4 剣との二人旅、でも厳密にはスライムもいる
こうして俺はスライム鎧と女盗賊の剣(この表現だと女盗賊が持っていた剣みたいだけど、女盗賊が変身した剣である)で、盗賊達をやっつけた。
「ふう、疲れた……」
どっちかというと体力的というより、精神的な疲労だ。命懸けの戦闘なんて、一般の日本人はまずしないからな。
そんな、まさに世紀末みたいな日本は嫌だ。まあ、平和だろうとトラックにひかれて死んだらしいので、何の意味もないが。
「あなた、なかなかやるわね。しかも、あの数の私の仲間を一人も殺さずに退散させた」
アルコの剣が褒めてくれた。
「なんとかなるもんだな。でも、俺の力だけじゃなくて、多分アルコの剣にも何か特別な力が宿ってるんだと思う」
なにせ、生物を武器にしている時点で特別だからな。特殊能力があってしかるべきだろう。
「私を褒めたところで何も出ないわよ。こっちは振り回されてただけなんだし。あとで覚えておきなさいよね」
そう言う割には声が明るいから本気で怒ってるわけでもないんだろう。
「じゃあ、戦闘も終わったことだし、私を元に戻しなさい。あなたの命を狙うのはやめにしておいてあげる。町に出る道ぐらいなら教えてあげるわ」
「なんだ、本当に根は悪い奴じゃないんだな」
「だから、褒める前に元に戻しなさいよ」
「いや、わからないんだけど」
しばらく無言の時間が続いた。
「ねえ……わからないってどういうこと……?」
「人間を剣にしたのはお前で最初だから、戻し方もわからないという意味。さっきも説明しただろ」
「あれ……? それって、殺されないためのウソじゃないの……?」
「いや、本音だよ、本音。ガチの中のガチ」
「つまり、私は剣のままってこと……?」
「残念だけどそういうことになるな」
「こ、殺す! でも、剣のままだと殺せない!」
ある種の矛盾した状態が発生しているようだ。
「本当にどうしたらいいんだろうな……?」
俺としてもこの盗賊(をやる予定だった奴)を元に戻してやりたくはあるが、戻したら殺されるかもしれないので、戻しづらいな。いや、戻す方法も不明なんだが。
「あのさ、ひとまず近所の村とか町とかの場所を教えてくれ」
「なんで、私があんたにそんなことしないといけないのよ! このまま野垂れ死ねばいいのよ!」
「でも、ここで俺が野垂れ死んだら、お前、永久にこのままな可能性あるけどいいのか?」
剣が青ざめた気がした。
本当に青くなるなんてことはないので、あくまでイメージだ。
「それは困るわ! すごく困る! まして、ここであなたが死んだら、ずっとここに置きっぱなしになる危険もあるし! 雨風を受けたらサビとかつきそうだし!」
「そうそう。だから、俺と共闘する形をとってくれよ。俺だってお前を苦しめる意図はない。戻す方法がわかった時点ですぐに元に戻す、方法がわかってもそれを取引材料にしたりはしない」
「意図はなくても、すでに苦められてるけどね」
それもまた事実だな。剣として振り回されてたわけだし。
しかし、俺の最低限の誠意は伝わりはしたらしい。
「了解。あんたをいじめてもメリットないし、こっちの株も下がるだけだわ。近くの町の場所を教えてあげる。タドンという町よ。おそらく二時間も歩けば着くわ」
「よし、じゃあ、案内してくれ!」
こうして俺はタドンという街を目指して剣とスライム鎧と一緒に旅をすることになった。
せっかく同行者がいるので、だらだらとしゃべりながら移動することにした。
なぜか、この世界に来てしまい、スライムと遭遇し、そのスライムを鎧にしちゃったことなどを話した。
「それにしても、あんた、なんでそんな不思議な力を持ってるの?」
「信じてもらえんかもしれんが、気付いたらそうなった。女神のおつげみたいなのも聞いたし、それのせいなんだろう」
これぐらいのことは言っても大丈夫だろう。
「ちょっと、それって、ものすごいことよ……」
「俺の努力の結果、得た能力なら自慢してもいいが、気付いたら手に入ってただけだからな」
「ところで、素朴な疑問だけど、あなた、スライムに触って、鎧にできたわけよね。もう一度、別のスライムに触れたらどうなるの? 二倍の分量の鎧になるの?」
「お前も俺の答えはわかってると思うが――わからん」
「あと、なんでスライムは鎧で私は剣なの? その違いって何なの?」
「それもわからん。そうだな、この能力について、もっといろいろと確認しないといかんな」
タナボタ式に手に入った力とはいえ、自分の力ではあるんだから、ちゃんと学習していかんとな。きっと、これを使いこなせるかどうかで俺の今後の人生が決まる。
「あ、そうだ」
アルコが声を出した。
「このまま、まっすぐ行けばタドンの町には着くんだけど、ちょっと寄り道して横の森に入りなさい」
「理由を聞かせてくれ」
別に俺は森ガールではないので森に入ってときめいたいりせんぞ。マイナスイオンもとくにほしくないぞ。
「理由は簡単よ。モンスターが出るから」
「待て。じゃあ、余計に入りたくない」
ストレス解消でモンスターを殺したいとかそういう気持ちもない。
「モンスターを倒して、手に入るゴールドが大切なのよ」
「ゴールド?」
「そう、モンスターを倒すと、ゴールド、つまりお金が出るの」
「なんで、出るんだよ。ゴールドがモンスターに化けてるのか?」
「原理はわからないけど、そういうものなの。もう、そういうものとしか言えないわね。だから、この世界のモンスターの定義を倒した時にゴールドを落とすかどうかということにしている学者もいるみたい」
それって殺した時にしか判断できないじゃねえか……。まあ、モンスターと人間の境目を見分けるなんて危ない実験をしたりはしないだろうが。
そうか、これまでモンスターを倒したことは一度もないんだよな。もう一匹のスライムはどっかに行ったし、アルコの子分も俺は命を奪ってない。
なので、ゴールドが発生するというシステムも理解してなかったというわけだ。
「でも、俺、とくにお金がほしいわけでもないんだけど」
「宿屋に泊まるお金ってあるの?」
本当だ。
最低限、それだけでも稼がないといけない。
「さっき、私の子分と戦ってた印象からすると、森のモンスターに負けることはまずないと思うわ」
「よーし! 森で稼ぎまくるぞ!」
「やる気なのはいいんだけど……あんまり振り回さないでね……酔いそうだし……」
剣ならではの悩みだ。多分、女子会とかで話しても誰にも共感されんだろう。
「あと、余裕があったら、ほかのモンスターにも触れてみたらいいんじゃない? あなたの能力のルールが多少はわかるわ」
「それもそうだな」
けっこう盛りだくさんな内容になってきたな。
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