15 ミノタウロスと交渉
ミノタウロスを俺達が討伐したということは正式にギルドから認められた。
おかげでかなりのお金が入ったので、しばらくはゆっくりと暮らせそうだ。
ギルドでも、優秀な冒険者として一目置かれることになった。
「やっぱりアキラって奴はすごいな」
「俺は最初に見た時からやるって思ってたぜ」
「俺も百年に一度の逸材だって思ってた」
ほんとかよ。
まあ、とにかく評価をしてもらえることはありがたいな。けなされるよりはマシだ。
「ただ、これからどうしたらいいのかな」
ある程度お金が入ったけど、今後の目的というか、展望というものがない。
俺は宿でアルコにそう率直に伝えた。
「そうねえ。私はちょっと試したいことがあるから、しばらくこの町にとどまっていたいわ」
別にせかす必要もないので、俺とアルコは近くでモンスターと戦ってゴールドを稼ぎつつ、暮らすという生活を送っていた。
だんだんとこの能力も板についてきた感じはある。
そして、一週間後。
「ちょっと、ミノタウロス達と戦った丘に行きたいの」
そうアルコが言った。
「なんだ? アイテムでも落としてたのに気付いたか?」
「そういうわけじゃないの。けっこう上達したみたいだし、今ならいけるかなって」
意図ははかりかねるけど、丘まで行くのにとくに苦労はないので言われたとおりにしてみた。
ちなみに、過去に戦ったという経緯もあるので、できるだけモンスターは装備品にせずに進んだ。
とくにギュースケやミノタウロスはモンスターの姿で連れてきた。
くしくも時間は夕方。前回戦った時と似たような時間だ。
装備もある程度整えてはいたが、お礼参りに来られるリスクもゼロではないだろうなと考えていた。
「よーし、じゃあ、はじめようかしら」
「ああ、ご自由にはじめてくれ」
「アキラ、ミノタウロスを角笛にして」
「え? ああ、わかった、わかった」
ミノタウロスに了承を得たうえで、触った。
すぐにミノタウロスは角笛に変わる。
「さてと、練習の成果を見せなきゃ」
ブオオオオオゥゥゥオオオオオオオ!
アルコはその角笛を実に上手に吹き始めた。
ただ、音を出しているだけというのとは明らかに違う。演奏と呼んでいいレベルだ。
その演奏はだいたい三分ぐらい続いた。
アルコが演奏を中断する。
すると、どこからともなく、似たような角笛の音が響いてきた。
「どうやら、上手くいったみたいね」
またアルコが短く演奏する。
それに対して、また音がする。
そのやりとりが三十分ぐらい続いた。
「ふ~。終わった、終わった」
「かなり長く交信してたな」
これがコミュニケーションの一つだったということぐらいは推測がつく。
「そうね。ずっとミノタウロスと話をしてたの」
「ああ、そういや、演奏でそういうことができるって言ってたな」
「もちろん、ある程度私が上手く吹けるようにならないとどうしようもなかったんだけど、それができてきたから」
「それで結果はどうだったんだ?」
「ばっちりよ」
まあ、表情を見れば聞かなくてもわかるけどな。
「ミノタウロスはこちらの山には出てこないって。街道を封鎖するようなこともないから討伐もやめてくれって」
「まあ、討伐依頼自体はギルドが出すわけだけど、こっちからギルドにも交渉して落としどころを見つけるか」
少なくとも安全な範囲が確定されただけでも、それなりに意義はあるだろう。
そして、実際にギルドに行って、そのことを報告した。
「まさか、ミノタウロスと話をつけるとは思わなかったですぞ!」
そりゃ、受付のおっちゃんにも驚かれもするか。
「あなた方が多くのミノタウロスを倒したのは事実ですし、信用もできますぞ! こちらもミノタウロスと落としどころが見つけられるならそれはそれでありがたいですぞ」
どうやらいいように運んだようだ。
「あの獣人、ミノタウロスと話をつけたのか」
「やっぱり、とんでもない連中だな」
「今日は踊り子の服じゃないのか」
また、なんか噂されてるな。
しかし、みんな聞こえるように噂しすぎだと思う。




