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モンスターを着る男  作者: 森田季節


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11 アルコの装備品探し

 こうして、俺とアルコはミノタウロス退治を請け負うことにした。


 そう決めると、受付のおっちゃんがもう少し詳しい情報を教えてくれた。


・ミノタウロスの数はだいたい十体ほど。そいつらが山に居座って、道を封鎖してしまっている。


・二級の冒険者だとたいてい苦戦して帰らざるをえなくなっている。


・ちなみにこのタドンの町には二級冒険者までしか普段はいないらしい。実力ある冒険者は王都に行ってしまうからだそうだ。


・どうやらミノタウロスのほうも強い冒険者が来ないことをわかっているようで、それで居座ってるらしい。


・この依頼はすぐにこなさないといけないという類のものではないので、ある程度特訓などをして出向いてもいい。


 たしかに腕試しをしてみるにはちょうどいいのかな。


 でも、このまますぐに行くのはさすがに準備不足な気もするので、ちょっとばかりの準備期間を置いた。


 ずばり、アルコの装備品を入手するためだ。


 俺の力でモンスターを装備品にできれば、それをアルコにつけさせることもできるかもしれない。


 なお、俺がも装備品に変えたモンスターをアルコも装備できることは事前に確認済みだ。


 というわけで、前回お金を稼いだのとは違う森に行ってみた。


「ここは野生化したモンスターとは違った、魔王の配下にいるような強力なモンスターもたまにだけど出てくるみたいだから、気をつけたほうがいいわ」


 アルコがいてくれるおかげですぐに情報が得られるので助かる。


「うん、その分、いい装備品にできるかもしれないし、努力するよ」


 でも、こういうのって、なんだかんだで弱いモンスターしか出ないなんてことが大半で――


 奇妙な木偶人形みたいなものが前に出てきた。


 表情が不気味でいかにも呪われているという印象だ。子供が見たら泣き出すと思う。


「げっ! カースド・パペットよ! かなり厄介なモンスターよ!」


 なんか、アルコが強いモンスターも出るから注意しろって言ったのがフリになってるようにしか聞こえないな……。


「でも、見た目、あんまり強そうじゃないんだけど」


「攻撃力はたいしたことないかもしれないわ。でも、こいつは特殊能力が厄介なの……」


 俺は軍隊蟻の剣を握って、攻めかかる。

 ちなみに防具はスライム鎧とムカデの鉄兜だ。


 先手必勝!


 しかし、ふわっとカースド・パペットはこちらの攻撃を回避する。


 まるで風のようにしなやかにかわされた。


 その直後、カースド・パペットが糸で操られているみたいに踊りだす。


 すると、急にふわあぁっと意識が遠のきかけて……。


 ぱんぱん!


 アルコに肩を強く叩かれて意識が戻ってきた。


「気をつけて! あいつは踊りでこちらを眠りにいざなうの! ほかにも魔法を封じたりとか、いろんな踊りをするわ!」


「眠らされるとか危険すぎる!」


「そうよ! 二人同時に眠らされたら全滅の危険もあるわ!」


 おいおい……シャレにならんぞ……。


 そうこうしているうちに、またカースド・パペットが踊りだす。


 今度はアルコの力が抜けて、その場に倒れてしまった。


「うわあ! 大ピンチ!」


 なんとか、俺だけで勝たないといけない。


「さあ、来い! でも、なるべくなら来るな! 帰れ!」


 また、カースド・パペットは眠りを誘う踊りをしてくる。


 あぁ、これ、回避方法がないな……。また、眠けが……。


 あれ?


 でも、眠りこけるってほどじゃないぞ。徹夜明けみたいな感じだけど、眠らずにはいられる。


 そうだ。


 ここで寝たふりをしてやればいいんじゃないか?


 俺は前にばたりと倒れる。


「ふあ……眠い……」


 すると、カースド・パペットはチャンスとばかりに接近してくる。


 思ったとおりだ。


 そいつが蹴りを繰り出そうとしてきたところを――


 俺はがしっと右手でつかんだ。


「つかまえたぞ!」


 その途端、カースド・パペットに変容が起こる。


 よし、装備品にできた!


 こいつは特殊能力も持ってるし、変わった木製品になるんじゃないかな。


 だが、できたのは木製品じゃなかった。


 服? 服にしては水着みたいに露出度が高いぞ……。


 そのあと、アルコが起きてきた。


「ああ……カースド・パペットをアイテムにできたのね。すごいわ」


「うん、ただ、できたアイテムがまた変なもので……」


 隠すのもおかしいから、とっととアルコに見せてしまうことにした。


「こ、これは最高級の、天使の踊り子の服だわ!」 


 ああ、踊る奴つながりなんだ!


 そうか、物質だけじゃなくて、モンスターの特徴でも変化する装備品が決まるのか。


 言われてみればそうだな。軍隊蟻に金属部分なんてないのに、武器になってるもんな。


 問題はそんなことより、この服のきわどさだ。


 ファンタジー世界ではビキニアーマーとかあるし、踊り子の服で戦う冒険者もいるのかもしれないけど、やっぱり露出度は高い。


 アルコはそれを持って固まっている。


「あのさ、それ、防御力も低そうだし、ハズレアイテムだよな」


「それが、そうでもないのよ。守備力は相当なものだし、身につけた人間が踊れば敵の意識を朦朧とさせることもできるわ……」


「そ、そうなんだ……。アルコって装備品に詳しいな……」


「だって、盗賊をやろうとしてたぐらいよ。アイテムに詳しくないと何が金目の物かわからないでしょ」


 たしかに。


「そして、これ、元盗賊の私でも装備できるの。踊り子も盗賊も身のこなしが大事な職業だし……。むしろ、私に最適の装備品と言っていいのよ……」


 ちょっと、アルコの声がふるえている。


「だけど、一つだけ問題点があって、恥ずかしいの……」


「あのさ、無理はしなくていいぞ……」


 しばらく、アルコは考えているようだったが、


「冒険も戦闘も遊びじゃないわ。命懸けよ。ここは恥を忍んでこれを着るわ!」


 そのあと、アルコは森の木の影に隠れて、その踊り子の服に着替えた。


「ど、どう……? 変じゃない……?」


 俺は息を飲んだ。


「まさしく天使かと思った」


「ワーウルフの天使なんていないでしょ……」


 いや、むしろ犬耳の踊り子さんとか完璧すぎるんだけど、そこは黙っていようか。


「じゃあ、戦闘は今度からこれでいくわ……」


「う、うん……」


 お互いに顔を赤らめて、俺たちはうなずいた。


 そのあと、鬼ハヤブサという鳥のモンスターも装備品化して、羽の生えた女性物の靴に変えることができた。


 これは回避能力を高めることができるらしいので、アルコに絶好のアイテムだった。


 こうして、ミノタウロス攻略の装備品は無事に揃った。

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