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9話 夕暮れ時



 やや薄暗くなった部屋に、これまた柔らかな薄い光が、風とともに麻のカーテンをそよそよと揺らしながら、開かれた窓から差し込む。

 少女が眠っているのは、先ほどまでと同じ、教会の司祭が持つ執務室。大きめの二人掛けのソファーに寝かせられ。手前には、長方形で幅が大きめのローテーブルが部屋の中央に置かれている。窓辺には、高級とまではいかないが重厚な作りをした執務机が、まるでその存在を認められたくないかのように、ひっそりと本の小山を積み上げて控えていた。

 家具の配置的にはごくごく一般的な事務室のように見えるのだけれど。ただ、世間一般に言われる普通、の執務室と違うところは、その部屋から溢れる生活感であろうか。

 まず、目につくのが壁を埋めるように並ぶ戸棚の数々。幾つもの木皿やタンブラーが並ぶ食器棚のほかに、小物や雑貨類が詰め込まれた大小の棚がたくさん。本を入れる書棚などは、もとから少ないのか、古びた本が収納された棚が一つのみであった。

 ローテーブルには水玉ドットが染め付けられた大きめのテーブルクロスが敷かれ。ソファに横たわる少女の白い髪の下には、草花の模様アラベスクをあしらったクッションが柔らかくその頭を受け止めている。

 彼女に掛けられた毛布を見て、ふと、部屋を見渡すと、なるほど部屋の隅に置かれたラックには折り畳まれた毛布が何枚か積まれている、ここから取って掛けたのだろう。そして、誰かがこの部屋で毎晩、寝泊まりしているのは間違いないし、部屋に生活感があるのは、実際にこの部屋主――あの司祭、アリューカ――が住んでいるからなのだろう。


 窓から流れ込む風が、そよそよと寝ている彼女の髪を揺らす。

 教会の周りの家屋からだろうか、夕餉の準備も佳境となりつつあるのか、僅かに、ほんの僅かに湯気の香りが彼女の知覚を呼び覚ます。


 窓から外を見てみれば、太陽の姿は既に遥か遠い地上に落ちて。光は青く、空は濃く、今は夕暮れ時に差し掛かりつつある。





 …………すー……ぴぃ…………すー……ぴぃ……

 


 コトコトコト~



 すーぅ……んっ……


 

 コトコトグツグツ 



 んーー………あと十分………ん?



 パチクリ クンクン



 あれ? おー?

 えっと……。確か――そう。アリーさんの部屋にいるんだっけ? いつの間にかソファに寝かされていたみたい。

 何かを煮込んでいるのかな? コトコトと小気味良い音が聴こえてくるし、何だかいい匂いもする。ふと隣の部屋への入り口を見ると、灯りが漏れて来ているのが垂れ布の下から見えた。どうやら音と匂いはもう一つの入り口から漂ってくるようだね。

 

 今、私がいるこの部屋には出入口が二つあります。

 廊下側に繋がっている扉と、隣の部屋とをつないでいる通路の二つ。隣の部屋とをつなぐ出入口は扉じゃなくて織物のようなもので垂れ布をされている。例えるなら長い暖簾(のれん)をたらしたようなかんじ。 


 この部屋をアリーさんに案内して貰ったときに隣の部屋は以前の司祭様の生活スペースだったと教えられたんだよね。

 アリーさん曰く、隣の部屋と前司祭様の執務室をアリーさんがリビングとして改造したこの部屋を併せたものが、今の『アリーの家』らしい。

 まったく、司祭(シスター)なのにやりたい放題だね! アリーさんっ!


 

 スンスンスン~



 アリーさんは前司祭さんの住まいだった部屋を炊事場として使っているみたい。

 

 それにしても、いい匂いだなぁ……。



 ふむぅ……。



 匂いで段々目が覚めてきたのかもしれない。フッと頭に記憶のイメージがよぎりました。(おおッ! 私、今頭冴えてる!

 そういえば寝かされる前にアリーさんに沢山からかわれてたんだったね。


 ――ふふ♪ アリーさんなんだかノリノリだったなぁ。


 黙ってれば凄く美人で、麗しのシスターさん(司祭)なのに――清楚で気品のあるすべやかな黒のワンピースに身をつつんだ、一見清らかそうな人なのに――口を開くとあの自由奔放な性格が出てきて、全部台無しにしちゃってるあの残念さのギャップが衝撃だったよ。

 でも、それが堪らないんだよねー。……そこが、好き、なのかな?


 なんだかアリーさんのこと考えてると胸がジーンって温かくなってくる。

きっと年の離れた仲の良いお姉ちゃんとか、家族、みたいな雰囲気で、そんな関係にアリーさんのことを映しているのかもしれないね。

 ……どうしよう、そう考えたらもうアリーさんが家族にしか見えないや。私の中でアリーさんという人がちゃっかり居座っちゃったよ――アリーさんのこと今度から名前だけ、で呼んでみようかなぁ。


