8 今後の計画
その日、俺は宿の主人と交渉した。
「あの、俺、魔物使い的な特性があって、モンスターが多いんです。庭をしばらくの間、お借りできないでしょうか?」
モンスターをぞろぞろ引き連れて出歩くというのは、さすがに変な目で見られそうだし、かといって常にアイテムにしてしまうのも悪い気がしたのだ。
「君は腐り豆のよさを理解してくれた同志だからね! それぐらい問題ありませんぞ!」
納豆を認めただけで、この主人、ちょろすぎるだろ。
まあ、ありがたいからいいけど。
「じゃあ、納豆……腐り豆アレンジメニューを教えますよ」
一つ、料理をレクチャーしてみた。
生地で包んでフライにすると、多分においがちょっとやわらぐ。
といっても、俺自身はにおいが気にならない人間だからあまりわからないんだけど。
「おお! これはおいしい! ありがとうですぞ、同志よ!」
勝手に同志にされている。
ちなみに生地で包んで揚げたものはアルコもどうにか食べられた。
「う~ん、食べられはするけど、腐ってるっていうのがどうしても抵抗あるわね」
「まあ、腐敗ではなくて発酵なんだけど。あれ、腐敗と発酵って原理はまったく同じだったっけ……」
なお、この宿は親父さんがメシを作ってくれる。ただ、チーズとか発酵食品を使ってる割合が多い。
納豆も含めて、この店主、発酵マニアだな……。
「これからどうしようか」
食事中、アルコと今後の相談をした。
「まずはお金を貯めないとどうしようもないんじゃない?」
それはぶっちゃけそうだな……。
何をするにしてもお金がないと先に進めない。
「別に普通に働いてもいいけど、あなたの能力を考慮するに、冒険者をやるのが一番だと思うわ」
「うん、それはそのつもりだ。でないと、アルコとも戦えないしな」
アルコを絶対に剣にしないといけないわけでもない。ほかにも武器はネズミのナイフとか軍隊蟻の剣とかがあるわけで、それを使うのもいい。
「そうね、剣じゃない時の私の実力も見せたいし」
今まで二人で戦ってるような、ピンで戦ってるような微妙な感じだったし、正真正銘の二人でのバトルもしてみたいな。
「よし、じゃあ、俺は冒険者として生きていく!」
「だったら、明日はまっさきにしないといけないことがあるわね」
「そうだな、もっともっと戦闘してお金も稼がないとな!」
「違うわよ」
なんだ、違うのか……。
「ギルドに登録しておいたほうが何かと便利よ。野良冒険者を忌避する人もいるしね」
「ふうん。なんか、野良だとデメリットみたいなものもあるのか?」
「たとえば、野良冒険者だと外で拾ったアイテムもあまり高い値段で買い取ってもらえないの。どこにも登録されてないから信用がないのよ。どこかから盗んできたものだとしても、ギルドに登録してなかったら、訴えようもないでしょ」
「つまり、ギルド登録っていうのは戸籍みたいなものか」
たしかに冒険者なんて無茶苦茶うさんくさい職業だから、保証みたいなものはあったほうが絶対にいい。
「そういうことね。ついでに私も登録しておくわ。盗賊には不要なものだけど、まっとうな冒険者をやるには登録しておいたほうがいいし」
「了解。じゃあ、今日はとりあえず寝るか」
あまりにも高密度すぎたので、かなり疲れている。
しかし、俺の表現はちょっと語弊があったらしい。
「ね、寝るって…………へ、変な意味じゃないわよね……」
アルコが顔を赤くしている。
その様子を見て、俺も急に落ち着かなくなった。
たしかに女の子と同じ部屋で寝泊りするのだ。
「あ、当たり前だろ! 俺は紳士だからな! あ、安心してベッドで寝てくれ!」
「そ、そうよね……。ごめん、ちょっと過剰に反応しちゃったかも……」
あと、スライムがぴょんぴょん真上に跳ねていた。
「お前も部屋で寝たいのか?」
ぴょん、ぴょん。
おそらく、同意しているんだろう。そう解釈していいはずだ。
「ちゅう、ちゅう!」
ネズミも前足を挙手みたいにあげている。
さっき、ナイフからまた元の姿に戻ったのだ。
「まあ、ネズミぐらいなら部屋に入ってもいいだろうけど……」
「ちゅう! ちゅう!」
「わかった、部屋に来い」
「ちゅう!」
「よかったわね、喜んでくれているみたいよ」
「うん、そうらしいな」
とくに飼い主らしいことをした覚えもないんだけどな……。
「せっかくだし、ネズミに名前をつけてあげたら?」
「名前か……。じゃあ、ちゅうちゅう言ってるし、チュウベエ」
安直な名前だが、漢字にすると忠兵衛になるので、悪い意味ではない。
「ちゅう!」
気に入ってもらえたようでなによりだ。
「じゃ、スライムにも名前をつけるか……」
さて、どういう名前がいいかな。
「アルコ、何か案はないか?」
「アンデル・ユニコ・サルート一世っていうのはどう?」
「じゃあ、青色してるから、ブルータにしよう」
「ちょっと! なんでナチュラルに無視したのよ!」
「名前が大仰すぎる。しかも呼びづらい。戦闘の時にそんな名前、発音できんだろ」
ぴょん、ぴょん!
「ほら、ブルータも喜んでくれてるぞ」
「しょ、しょうがないわね……」
アルコも納得してくれた。
その日、俺の体の上にはスライムのブルータが、膝のあたりにはネズミのチュウベエが寝ていた。
なんか、ペットが急に増えた感覚だ。
翌朝。
俺はチュウベエに触っていいか確認してから、手で触れてみた。
チュウベエはまたナイフに変身した。
どうやら、その装備を持ってない限り、同じモンスターを何度でも装備品に変えることができるらしい。
「ありがとうな、チュウベエ。大切なことがわかった」
「ちゅう!」
ナイフが鳴いた。
帰宅が遅くなって日が変わってしまいましたが、明日も二回更新したいです!