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7 実質、仲間モンスター

 スライムは俺の脚にすりよってきた。


 暑苦しいようだが、見た目がブルーなので涼しげでもあり、プラマイゼロだ。


「まさかスライムになつかれるとはな……」


 人生、いろんなことがあるもんだ。


 せっかくだし、頭でも撫でてやろうかと思ったが、手で触ったらまた鎧になってしまうかもしれんよな。

 ていうか、頭ってどこなんだよって話だ。


 スライムはしゃべらないので何を考えているかは不明だが、まったく攻撃をしているようではないので、ひとまず無害だ。


 これが動物ならなついていると認識していいような行動をとっていると思う。


 そして、このスライム復活の現象はほかのところにも影響を与えた。


「希望の光が見えてきたわ!」


 アルコの声のテンションが明らかに高い。


「時間が経つと元に戻るってことなら、もうすぐ私も戻れるのよね! やったー!」


「よかったな。俺としても罪の意識を抱かずにすむ」


 数時間のことなら、割と気楽にモンスターにタッチできるな。


「お前に殺されかけたけど、お前のおかげで命が助かったのも事実だ。これでチャラだな」


「ちょっと、何をいい感じでまとめようとしてるのよ――と言いたいところだけど、たしかに今更あんたと戦う気にもなれないわ」


「わかった。元に戻ったら盗賊団にでも復帰してくれ」


 盗賊団というからには犯罪者集団なわけだが、俺にそれを留める権利はない。


「そのことなんだけど……私、盗賊団に戻るつもりはないのよね……」


 アルコの声は少し小さい。


「えっ? どういうことだ?」


「腕に自信はあったからワーウルフの同志を集めて、盗賊やろうとしたけど、しょっぱなから剣にされたりするし、これは悪いことはするなっていう天の声じゃないかなって思うのよ。それで……」


