プロローグ 前編
《オーファンズ・スカーレット》
これは私の名前。
前と後ろでそれぞれ聞いたことがあるかもしれないが、ソレとは一切関係ない。これから出てくるであろう[どこかで聞いたことがある]名称、事象もソレらとは関係無いことを断らせてもらう。物語の代表として。
私は、全てを操り!全てを読み!全てを扱う!事が出来る。つまるところ、万能の神、万能神なのだ。これは、周知の事実であり、背に浮く幾重にも重なった円環が物語ることだろう。なに?見えない?想像しろ。
「誰に話しかけてるんだ?また、姉さんの変な癖が出たか…」
また、とは何事か。失礼な。
「物語を始めるには、冒頭が必要でしょ?」
「あー、はいはい。」
コレは実の弟にあたる《デストロイド・スカーレット》万物を破壊する力を持っている。とは言え、私の弟だ。そうそう悪いことは出来ない。ここまで、真っ直ぐ、誠実に、その力を正義のために振るわんとでもするかのように育ってくれた。有難いことだ。本当、名前負けしてるとは思うよ。
因みに、両親は居ない。神だからかな、記憶にある内には両親の顔はない。この世界を作った覚えも無い。不思議なものだ。
「んで? 今日の昼飯は何にするつもりだ?」
「んー? そうだなぁ… ん?」
言葉半ばに不意に空を見上げる私を不審がらない筈もなく
「どうした、姉さん。また誰かぁ… あ?」
遠い遠方。頭痛が痛いみたいな言い回しだが、そのくらい遠く、身体強化呪文無しに肉眼でも視認出来るほどに大きく、空が割れていた。
「仕事かな。少し見てくるよ。昼、回ったら先に適当に食べてな。」
「はいよ、気をつけていってこいよ。」
「そうね、いってくる。」
私はなんでも出来る。その力をつかって、便利屋みたいな仕事をしている。万屋とかそんな言い方をする奴もいる。
道中で妙な少女に遭う。
今日は言うほど寒く無い。それなのに、マフラーを巻いていた。さらには両肩から大きめのマントを羽織っている。天使の輪?が頭上に浮いていた。
「あなた、この先に用があると見たわ。」
「あぁ、この先の空が割れるのを見た。何かが起きてからだと困る。解決に向かう所だ。」
本来、私はわざわざ近づいて、見て、調べる、なんて事はする必要ないのだ。家から、遠視能力、探査能力、修復能力でも適当に撃って終わることもできる。
だがしかし!それは私のアイデンティティに反する。こうやって事件が起きることで、誰かしらが活躍する。その邪魔はしない。鑑賞し、干渉する。それが、私の、生きる道。とか、いってみる。
彼女の名は、《オーエンズ・スカーレット》彼女も空が割れるのを見て異変を感じたんだそうだ。
長いので、オーエンと呼ぶように言われた。
「なら、丁度いいわ、」
「なんだ?手合わせか?」
少し食い気味に台詞を挿す。
「なんでよ。あなたとの戦闘に価値があるとは思えないわ。」
ギャグを真面目に返されてしまった。
少し悲しい顔をする。
「冗談よ。 そうじゃなくて、一緒に行きましょう?」
実際問題、仲間は必要ない。だが、頼る。例え私が独りで万能だとしても。
確かな理由は少なくとも1つ。神とは言え、心がある。これは人間に準ずる。神が人に敗れるのには、仲間や友、心という2つの要因が大きいからだ。
「分かった。断る理由もなしな。」
軽く自己紹介を済ませて足早に目的地へと向かう。空を悠々と飛びながら。
飛んでいると怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前1人じゃどうしようも出来ないだろ!行くなとは言わないが、俺も行くぞ!」
「あんたの助け無しで、私の力を見せるって言ってんの!邪魔しないで!」
「………」
おいおい…私が今、地上からどれくらいかは知らないが、だいぶ高いぞ?ここまで聞こえるってどんなだよ。
「何かあったのかしら。気になるわね、行ってみましょう。」
「いや、ああ言うのは関わらない方が…」
言い終わるより先にオーエンは声のする方へと向かう。
片割れの女の方が空を操る《レディアント・ラフィアナ》、
片割れの男の方が大地を操る《アデストヴァイ・シラトガ》。
そして、その間、一歩下がって事の顛末を見守っていたのが、天地を操り、三人の中でも最も強い力を持つ《フラグラナ・アルティマリア》。
話を聞くとどうにも、女の方が自分の力を示すと言って聞かないらしい。
「懐かしいな?フラグラナ。あれ以来、全然顔を見せないじゃないか。」
オーファンがフラグラナと世間話めいた会話を始める。事を他所に。
「その節はお世話になりました。」
フラグラナは激昂すると自制を忘れて暴走してしまう。過去に一度世界を滅ぼしており、その際にオーファンズ・スカーレットに世話になった。
普段は大人しく、面倒見がいい、良い子なんだけどねぇ…
「じゃあ、この人と戦えばいいよ。きっとこの先で待ってる元凶よりも遥かに強いと思うわ?」
「「…え?」」
言葉と言葉の間、オーエンが放った言葉が耳を通る。
オーファンが自分の力が彼女に筒抜けになってるように思えた。
「その様子だと本当に強いみたいね。鎌かけてよかった、じゃ、2人の相手、よろしくね?」
ほう?神に鎌をかけるとは、いい度胸じゃないか。
口には出さない。出さない代わりに、相手2人を全力で叩き伏せる。ストレスの為に。
「先手必勝!『落天界滅』!」
「俺も続く!『割地界滅』!」
2人はその場からほぼ動かないまま持てる最大の魔法を放つ。
「天から降りたる無限の星と悲鳴が如く鳴り止まぬ大地か。うん、壮観、壮観。」
空から流星群よりも遥かに多い隕石が降り、大地は世の終わりを告げるかのように割れていく。普通の人間が見れば、畏怖叫喚して逃げ惑う事は愚か、死ぬ以外に道はないだろう。
しかし、彼女は冷静だった。
「ん? あれ!? 詠唱が出来ない!」
「なんだ?貴様、何を?」
2人を突然の混乱が襲う。途端に降り注ぐ隕石は消え失せ、割れ行く大地は元の優しい緑に身を任せていた。
「私がかけたのは『沈黙』なんだけどね。」
「『沈黙』ですって⁉︎ そんなの、初級の魔法使いが序盤で覚えるような!」
「しかし、俺たちはこうしてまんまと嵌り、為すすべもない、か。」
「流石ですね。もしかして、最後に会った時より強くなっています?」
「私も成長するってこと。」
オーエンは何が起きたか分からないと言う顔で硬直していた。
「? ⁉︎」
「あ、気がついた? 先を急ぐよ?」
オーファンの強さを目の当たりにした2人はこの件を彼女に託した。特に、レディアントは自分の管轄下で起きた事なので、強く託されていた。