万能神、出会う。
その村には、龍にまつわる伝承があった。
ーここよりもっと北の村に、漆黒の龍がいる。なんでもその龍は一月に一度、人間の女子を生贄に要求するらしい。龍が村を襲わないこと、そして、魔物やモンスターから村を守ることと引き換えに。
対して、我らの村の龍は純白である。生贄など捧げても仲良く遊んだかのように泥まみれになって日没には帰ってくるし、村で催しがあると村に降りてきて人々と談笑する。漆黒か純白か。それだけの違いで、どちらも龍に変わりはないのに。-
その村、白龍村は、喧騒に包まれていた。
「被害はどれくらいだ!」
「こっちに包帯が足りない!持ってきてくれ!」
「今助けるぞ!」
鎧を身に着けた人が、到底戦闘に適さない服装の人が村を走り回っていた。
「なにごとかしら・・・」
「なにかあったのかな・・・」
村についたが尋常ではない村の様子に立ち尽くす二人。
「あの、何かあったんですか?」
比較的軽傷の女兵士に声をかける
「国から勅令があってな。あの山に巣くうドラゴンの討伐を命じられたんだがー」
「あんなのはドラゴンなんかじゃない?」
「あ、あぁ。あれは確かに目標なんだろうが、果たして倒してしまってよいのか・・・」
「どういうこと?」
「あれとの戦闘を始めてもう二日も経っている。それなのに死者が出ないんだ。」
「部隊長の指揮が良いのかもしれないが、どうも引っかかる。」
「あれは良心のあるドラゴンだと?」
「・・・・・ 言った通り我々は勅命を受けている。王には反逆できない。」
「なるほどねぇ・・・ 事情はわかったわ。」
「オーエン?」
「取り合えず、見に行こう?そのドラゴンってやつを。」
「これ以上戦闘が長引けば被害が拡大するだけだろう。頼む。」
「頼まれなくても」
「私たちに任せて!」
そう言って二人は件の山に足を向けた。
兵が兵に担がれ山を下りていく中、悠々と上っていく二人。
しばらく上ると開けた場所につく。
炎に揺れ、一層激しくなった喧騒に囲まれた場所に。
「中々しぶといわね・・・ 人間・・・」
「そっちこそ・・・」
「あれは・・・?」
龍の翼を背中からはやした女と、鎧を着、二枚の盾と剣を浮遊させた女が対峙していた。
「あなたが王国の?」
「そうです。私はクロエド・ルブラーチェ本作戦の総指揮監督です。 旅の方ですか?」
「えぇ。私はオーファンズ・スカーレット。こっちはー」
「オーエン・スカーレットです!」
「お手伝いしていただけるのですか?」
「そうね。あとは任せてもらおうかしら。」
「いえ、これは、我々の任務ですので。」
「私たちの戦闘に巻き込まれれば、その盾があっても命の保証はできないわ。」
「下で兵士が待ってますよ?どうぞ、休憩してください。」
「しかしー」
「・・・・・・」
オーファン、無言の圧力。
「わかりました。お二人もお気をつけて。」
「えぇ。」
「ありがとー!」
「もう、いいですか?」
「待たせて悪かったわね。私はー」
「オーファンズ・スカーレット・・・・」
「あら、ご存じとは」
「さっきの会話が聞こえただけですよ。」
「あなたは・・・?」
「私はリア・バハムート。龍帝の純血の末裔です。」
「しかし、創造神の名を冠するあなたが王国に肩入れですか?」
「笑えない冗談です。」
「いいえ?寧ろあなたを助けに来たようなものよ。」
「平静を装ってるけどだいぶギリギリなんじゃないの?」
「お見通しですか・・・」
「下の村で兵士から大体の話は聞いたわ。」
「あなたがもしかしたら悪い龍じゃないっていうこともね!」
[もしかしなくても、彼女は善い龍ですよ]
「この声はいったいどこから!?」
[私はアンフィス。遠隔で話しているからそこには居ません。]
[龍に関する伝承の一つにそれを語るものがあります。]
「・・・・・」
二人はアンフィスからこの村の龍の伝承について聞かされた。
[1日、2日で変わるものなんですね・・・]
「はい。我々龍は生き物を傷つけるだけでその白かった身体が黒く染まっていきます。」
「故に、純白の龍は慈愛の象徴。漆黒の龍は暴虐の象徴として拝められてきました。」
「あなたはどっちつかずの・・・ 灰色なんだね」
「2日前までは純白だったのです。」
「じゃあ、王国の兵士を相手にしている間に?」
「えぇ。バハムートの一族は代々純白を守り、人々と暮らしを共にしていました。」
[バハムートの血族は純白の龍では名門ですね。]
「しかし、2日前、突然王国の兵士が突撃してきて・・・」
[純白の龍なら抵抗しないと思ったみたいだね。国としての信用を上げたかったらしい。]
「もし、龍の伝承が知れ渡ったら、それこそ信用問題だろうに。」
「それで?私を助けるという話でしたが?」
「うん。私たち、旅をしているんだ」
「旅ですか。いいですね。」
「何を言っているの?あなたも一緒に来るのよ。」
「助けていただいて申し訳ありませんが、それはー」
「ただではできない。でしょ?」
「はい。バハムート一族のしきたり・・・ 様式ですかね。」
「戦って実力を示せばいいの?」
「はい。」
「かかってきなさい?バハムート」
「かかってくるのはあなたたちです!」
「まず、私から!『シェルガ』!」
オーファンとオーエンの二人を対魔法壁が包む。
「魔法防御強化ですか・・・ でしたら・・・」
「『ドラゴンダイブ』!」
空を旋回したバハムートはオーファンめがけて突っ込む
「あっぶないわね・・・ 私じゃやなかったら当たってたわ。」
「次は私ね『災厄殺しの舞剣』」
「!? それはさっきの!?」
「クロエド・ルブラーチェ。災厄殺しの災厄・・・」
「でもそれは、もう知っています!『災厄殺しの舞剣』!」
「なんと!」
2つの同じ技がぶつかり合って対消滅する。
「あなたは一体・・・?」
「原初のバハムート。最後を飾る終幕のための龍。私はその先祖返りだそうです。」
「というと?」
「いえ、どうということはありません。ただ、たくさんの方の切り札が使えるというだけ。」
「十分異質よ。」
「でもあなたは私を拒まない。ですよね?」
「当り前よ。私のほうがもっとずっと異質だもの。」
「ふふっ そうですね。」
「もういーい?『光の矢』!」
「ほっ」
光の矢をバハムートが片手で掴み止める。
「お返しします!」
バハムートが光の矢を思いっきり振り打ち出した。
「いらん!」カッキーーン!!
