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ポチとファーニー出会う

ててて、と可愛らしい足音を出しながら王城を歩いているのは見習いメイドのポチだった。

身を包んでいる子供用メイド服は着ている、と言うよりはむしろ着られていると表現した方が良い。


ただ歩き回っているだけだと思うかもしれないが、これは彼女にとっては遊びではなかった。

見習いのメイドとして王宮に置いてもらっているポチ、皆彼女にやる気があるのは伝わっている。そのため様々なことを学ばせているのだが、如何せんまだ十にも満たない年齢の少女である。

当然、メイドとしての戦力にはならない。

だが元奴隷少女であったポチにしてみれば、誰からかに必要とされなければ生きていけないという心に抱えた闇があった。

それを見抜いていたアルカディオたちが、ポチに与えた役目。それこそが城の散歩である。

城を散歩して、城の中の地形を把握しておくという建前を取っていたが要するにお散歩的なものである。


そして今日もまた、ポチは笑顔で大きく手を振って城の中を探索していたのであった。


「おしごと、おしごと、たのしいなー」


愛らしい声と歌は、聞く者の耳を暖かくさせる。

王城で働く者たちの中でも大半はそうだった。

まだ子供だったからだろう。未だに昔の出来事を夢で見たり心の傷は残っているポチだったが、アルカディオと出会い愛を与えられたことで短い期間でまるで普通の子供のように回復していた。


いつも通りの城。いつも通りの道。いつも通りの行き方。

ポチは毎日繰り返されることで、マーレーン王城の内部を完全に近い形で把握していた。


「ん? なにあれ」


そんなポチは、今日になって初めて在るものを見た。

虫にしては大きく、そして美しい。羽根の生えた人型の飛行体。森林の奥で暮らすと云われる希少種。

妖精である。


「ねぇ、あなただれ?」


パタパタと飛んでいるファーニーに何の躊躇もなく話しかけるポチ。初めて見た存在にもそのような態度を取ることの出来るのは彼女が子供だからだろう。


「ん? あなたこそ誰よ、おチビちゃん」


ポチから話しかけられたファーニーは、羽根をはためかせてポチの顔の前に向かう。


「あなたのほうがちいさいよ?」


「む………………! 口の減らないチビッ子ね、あなた。あなたを見ていると昔のエリスとメアリを思い出すわ」


「?」


一人でにプンプンと怒り出すファーニー。

本来はこれ程短気ではないのだが、今日は元々機嫌が悪かったのだ。そして原因の一因であるエリスとメアリのことを頭に思い浮かべたことで

それが爆発してしまったのだった。

だがそんなことは露とも知らないポチは訳も分からずただ、こてんと首を傾げていた。

すぐにファーニーの怒りは治まった。

そしてポチを見て、妙案を思い付いたとばかりにニンマリと笑う。


「あぁそうだ! 私あなたよりもお姉さんだし、それに今暇だから一緒に遊んであげるわ。こんな所でうろちょろしてるし、暇なんでしょ」


「む……うろちょろなんてしてない。ポチいまおしごとしてるの。だからあそべないの」


ファーニーが暇潰しにと誘ってみたが、ポチはそうすげなく言うとファーニーの横の素通りして、とてとてと歩き出してしまう。

ポチにとっては城の探索は与えられた仕事であるのだ。それを遊びと表したファーニーに対して少し腹が立ったのである。


「ちょ! ちょーと待ちなさいよ! なら仕事ってやつあたしも手伝ってあげる」


「……あそびなんていわない?」


「遊びなんて言って悪かったわよ。もう言わないから」


大人ならば些細なことでも根に持ったりして仲直りに時間がかかったりするが、ポチはまだ子供である。

ファーニーが謝って数秒後には、ファーニーはポチの頭の上に座っているのだった。




「あ! メアリじゃない」

「メアリおねえちゃんだ」


「あらファーニーにポチ。ポチには毎日会っていますが何だかファーニーには久しぶりに会ったような気がしますね。同じ所に滞在しているのに」


頭の上にファーニーを装備したポチが二人して城を歩き回って一時間程。随分と仲良くなった頃に出会ったのは、メイド服ではない女教師の格好をしたメアリだった。ぴったりとした服はメアリのスタイルの良さを際立たせるモノだった。

そんなメアリが投げ掛けた「久しぶりに会った」という言葉に対して露骨にファーニーは不満げな顔をした。


「そうよね。メアリったらいつもトキワと勉強ばかりしているんだから……。それにエリスだってまた学校通ってるし………………あたしそのせいでめちゃくちゃ暇なんだから。超つまんないし」


トキワとメアリ、そしてエリスが忙しいというのは本当の話だ。

トキワはメアリと共に勉強。合間にアルカディオたちとの鍛練を行っている。

またメアリはトキワへの指導、さらにトキワが鍛練している間にはマーレーン王国城でのメイド仕事に励み。

さらにエリスはアルカディオによって建てられた『十五才以上の生徒を対象とした高等教育を行う学校』に毎日通っていた。そこでエリスはマーレーン王国の貴族子女やイケメン貴族子弟たちの間で怒るイジメや恋の駆け引きに巻き込まれていたりするのだが………………その話はまたいつか。

という訳でカタリベからずっと一緒だったメンバーの中でファーニーだけが何もすることが無く、暇をもて余していたのだった。



「暇でつまらない………………ですか? 私にはそうは見えませんが」


ファーニーにメアリはそう言った。

そんなメアリに対してファーニーはムッとして怒りそうになったが、それを止めさせたのはファーニーの下から投げ掛けられた悲しげな声音だった。


「ファーニー…………ポチとのおしごとつまんない? ひま?」


うるうると大きな目を涙で歪めているポチ。

無意識の内にだが、ポチは年上ばかりの周りに胸のどこかで遠慮していた。だが実年齢はポチよりもかなり年上だが、肉体的にも精神的にもてんで年上には見えないポチに対してだけは本当の意味で心を開きかけていたのだった。

そんな中での「暇でつまらない」というファーニーの発言によってポチは先程、城の探索を遊び扱いされたこと以上に悲しい思いになっていたのだった。


「なっ! 何泣いてんのよポチ」


「だってファーニーがポチといてもつまんないって……」


「そんなこと言ってないでしょ。つまんないって言ったのはそれはさっきまでの話で今は違うから! ごめんって、不用意なこと言って悪かったから泣かないでよ」


泣きそうなポチと謝るファーニー。

二人を見てメアリは「全然暇でも楽しくないわけでもなさそうね。私はお邪魔みたいですし、ではこれで」とだけ言い残して去っていった。

メアリが居なくなったことにも気付かないまま、ポチとファーニーは話し合い続けていたのだった。





翌日城にはてててという足音を出しながら歩いているメイド服の少女が一人いた。その頭の上には、これまたトキワに作ってもらったミニチュアメイド服を着た羽根を生やした少女がいたのだった。




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