13 ミノタウロス討伐
俺は蹂躙牛のギュースケに飛び乗る。
そして、とことん体をギュースケの背中に密着させる。
弓矢が当たる的の部分を小さくするためだ。
万一、首元にでも刺さったらそれで即死って危険もあるからな。鉄兜とスライム鎧だけでは限界がある。
でも、挑戦するだけの価値はある。
軽くギュースケの体を叩いた。
「さあ、行ってくれ! ギュースケ!」
「モウウウウウウウウウ!」
蹂躙牛が丘を駆け上がっていく。
目指すはミノタウロスのいるあたりだ。
ミノタウロスもすぐに攻撃の手を強める。そりゃ、放置なんて絶対にできないだろう。
しかし、蹂躙牛は首を左右に高速で振って、その弓矢を払い落した。
すごい! こんなことができるのか!
本当にわずかな時間で、俺達はミノタウロスのところに近づいていく。
ギュースケの足には刺さっている矢もあるが、そんなことでは止まらない。
やがて、ミノタウロスの弓矢がやんだ。
連中が逃げ腰になっている。
誰だって蹂躙牛に突っこまれたくなんてない。近づいている分、当たりやすくはあるが、その分はずせば吹き飛ばされる恐れもある。
「モウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
雄たけびのような声を上げるギュースケ。
ついに背を向けた奴が出てきた。
よし、そのまま行け!
ミノタウロスに牛が突っ込む!
俺もそこからジャンプして飛び降りると、軍隊蟻の黒剣で戦う!
完全に遠距離からの弓矢攻撃は瓦解した。ミノタウロスも剣に持ち替えて、戦闘を続行してくるが、逃げた者もいるから数は少し減っている。
それにギュースケに吹き飛ばされた奴もいるから、また数は減った。
「よし! アルコ! いまだ! こっちに来い!」
「わかったわ! 今、行くから!」
アルコも丘を駆けてくる。
そして、ミノタウロスの近くまで来ると、踊りはじめた。
ミノタウロスの動きが緩慢になって、二体が倒れた。
効いてる! これはいけるぞ!
残りのミノタウロスもこれはシャレにならないと感じたらしい。少なくとも流れは完全にこちらの側に来ている。
俺も剣を振って、必死に戦う。さすがに手で敵に触る余裕はないが、戦闘自体はこちらが優勢だ。
俺の剣でミノタウロスを二体斬った。
消滅してゴールドが現れる。
寝た奴、俺が倒した奴、ギュースケが吹き飛ばした奴、逃げた奴。
もう、残りの戦える敵は二体しかいない。
「接近戦ならこちらのほうが得意よ!」
そのうち一体がアルコのナイフで首をかき切られて倒れる。
残り一体!
もう最後の一体は気が動転しているのか、まともに動けてなかった。
「せいっ!」
俺の剣で一刀両断した。
この勝負、俺たちの勝ちだ。
「やったわね、アキラ!」
「モウウウウウウウウ!」
俺達は集まって勝利の声を上げる。
「上手くいって、よかった! ほんとにギュースケさまさまだ!」
「ギュースケって蹂躙牛の名前?」
「そうだけど」
「なんか、変な名前だけど、なぜかぴたっと当てはまる気もするのよね」
牛をギュウって読むの、日本人の発想だからな。
「ところで、なんで蹂躙牛がモンスターの姿に戻ったの?」
「実は元に戻す方法がわかった」
「え! どうやったの!」
「いや、触って元の姿に戻れって念じるだけだ」
あまりに単純だったので、アルコがぽかんとした顔になった。
「そ、それだけでいいの……?」
「ああ、結局、そのシンプルなやり方を一度も試したことなかったからな……」
「だったら、試しときなさいよ……」
まあ、おっしゃるとおりだな。でも、これで以前より気軽に装備品になってもらうことができる。
さて、これで戦闘は終わった。
そのつもりだった。
でも、まだこの場には眠りに落ちているミノタウロスが二体残っていたのだ。
そのうち、一体がそうっと弓矢を構えているのに気づいた。
しまった! 俺と同じ寝たフリ戦略かよ!
その矢は完全にアルコを狙っている。たしかに服の露出の関係でアルコのほうが簡単に刺さりそうに見える。
「アルコ! 危ない!」
俺はすぐにアルコに飛び込んで――
その体に手を伸ばして触れた。
その瞬間、アルコの体が剣に変化する。
カシイィィィン!
剣に飛んできた矢は跳ね返される。
「危なかったわ……」
剣の姿でアルコがため息をつく。
まあ、本当のため息が出ているかは謎だけれど。
「悪いけど、俺達を殺そうとしたってことは、お前も殺されても文句は言えないよな」
俺はそのミノタウロスをアルコの剣で斬り殺した。
さて、まだ寝ていた奴がもう一体残ってるんだが――
そいつは本当に寝ていたらしく、目を覚まして露骨に絶望していた。
あまり大きなミノタウロスじゃない。まだ子供七日、単純に小さいのか。
「お前に関しては戦ったり、ここをまた占拠したりしないなら、許してやってもいいけど、どうする?」
言葉が通じるかわからないが、一応聞いてみる。
そのミノタウロスは落ちていた枝で地面に何やら書きはじめた。
俺が読める言語じゃないので、わからん……。ということはこの国の共通語ではないんだろう。
「私は読めるわ」
アルコが剣のまま言った。
「『ほかのミノタウロスにもいじめられていたので戻りたくもない。帰る場所もない』、そう書いてるわね」
「なるほど、体が小さいからいじめの対象になってたのかな」
せっかくだし、こう聞くか。
俺はアルコの剣に元の姿に戻れと念じる。
アルコは無事に獣人の姿になって現れた。
「アルコ、筆談で俺たちの仲間になるかって聞いてくれ。ただし、俺たちの武器になって戦ってもらうことも多いってことも伝えたうえで」
「わかったわ。やってみる」
アルコが地面に文字を書く。
それに対してミノタウロスも文字を書く。
数回の往復のあと、ミノタウロスがうなずいた。
「それでいいって」
「わかった。じゃあ、これからよろしく頼む」
俺はミノタウロスに手を差し出す。
ミノタウロスも手を出してきて、その手と触れる。
また装備品化がはじまった。
そのミノタウロスは角笛に変化した。
「アルコ、これは何か特殊な効果があるのか?」
「吹き方次第でミノタウロスみたいな知能の高いモンスターと交信ができるわ」
もしかして、使い方次第でかなり便利なものになるかもな。
ひとまずミノタウロス討伐戦は無事に終わった。




