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6 鎧がスライムに戻った

 ある程度、お金もたまったので、俺はアルコの案内のもと、タドンという町に向かった。


 日本の町と比べるとずいぶん小さく見えるがファンタジー世界だとこんなものか。


 周囲は水堀で覆われていて、橋を渡って町の中に入る構造になっている。


 その橋のところに衛兵みたいな奴がいる。


 あそこで検問みたいなことをしているんだろう。


「あなた、公的に何者でもないし、ギルドにも登録してない野良冒険者だから、町に入るのにお金を払う必要があるわ」


「つまり、森で金を稼がずに一目散に町に向かっても入ることすらできなかったかもしれないってことか。危なかったな……」


 近づいていくと、衛兵二人と目が合った。


「身分を証明するものはお持ちですか?」


 向かって左側の衛兵が尋ねてきた。


「いや、ギルドにも登録してないのでお金を払う。いくらだ?」


「へえ……。野良冒険者ですか。かなり立派な武具を装備していらっしゃるので、高名な冒険者の方かと思いましたが……」


 そんなに感心されるとは思ってなかった。


「いや、高名な冒険者の方にも馴れ合うのを嫌がって、ギルドに参加しない方もいる。そういう方なのかもしれんぞ」


 向かって右側がさらに好意的に解釈してきた。

 人を疑わない姿勢は素晴らしいが、衛兵としてそれはどうなんだという気もする。


 しかし、これで疑われて、中に入れてもらえなかったら、しゃれにならんので、話のわかる衛兵でよかった。


「それでは二千ゴールド支払っていただきます」


 入場料二千円か。テーマパークに入るよりは安いな。ただ、町の外と往復するたびに二千ゴールドかかるとすると、出費が痛い。


 銀貨二枚を出して支払いにあて、無事に町の中に入った。


「そうだ、この町に宿屋はあるか?」


 衛兵に尋ねる。あまり剣としゃべってるのが見えるとよくないかもしれんが、剣が会話能力を持っているとは誰も思わんから、ある程度誤魔化せるだろう。


 宿こそ目下、一番気になる点だ。だいぶ、日も陰ってきたしな。


「それなら、この門を抜けたすぐ先に一箇所、あと、逆側の門のあたりにも何箇所かあります。だいたい出入口に多いですね」


「ありがとうな」


 礼を言って、門をくぐった。


 さて、せっかくだし、どの宿がよさそうか店の前を歩いて選んでみるか。


「あ、そうだ。宿だけど、タドン第一亭だけはやめたほうがいいわよ」


 アルコからアドバイスが来た。


「なんで駄目なんだ?」


「建物に独特のにおいがしてるの。なんでも、変わった発酵食品を作ってるらしいんだけど。私も以前に泊まってえらい目にあったわ……」


「それ、かなり気になるぞ。でも、くさいのは困るな……」


「まあ、店の前でもにおいがする時もあるらしいし、前を歩く分には止めはしないわ」


 そして、例のタドン第一亭に行くことにした。一言で言えば好奇心に負けたのだ。


 途中、ほかの宿も見たが、いかにもファンタジー世界の宿という感じのものばかりだった。


 それでタドン第一亭にもやってきた。


 くさいというぐらいだから、てっきりボロボロの安宿をイメージしていたが、少なくとも見た目は普通だ。むしろ、ほかの宿より立派なぐらいだ。


「あれ、そんなに悪くなくないか?」


「じゃあ、中に入ってみなさいよ、においを感じるはずだから」


 中に入ったけど、やっぱり何のにおいもない。


「無臭だけど」


「いや、感じるでしょ!? あれ、それともにおいが収まってきた?」


「お前はどうなんだよ」


「剣の状態だとにおいがわからないのよね……」


 なるほど。そりゃ、剣に鼻なんてないよな。そんなこと言ってたら、口もない気がするけど。ていうか、酔ったってことは、三半規管とかもあるってことか?