 ア、アリーさん。 アリーさ、んん"。

 あー あー ありー、あーりーぃ。 ……ア、アリー?

 ~~~♪ やた! よーし アリー……ふふふ! これでアリーさんに言うぞ~! ムフフフフ、ムフーン! ふふふ、ふ? ………あっ。



 ――あっと、そうだ。結局どのくらい寝ちゃったんだろう、時計はどこかにあるかなー?

 


「んー……見た感じ無さそうだねぇ、時計」


 

 部屋をさらっと見てみたけど、時計はありませんでした。ここは時間を気にする日本人って感じを出したいところ……なんだけど、残念ながら私にそんな習慣は無いのです。

 そもそも、いつも図書館へ通う毎日で、高校にも通ってないからね、学生の細かいスケジュールとか縁がないのですよ。うむ。

 せいぜい、「朝はこの時間に出かけるかなー?」というくらいで、帰りは閉館の時間(なんと、ちゃんと定時で開館しているのだ! 人いないけど! )にお爺ちゃん達とか時々司書さんと一緒に帰るから、時間をあんまり気にしたことないなぁ……。あ、そもそもあそこ時計あったっけ? いつも本で《ごちゃごちゃ!》っとしてるから見かけなかったよ。

 時計よ、いったいお前は何処行ったよ――


 窓辺に近寄って外を見ると、ムラサキ芋な色に染まった空の下で、「まだ沈まないよー」と抗っているのでしょうか、夕陽の光があたりを照らしています。

 石造りの教会の二階から見てとれるのは、陰影がはっきりとした影をその屋根や細やかな装飾に落とした礼拝堂と、おまけのように載せられた小さな塔。そして、その足下にあるこぢんまりとした可愛らしい中庭くらい。

 この教会は見える限りでは《L字》の形をしているようです。


 今いるアリーさんの部屋が、下の底辺|《_》の右端あたり。

 そして左上の棒|《│》が礼拝堂ですね、吹き抜けの二階建てになっていて、中の様子がステンドグラスを透して見えます。ここが私が《秘密の間》から這い出てきたところなのでしょう。

 その右上の空間が中庭と考えれば、それが簡単な見取り図です。

うん、スッキリ明解。これで教会の形もサッパリ解決ですよね ……ん?解決したのかな? 

 さっぱりサッパリだね。。。


 あ、それと教会の周りの建物は屋根が見えるし、この辺りで教会は比較的大きな建物のようです。

 私が今居るのが教会の二階なので、そこいらに見えるのは地上一階と屋根裏つき建築でしょう。私の目は誤魔化せませんよ!(上から目線

 家の作りは統一されているようではなく、レンガ造りであったり、漆喰のようなもので石を繋ぎ合わせた造りであったり、切り出した石を綺麗に積み上げた造りだったりで様々。……なんというか、歴史ある街?って感じがプンプンします。何度も何度も建て替えていろんな時代の建築が入り乱れている……ごった煮みたい? それに、見渡すだけでもかなりの大きさを持つ街のようで、文化レベルもなかなか高そうです。

 いかにも、いかにも、中世な街並みにファンタジーの世界というよりは、タイムスリップした感覚を覚えますね。



 ……。


 …………。


 バッ、……ブンッ


 …………



 何となく、何となーく! アリーさんが突然背後に現れるような予感がして後ろを振り返ったのですが。気のせいでした。

 それよりも今の行動がなんだかとってもイタい子な気がして、絶賛ただいま内心悶えておりますぅ! キャー恥ずかしいー! でも、内心ってここじゃないのー!? 

 ――わ、わたし、いま物凄く電波な子で痛い子じゃないですかヤダー(ガクブル


 ああ、やはりファンタジーの世界で興奮冷めやらないのね私、でも、駄目よ紗紀。こんなことで一々興奮していたら、この世界でやっていけないわ。キリッとしなきゃ。

 ――そんでもって、この私の精神衛生を保とうとする行動その物が痛い子なんですがそれは――!!(グフッ

 い、いけない、突っ込んではいけない……。(うるうる



 内心の格闘を始めてから少しして、ふと。先程まで部屋に漂っていた《グツグツ》といった音が止まっていることに私は気づきます。


 そして――


「―― ――うん、関係ない、やっぱり可愛いは正義ね。」


「んぇっ?」


 話題の人の声が聴こえて後ろを振り返る。


「あれ? いない…ひゃぁっ!?」


 後ろから聴こえたので、振り返ったらいる筈なのに。いざ、振り返って見ると、何故か誰もいない。

 あれぇー? と思って、二度見でもしようかしら、と顔を前に戻してみたら視界に飛び込んで来たのですっ。

 黒い髪! 白い肌! そして、黒い目!

 わーお、アリーさんじゃナイデスカー。ハハッ。


「ふふふっ……。あ、晩ごはんできたよ。」


 シスター服の上にエプロンを着て。両手でお鍋を持ったアリーさんは相変わらず、掴みどころのない素晴らしい笑顔を浮かべていらっしゃいました。






○●○●○●○●○●


サ:――――えぇっ、いつの間にそんな所に⁉

ア:えー、秘密ー♪

サ:ひ、秘密って……。

ア:あ、そうだ。サキちゃん、ってなんか呼びにくいから、サーちゃん、って呼んでいい?

サ:……!? ふおぉっ、はいっ、勿論ですよっ!

ア:んー? なんか知らないけど、喜んで貰えて良かったよ。サーちゃん。

サ:あのー、わ、わたしもアリーさんのこと、その……アリー、って呼んでいい?

ア:――! ふふふ、いいよー。

サ:ふぇぇ♪ あっ、ありがとー! ありー! ふふっ♪ふぇ♪

ア:……。


(こ、これが胸キュンという奴なのね……。)




 愛称キタ━(゜∀゜)━! と主人公は心の中で叫んでます……。

 心内描写が難しいで……。はぁ、誰かツッコミと描写力にステ振りしてくれないかな……。(他力本願

______


 図書館の開館時間は9:00~18:00です。なお昼の時間帯は休憩タイムになって機能停止する模様……だって一人しかいないもん。

 ――元司書(現聖女)の生活リズムがチラリズムですね。(?)

 聖女様は「私だってオシャレな外食したい」と仰ったとかなんとか。


 司書は近くの職員寮(同棲先)に住んでいまして、そこから出勤しています。……いったい誰があの図書館の資金を出してるんだか。国か……。いやそもそも、認知されてないから職員が一人なのか、そうなのか……。

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