オーファンがバットのようなもので打ち返す。光の矢は何倍もの速度でバハムートへと帰っていく。
ズドオオォォォン・・・
「なんてめちゃくちゃなんでしょう・・・」
「あなたが言う?」
「そうですね。」
「名残惜しいですが、もう終わらせましょう。私の魔力の尽きそうなので。」
「名残惜しくはないわ。私たちが勝って、あなたはに仲間なるもの。」
「期待していますよ・・・」
「先達よ、力を借ります。純白の龍に光あれ!」
「あまり無粋なことはしたくはないのだけれど、仕方ないわね・・・」
「《メガフレア》!」
「『天地乖離す開闢の星』」
「なぁっ!?」
オーファンのそれはメガフレアを易々と打ち壊した。バハムートは異常な魔力増幅を感知しその場から退避していた。空は裂けていた。
「やりすぎです!!」
「いや、ついね?」
「あなたがやっても可愛くはないです。」
「辛辣すぎないかしら?」
[ちょっとちょっと! 何事!?]
「ちょっとね。」
「[ちょっとじゃないです!]」
「え? お終い?」
「はぁ。はい。まぁ。一応?」
「しきたりに従って仲間になってくれるって。」
「まぁ、あなたたちといれば退屈することもないでしょう。それに」
「それに?」
「私がここに留まっていればまた王国が攻め入り、村に迷惑が掛かりますから。」
「優しいね。」
「伊達に慈愛の象徴してませんよ。」
「行く前に村に挨拶をしていきたいのですが。」
「わかったわ。じゃあ、少し村でゆっくりしましょうか。」
「あ゛~~ 疲れたぁー」
「お疲れ様です。」
「誰のせいだと・・・」
「あー あー 聞こえませんねー」
3人は村に着くまでそんな他愛のない話をしながら山を下りた。
「村長。今までありがとうございました。」
「本当に行ってしまうのかい?」
「はい。次いつ王国の兵士が来るかわからないので。」
「そうかい・・・ 餞別もなにもありはしないが、元気でな。」
「おねー様!さよなら!」
「村長、その子は?」
「兵が去ったあとどこからか迷い込んだみたいでの。」
「純白の・・・ あなた、お名前は?」
「?」
首を傾げるだけで答えようとしない。
「もしかして、忘れたの?」
「うん」
「村長、私がつけても?」
「構わんよ?」
「では。あなたは今日から、カレン・バハムートです。」
「カレン・バハムート・・・」
「私はもう、バハムートの純白を失ってってしまいましたから。ー」
「わたし、大好きなおねー様みたいになる!」
「・・・・ はい。この村と、バハムートの純白をお願いしますね。」
「うん!」
「もう挨拶は済んだの?」
「はい。お待たせしました。次はどちらへ?」
「さぁね? 近くに街とかない?」
「村から出たことないのでー」
[一番近いのだと、そこから北にエイヘル帝国がありますね。ちなみに、南にずっと行ったところにあるのがアルダルテ王国ね。]
「・・・・・」イラッ
「帝国かぁ・・・ あまりいい印象ないよねぇ」
[いえ、いたって平和ですよ。王国と緊張状態にある以外は。]
「衝突は避けられないか。」
「とにかく、今日はもう寝ましょう。明日のためにも。」
「そうね。」
「で、私が真ん中なのは?」
「あなたがお金をケチってダブルベッド一つの部屋にしたからです。」
「1人は寂しいってオーファンが言ってたよ」
「あぁ、そういうことですか」
「なによ。 なににやにやしてるのよ」
「いいえ? 可愛いところもあるんですねって」
「うるさいわね。早く寝るわよ」
「「はーい」」
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「よし。私の出番はここまでだな。」
とある研究所で白衣の女がつぶやいていた。
「やっぱり感情の導入なんてできる気がしないな。」
「流石は我らが師匠の一番弟子といったところか。」
カプセルの中で液体漬けにされた少女を眺めながら。
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(もしかして、オーファン、あなた、本当に寂しがりなんですか?)
(そうよ。悪い?)
(ふふっ いいえ?)
(なによ・・・)
(・・・ もう、寂しい思いなんてさせませんから。)ギュッ
(ちょっと・・・ くるs)
(・・・)チュッ
(なっ・・・!)
(おやすみなさい)
(っ・・・はぁ おやすみ)