「おお、お客様、ようこそですぞ!」


 恰幅のいい、ちょっとなれなれしい親父が声をかけてきた。

 宿の店主で間違いないだろう。


「あの、失礼ですが、旅で会った冒険者から変わったにおいがするって聞いたんですが……」


「ああ、はいはい、腐り豆のことですね」


「腐り豆?」


 それはたしかに臭そうだ。


「毒なんてないし、栄養満点なのに、なかなか理解されないんですよね。販売は難しいので、もっぱら個人消費になってますが、よかったら食べてみます?」


 このおっちゃんが食べて無害ということは大丈夫だろう。


「じゃあ、もらいます」


 剣が小声で勇気あるわね……とかなり驚いていた。


 しばらくすると、店主が器に入った腐り豆を持ってきた。

 それを見て、すぐに何かわかった。


「ああ、これ、納豆だ」


「ナットウ?」


「俺のいた国にも似たものがあったんです。納豆菌に似たものがあれば、どこでもできるのかな」


 ためらう理由もとくにないので、あっさり口に入れた。

 醤油なしだと納豆の癖が強くはあるが、そんなに問題なく食べられた。


「うん、健康によさそうな味ですね」


「うおわ……まさか腐り豆を食べてくれる人がいらっしゃるだなんて……」


 店主がやけに感動していた。


「あなたは素晴らしい人ですぞ! 宿代を三日間タダにいたしましょう!」


「ありがとうございます、それじゃ、お言葉に甘えます」


 よかった。納豆を食べただけで宿代が浮くなんていい宿だ。


 今日はいろいろあったし、少しゆっくりと休みたい。


 部屋に入ると、鎧を脱ぐ方法をいくつか試した。

 これ、つなぎ目ないし、どこから脱ぐんだよと思った挙句、首からすぽっと脱げばいいことがわかった。


 弾力性はあるので、普通の服みたいな着脱方法が可能なのだ。


「スライム、一日ありがとうな。お前がいなかったら殺されてた」


 鎧のスライムをまた撫でてやる。


 さて、ちょっと休むか。そんなにやわらかいベッドでもないが、とにかくベッドがあることが最高だ。


「よっしゃ!」


 俺はベッドに大の字になる。

 疲れがじわじわと抜けていく。


「お疲れ様と言っておくわ」


 たてかけてあるアルコが言った。

 そういや、剣って睡眠をとることってあるんだろうか。アルコも剣になったばかりだから、わからんかもしれんが。


「アルコのおかげで窮地を乗り切れた」


「窮地に追いやったのも私だけどね」


 そういえば、そうだった。普通に殺されかけたものな。


 まあ、そういうことは今は水に流そう。

 罪を憎んで人を憎まずってことだ。


 ぽよん。


 スライムがベッドに乗ってきた。


「おいおい。今は休憩中なんだから静かにしててくれ――あれ?」


 なんでスライムがいるのか。

 野生のスライムがいるとはいっても、さすがに宿の部屋の中に出現はせんだろう。そんなファンタジー世界、嫌すぎる。


 だとすると――可能性は一つしかない。


 装備していたスライム鎧がスライムに戻った。


「そういや、約六時間ぐらい経ってるかな……。タイムリミットは六時間ぐらいなのか?」


 でも、そんなことより、このスライム、どうしよう。


 モンスターとはいえ、御世話になったので退治しづらい。

 まあ、もう一度触って鎧にすることもできるかもしれんが、寝てる間にスライムに戻られるとそれは厄介だ。


 しかし――


 ぽ~ん、ぽ~ん。


 その場でスライムは呑気にジャンプした。

 少なくとも戦闘を望んでいる印象はないようだ。


「あれ、このスライム、親愛の情を示してるわよ!」


 剣のままのアルコが教えてくれた。


 一緒に戦った仲間だと認識されたのか?

明日も朝と夜あたりに更新できればと思います。

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