ。サキちゃんの記憶を元に作って自由度を持たせたから、この先サキちゃんが成長したらこのスキルもあわせて成長するからね!」
――えぇっ……!?
「それでね、サキ…、本当に最後なんだけど……『貴女に私の加護を授けます。邪かる者を打ち、仇なす敵を阻む力をその身に受け入れなさい。』……あなたを包むその光は私の加護、サキを守ってくれる大事なものよ。私のことを忘れないでね… 力を使いきってしまってもう時間が無いの……。ごめんね、サキちゃんが悲しむ顔が見たくなかったのよ、我がままなの、ごめんなさい。あぁっ、もう吸い寄せられてるっ!! サキちゃん、降りた先ではまず司祭を頼りなさい、優しくて良い娘だから安心して。そしてもしも、――ら、わた―し―ことを――て、あ――に会―――分かる―――私――――い――………。」
――え……、えぇぇえええ~~~っ!!!
私の意識は白い光に掻き消され、いつしか闇の中へ落ちていった。