 アルコの声が少し照れ気味に聞こえた。


「よかったら、このままあなたと一緒に旅でもなんでもさせてくれない? あなたは悪い人じゃないってことは話しててわかったし……」


 まあ、自分は悪人ではないとは思うが。悪いことだと信号無視ぐらいしかしたことないと思う。


「じゃあ、戦闘の時は剣として生きていくってこと?」


「毎日、剣っていうのは困るけど、常に戦闘があるってわけじゃないよね。それに私のほかに剣になったモンスターもいるでしょ?」


 たしかに、たとえば軍隊蟻に触った時に入手した剣がある。ナイフになったネズミもいる。

 もちろん、今後もモンスターと戦ううちに武器にできる奴が出てくる可能性も高い。


「ありがとう、アルコ。じゃあ、これからもよろしく」


 剣に向かってしゃべると気持ちが伝わりづらい気がしたので、アルコの剣を持って、語りかけるようにした。


 相手が人間だったら抱きかかえるような格好なのかもしれないが、剣なのでそういう恥ずかしさもない。


「ええ、こっちも頑張るわ。ところで、あなたの名前って何?」


 そういえば、ずっと話してなかったな。


「吉田アキラだ。アキラって呼んでくれ」


「わかったわ。アキラね」


 と、そこで――


 アルコが突然人の姿に戻った。


 やっぱり時間制限があるんだ。


 それはいいとして――俺が剣を持っている時に人間に戻ったものだから――


 寄りかかっているアルコを俺が支えているような姿勢になっていた。


「うわあああああ!」

「ひゃあああああ! 近いって!」


 それで、アルコを支えられなかった俺はそのまま押し倒される。


 見事にアルコにのしかかられる格好になった。


 正直、痛いとかそんなことを考えてる余裕はなかった。


 アルコの顔が俺の顔のすぐ近くにあるのだ。


「な、なによ、これ……。恥ずかしい……」


「うん、俺も同じ意見だ……」


 ここまで女子と密着したことはないので、かなりどきどきする。


 しかも、盗賊団の親分だったとは思えないぐらいにいいにおいがする。


「は、早くどいてよ……」


「いや、アルコがどいてくれないと、こっちも移動できない……」


 アルコはそのあとどいてくれたが、正直お互いにかなり動揺していた。


 まあ、動揺するのはしょうがないので、時間が経って気にならなくなるのを待とう。



 そのあと、宿の店主にもう一人宿泊者が増えてしまったことを伝えに行ったが、


「あ~、同じ部屋に泊まるなら三日はタダでいいですぞ。ああ、ベッド足りないからほかの部屋から移しておくですぞ!」


 と、あっさり了承を得られた。

 本当はスライムもいるんだけど、それはややこしくなりそうだから黙っておこう。

 現状、破壊活動を起こしそうもないしな。


 でも、そこで、ちょんちょんとアルコが俺の脇腹をこづいた。


「ねえ……そのうち、蹂躙牛とかも元に戻るんじゃない……?」


 本当だ……。

 これは黙っているのはまずい。


「あの、実は俺、魔法でモンスターの形状を変えたりすることができまして……もうすぐ牛のモンスターが出てきちゃうんですけど……」


 対外的には魔法ということにしているほうが無難だろう。


「ああ、じゃあ、モンスターは裏庭にでも置いておいてくれればいいですぞ。それなりになついてるんでしょ? まあ、適当にやっといてくれればいいですぞ」


 かなりラフなおっちゃんだ。


「ここにはいろんな冒険者が泊まるから、いちいち目くじら立ててたらきりがないんですぞ」


 たしかに日本の宿と比べるとバラエティに富んでいるとは思う。


 というわけで、俺はアイテムがモンスターに戻るのを庭で待つことにした。


 部屋に牛が出てきて、備品を壊したりすると困るからな。


 そして、蹂躙牛の皮袋が元の牛に戻った。


 なんか、加工品の時間がさかのぼったような格好だな。


 もし暴れるようなら、また触ってやろう。

 同じモンスターを何度でもアイテムにできるかも確認したいところだ。


「モウ~~~♪」


 牛は顔を俺に摺り寄せてきた。これはすぐにわかる。親愛の表現だ。


「まだケースが少なすぎるからなんとも言えんが、アイテムになったモンスターは割と親近感が湧くみたいだな……」


 俺はとある有名RPGを思い出した。

 仲間になったモンスターは当然ながら主人を攻撃したりなどしないが、もしかするとアイテムにすること自体が仲間にすることに近い行為なのかもしれん。


「う~ん、そんなことはないと思うわよ。だって、明らかに私は自分の意思で行動しているのは、あなたもわかるでしょ」


「それはお前がモンスターといっても限りなく人間だからじゃないのか」


「別にあなた、アイテムを雑に使ったりはしてなかったでしょ。むしろ、スライム鎧なんて、声をかけて撫でてたぐらいだったわ。ネズミの剣も牛の皮袋も丁寧に扱ってた」


「そういえば、そうだな……」


「だから、スライムも蹂躙牛も認めてくれた、それだけのことだと思うわ」


「つまり、雑に扱ったら――」


「攻撃される可能性もあるわね」


 できる限り、デリケートに扱おう……。


 そのあと、ナイフになっていたネズミも、兜になっていたムカデも元に戻ったが、これもやっぱり俺を攻撃したりはしなかった。


 ネズミはなつくとけっこうかわいいな。

 変な菌とか持ってたら嫌だけど、まあ撫でても大丈夫だろう。


「ちゅちゅちゅ~♪」


 ネズミが鳴き声を出す。


 なんか、ムツ○ロウさんの動物王国みたいになってきたな。


「もしかして、武器になるのって意外と楽しいのか?」


 ためしに聞いてみた。


 こくこくとネズミが顔を縦に振った。


 どこが面白いのかは謎だが、まあ、そこは個人の趣向なんだろう。


「これからも旅をしたらついてきてくれるか?」


 こくこく。


「じゃあさ、お前がまた武器に変身するか試してもいいか?」


 こくこく。


 ネズミに触ってみ――いや、また明日にしよう。


「これから晩御飯の時間だしな。それを食べてからにしようか」

次回は夜あたりに更新する予定です!

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