人間万事塞翁が馬(7)
「……心配したんだよ?」
「……悪かった」
「でも、何も教えてくれないんだよね?」
「……ああ」
「この三ヶ月間、色々あったよ? 期末テストとか……卒業式も、終わっちゃったし」
「最後の最後で、優等生の肩書きも返上だな」
「先生もクラスの皆もすっごい驚いてた。宗弌がテストを休むのって初めてだから」
「授業はたまにサボるけどな」
「宗弌は、成績じゃなくてテストの順位が気になるだけだもんね」
「流石、よくわかってんじゃん」
「じゃあさ、それを休んだっていうことは……もっと大切なものが、できたんだよね?」
「……多分な」
「えー! 何それ、そんな適当な理由で今まで姿を眩ましてたの!?」
「適当なわけあるか! これでも真剣だ」
「真剣って、何に対して?」
「その何かを探すことに対して」
「――っぷ。何それ、あははは! わけわかんない!」
「うるせぇな。俺だってわけわかんねぇよ」
「あー面白い。……で、それは見つかりそうなの?」
「……まあな」
「そっか。なら、まあいいかな」
「いいのかよ」
「いいんです」
「……ありがとな」
「どういたしまして。……どうよ、私っていい女でしょっ!?」
「……そうだな。今まで気づかなかったけど、沙織は本当にいい女だ」
「……あぅ」
「お前、自分で言った癖に照れんなよ」
「だ、だって宗弌って、普段そんなこと言わないから……ちょっと、覚悟できてなかった」
「今は普段じゃないからな、素直に言ってみた」
「……」
「などと言っている間に着いたわけだが……どうする? 身体は大丈夫か?」
「……ちょっと、辛いかも」
「さっきは大丈夫だって言ってたじゃねぇか!? ああもう……場所は? どう痛む?」
「自分から聞いてきた癖に……」
「いいからさっさと言え」
「……胸が痛い」
「……よく考えたらそこまで焦る必要ねぇな。おばさん、この時間なら家にいるだろ?」
「あ、や、ちょ、ちょっと待って。いや、本当に……呼び鈴鳴らさないで!」
「うおっ!? 何だよ、急に大声出すなって」
「いいからこっち来て」
「……おう」
「で、治療して」
「いや、無理だから。場所的にも、技術的にも」
「場所は胸。なんだかキリキリ痛む。はい、これで治療して」
「ストレスですね。ゆっくり寝ることをオススメします」
「……」
「痛っ!? わ、悪かった! 冗談だから、無言で蹴るのやめろ!」
「ねぇ、私前から思ってたんだけど、宗弌って空気読めないの? ねぇ?」
「何事にも動じない男、とはよく呼ばれている」
「はいはい、わかってましたよ。宗弌はそーいう人だもんね。……私何期待してるんだろ」
「期待って、俺にか?」
「……普通、今のは聞こえないフリとかするべきだと思うよ」
「あ、そうなのか。すまん」
「……」
「……」
「あーもう! こんなんだからいつまでも進展しないんだ! 頑張れ私!」
「な、なんだかよくわからんが、頑張れ沙織!」
「うん! 私頑張るよ! 頑張るから……宗弌!」
「お、おう。何だ?」
「目を閉じて!」
「は? 嫌に決まってんだろ。何するつもりだよ」
「……」
「いや、せめて目的をだな……」
「……頑張れ私。めげるな、私……!」
「あれ? なあ、なんかちょっと泣きそうになってねぇかお前?」
「宗弌が目を閉じてくれないなら、このまま泣く」
「横暴だ。あまりにも横暴だ」
「お願い」
「……わかった。わかったから、泣くな」
「後、もう一個だけ」
「ん?」
「できたら、その……宗弌にも、少しは頑張って欲しいかも」
「頑張るって、何をだよ」
「……今から私がすることの意味を、ちゃんと理解するように……ね」




