2 盗賊が剣になった
「というわけで、説明したとおりよ。私達は盗賊団なの。盗賊団が人のためになることなんてするわけないでしょ。人徳を積むつもりもないの」
アルコという犬の獣人のリーダーが説明してくれた。
悪人ではあるけど、説明してくれる分だけ律儀なのかもしれない。
「わかりました……。じゃ、同行するのは諦めます」
ついていったら、俺まで盗賊団だと思われかねない。それは困る。過剰にいい人だと思われたいわけでもないが、無実の罪で犯罪者になるのは嫌だ。
「では、さようなら」
「待ちなさいよ。なんで帰ろうとしてるのよ」
呼び止められた。
「あれ、もしかして同行は許可してくれるんですか?」
「見ず知らずのあなたに盗賊団ですって告白したのよ。あなたを生かしておいて通報でもされたら、こっちが捕まっちゃうじゃない」
たしかに一理ある。
「だから、口封じに殺すわ」
アルコが円月刀みたいな反り返った剣を出した。
「そんな! いくらなんでも勝手すぎる!」
どうして知りたくもない情報を知らされて、殺されないといけないのだ!
「ここは許してくださいよ……。それに俺、マジで記憶も何もないんですよ……。人畜無害ですし、わざわざ盗賊団にケンカ売ることなんて今後もないですし……」
「そんなの知ったこっちゃないわよ。さあ、死になさい!」
「極悪人め!」
「だから盗賊団だから極悪人なのよ。それに、あなた、記憶喪失らしいけど、なかなかいいもの持ってるじゃない」
いいもの?
<無敵>と書いてあるTシャツのことか?
いや、さすがにそれはない。
「この鎧のことですか?」
俺は自分のスライム鎧を指差す。
「そうよ」
アルコがうなずいた。
「それ、材質はよくわからないけど、極めて特殊な鎧であることは確実だわ。相当な高値で売れそうね」
愛も慈悲もないのか。
「血がついて値段が下がったら困るから、その鎧、脱ぎなさいよ」
「脱ぎ方はわからん」
「は? 何をわけのわからないこと言ってるのよ」
本当なんだけど。
「親分、もう、とっととやっちまいましょう」
「きっと、マジックアイテムの水の鎧か何かですぜ」
「アルコ団の初仕事にはちょうどいいですよ」
部下達が後ろで言いたいこと言っている。
しかし、「初仕事」ってことはこれまではまだ悪いことしてないってことか。悪事ヴァージンなのか。
つまり、やっぱりワルですアピールの部分もあるんだな。ちょっとだけ好感度上がった。
といっても、このままだと殺されるよな……。
鎧を着ているとはいえ、胴体しかガードされてないからな。頭も首もむき出しだから、そこを狙われたら、それだけでおしまいということになる。
しかし、おめおめと殺されるのは癪だ。
だから、俺は決めた。
逃げる!
全力で俺は逃走を開始した。
「あ、待ちなさいよ! 逃げるな!」
「ふざけんな! 逃げるに決まってるだろ!」
このまま従容と死ぬ奴などいない。とことん、意地汚く生きてやる!
「せめて戦おうとしなさいよ!」
「武器も何もないのにどうやって戦うんだよ!」
「こっちは盗賊団よ! すぐに追いついてやるわ!」
アルコが追いかけてくる。
でも、こっちも命がかかってるから、全力で走る。
こういう時の人間は速い。犬の獣人にもひけをとらないほどだ。
「な、なかなかやるじゃない……」
後ろからアルコという女盗賊が言った。
そうだろ。頼むから刃物を投げるようなことはするなよ……。危ないからな……。
「親分が走り出してるぞ!」
「俺たちも続け!」
子分たちもぞろぞろ走ってきた。
いまいち緊迫感のない、でも俺にとったら命懸けの追いかけっこだ。
森だ。森へ入れば、奴らを撒けるかもしれない。
しかし、その前に俺の体力のほうが限界に来た。
足が徐々に遅くなってくる。
「そろそろ力尽きたみたいね」
すぐ後ろからアルコの声がする。
「さあ、これでおしまいね」
アルコが手を伸ばす。俺の腕をつかもうという魂胆だろう。もう、俺にはそれをふりほどく力もない。
そして、アルコの手が俺の腕をがしっとつかんだ。
俺はふりほどこうと手を動かす。
指先がアルコに触れる。
また奇妙な感覚が俺の体にやってきた。
何かが自分と融合したような、そんな感覚だ。
そして、なぜか俺は右手に一振りの剣を握りしめていた。
オオカミみたいな紋様が彫られているかなり大きな剣だった。
「よくわからんが、これで戦えるな! さあ、盗賊団の親分、覚悟!」
だが――
その親分はどこにもいない。
あれ? ということは、もしかして……。
「な、な、なななななななな何がどうなってるのよ!」
剣がたしかにしゃべった。
「どうして私が剣になってるのよ!!!!!!!!!!!!」
やっぱり、アルコという盗賊が剣に変身してしまったらしい。
けど、獣人ってモンスターなんだろうか。そこの定義ってどうなっているんだろう。
「あのさあ、お前ってモンスターなのか?」
本人に直接聞いてみたほうが早い。
「ちょっと、それ、この状態で聞くことじゃなくない!?」
「気持ちはわかるけど、とにかく答えろ。お前にも関係のあることだ」
「そうね……私たちワーウルフはモンスターではあるわね。モンスターの王を標榜している魔王には関わらずに独立してるから、そういう連中とは別の扱いで認識されてるけど」
なるほど。つまり、モンスターはモンスターってことか。かといって、人間を見たら、即座に殺戮するっていうようなものでもないんだな。
いや、アルコの場合、即座に俺を殺そうとしてきたけど、あれはモンスターだからというより盗賊だからだろう。人間の盗賊だってそういうことしてくるだろうし。
「ちなみに獣人って呼ばれるほかの種族も大半はそんな感じ。モンスターでもあるから人間社会でも下に見られてたりもするわ。だからこそ私達みたいなのが生まれるわけでもあるけど」
「モンスターを生むのは実は人間の心なのだ――ってことか。まあ、それはどうでもいいとして、お前が剣になった理由はわかった」
「なっ!? すぐに説明しなさいよ!」
食い気味に聞かれた。そりゃ、気にもなるよな。
「俺には特殊な力があってな、モンスターを装備品にしてしまえるんだ」
「えっ……。なによ、そのふざけた特殊能力……」
信じてもらえないというより、引かれてるって印象のほうが強いな。
「お前が剣になってしまったのが、その証拠だ。そんな特殊能力以外でどうやって剣にするんだよ」
「そ、それもそうね……。だいたい、あなた、逃げてただけで魔法を使用してたようにも見えなかったし……」
よかった。信じてもらえた。
とはいえ、まだすべての問題が解決したわけでもなんでもない。むしろ、現在進行形である。
「親分はこっちに行ったはずだ!」
「あの男がいるぞ!」
「あれ? 親分はいないのか?」
手下どもがぞろぞろと走ってやってきた。
「こいつらをどうにかしないと解決とは言えんな」
あと、2回ほど寝る前に更新したいです。ちょっと間が空きます。