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モンスターを着る男  作者: 森田季節


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10 ミノタウロス退治

「あの、すいません、宿屋を経営しているご兄弟はいらっしゃいませんか……?」


「よくご存じですぞ。弟はタドン第一亭を経営しておりますぞ。栄養のある豆を作っていると冒険者にも評判になっておりますぞ!」


 後ろから「いや、あれは不評だ……」「腐った豆なんて食えるか……」といった声が聞こえてきた。


 どうやら、この兄弟、ポジティブシンキングの持ち主らしい。まあ、人生生きるうえで大切だよね。


「それで、ギルドの冒険者登録なんですけど、詳しく知らないのでギルドの仕組みから教えてもらっていいですか?」


「わかりましたですぞ。ギルド成立の起源はいくつか説がありますが、一説には今から750年前、当時のカルター王国でモンスター討伐を募る布告が出たという伝承が――」


「すいません、そこまでさかのぼらなくていいです」


 ギルドの歴史まで学ぶ気はない。

 というか、これ、絶対に長くなるタイプの話だし。


「そうですか、30分ほどでギルドの歴史がよくわかるんですが……」


 あぶねえ! 30分も聞かされるところだった!


「おい、あの新人、的確に受付のおっちゃんの歴史説明をパスしたぞ」

「やはり、只者じゃねえな……」

「きっと、野性の勘がすぐれてるんだぜ……」


 こいつら、いくらなんでも人を褒めすぎだと思う。


 でも、長い話を防げたのは大きい。


「現在、ギルドには大きく5つの階級がありますぞ。上から特級、一級、二級、三級、見習いですぞ」


「なるほど、見習いからスタートしてやがて三級に昇進できるってわけだな」


「とはいっても、見習いを飛ばして三級からスタートする冒険者もおりますですぞ。まだ少年や少女といった年で冒険者を目指す者もおるので、そういう者を教育するために見習いという地位があるのですぞ」


 おっ、思った以上にこのギルド制度、ちゃんとしてるぞ。


「見習いの立場の冒険者は自分から依頼を受けることはできませんぞ。その代わり、見習いでもできそうな仕事をギルド側から提案しますぞ。それで独り立ちさせてもいいだろうと思ったら三級にするのですぞ」


 横でアルコもこくこくとうなずいている。


「なので、お二人のようにどう見ても冒険者経験がある方には三級からスタートしてもらいますぞ」


 そう言って、受付のおっちゃんは鈍色にびいろの指輪を二つこちらに出してきた。


「三級冒険者はこれを指につけてもらいますですぞ。ランクが上がればその指輪をこちらに返してもらって、違う色の指輪を渡しますですぞ」


 この色でランクを見分けるのか。


「紛失したら弁償ですので気をつけて保管するですぞ。まあ、旅をする時など身分を示すのにいりますから、つけっぱなしがいいですぞ」


「ありがとうございます。説明の続きをお願いします」


「ギルドの冒険者の基本的な仕事は依頼を受けること、ダンジョンなどでモンスターと戦って毛皮やアイテムをとってくること、その二つですぞ。ギルドではモンスターの毛皮などのアイテムも買い取っておりますですぞ」


 ためしにこの鎧、いくらで売れますかって聞こうと思ったが、スライムのブルータが売られるんじゃないかなと悲しみそうだからやめておこう。命の恩人にやる仕打ちではない。


「なお、依頼を受けて失敗した場合などは罰金となることもありますぞ。それと依頼の対象ランクより上のものは原則として受けられませんぞ」


 ふむふむ。だいたい、内容はわかった。


「そして、この対象ランク制は今から300年ほど前、ルクトリア王国の宰相、キーナがギルド改革の一環として――」


「ああ! 歴史の説明は省略してくれてけっこうです!」


「わかりましたですぞ……。なかなか説明ができないですぞ……」


 また、さりげなく歴史の説明ぶちこんでこようとしたな。危ないところだった……。


「あの受付のおっちゃんの強引な歴史説明を阻止するなんて!」

「あれは百年に一人の逸材だぜ……」

「きっと、これまでにも似たようなおっちゃんの被害に遭ってきたんだな……」


 後ろの冒険者たち、暇なのか……?

 あと、百年に一人の逸材をあっさり輩出しすぎだろう。


「ちなみに武器や防具などはギルドでは売ってないので、町の店で買ってほしいですぞ。といっても、お二人はその程度のことはわかってらっしゃるでしょうが」


 けっこういい装備してるからな。


「それで、今出てる依頼っていうのはどういうものがあるの?」


 アルコが具体的なことを聞いてきた。


 たしかに依頼を見ないことには何もはじまらないからな。


「そうですな、あっちの壁にいろいろと貼ってありますぞ。ランクごとに貼ってる場所が違うから三級冒険者の欄を見てほしいですぞ」


 早速、俺とアルコは壁をチェックする。


「ええと、三級はここか。ベビーシッター二日間……これはパスだな……。隣町までのおつかい……これもパス……」


 便利屋系の仕事が多いな。


「建物解体の手伝い、これもパス……。冒険者らしい依頼があんまりない……」


 まあ、これが世間の三級冒険者に期待することってわけか。


 しかし、その中で目を引くものが一つだけあった。


「ミノタウロス討伐か。これはなかなかすごそうだな」


「あっ、ほんとだ。これだけ明らかに雰囲気が違うわね」


 アルコも同意してくれた。


 内容の欄には、「タドン近郊の山に出没するミノタウロスの一団を倒す。なお、一匹倒すごとに報酬は十五万ゴールド。もし全滅させられたとギルドが判断した場合は追加で百万ゴールド」と書いてある。


 一気に荒稼ぎできそうだし、冒険者らしい依頼でもある。


「ああ、それは受けちゃダメですぞ!」


 すぐにおっちゃんが止めてきた。


「それは誰も受けようとしないから三級冒険者のところにまでランクが下がってしまったダメな依頼ですぞ! はっきり言って三級冒険者が出ていったら、死にに行くようなもんですぞ!」


 そういうことか。


 あまりにもスルーされるから、求人条件がどんどん広くなってきたってことだな。


「あぁ……でも、あなたたちは普通の三級冒険者ではないようですから、自信があるならやってもいいかもしれませんですぞ。もちろんケガなどは自己責任ですが……」


 じゃあ、せっかくだし、やってみようかな。


 いや、でも、ミノタウロスは複数いるんだろ。


 一体なら装備品にできるかもしれないけど、複数いたらメインは戦闘になってしまう。


「やってみましょう」


 アルコがそう言った。


「私の技能で逃げるぐらいのことはできるわ。たしかに森のモンスターと戦ってもどれぐらいやれるかわかりづらいし」


「そういうことなら、やってみようかな」

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