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勉強

張ってた伏線を回収してみました。


………………後付けちゃうんやで! 一応色々と書いてたんやで!

「トキワ様、十問中八問間違え。ポチは十問中一問間違えです。…………トキワ様、人間誰にも失敗や間違えはあります。次に生かしましょう」


トキワが修行して強くなり、そして世界会議に護衛役として出席することを決めてから一週間。

トキワはなぜか勉強していた。

それも自分よりも十才年下の元奴隷少女のポチと一緒にだ。

かつて組織に所属していたマーレーン王国の将軍だったガウラークの奴隷だった彼女は、今マーレーン王国の王宮でメイド見習いをしていた。

骨と皮しかなかったような身体に、肉がついていて外見的にはもうやせ形の少女といった所だろう。

教師役を買って出たのは、メアリだった。なんでもエリスの子供に勉学を教えられるようにと教員としての勉学を修めていたらしい。

ちなみにメアリの服は普段のメイド服ではない。

スーツ姿に眼鏡、そして銀色の髪を後ろで一つまとめにした教師スタイルだった。大きな胸と尻がイケナイ教師感を出している。


いつものトキワなら、メアリを見て色々と妄想していたのだが今日は違った。


「おにいちゃん……ポチといっしょにがんばろ」


「ありがとうポチちゃん。ポチちゃんの優しさは俺の傷ついた心に染み渡るよ。………………つうかマジで掛け算も出来ないとは」


トキワとポチで、メアリの講義を一時間聞いた後に行われた小テスト。トキワはそれにポチよりもかなり低い正当率であった。同じ授業を同じ時間聞いて、この結果である。

確かにポチは十才に満たないながらも、頭の出来は良く、スポンジが水を吸うように吸収していったことは確かだ。

しかしトキワの結果は言い逃れのしようがなかった。


「まずは今行ったテストの解説をしましょうか。その後ポチはもう少し難しいテスト。その間、トキワ様はもう一度再テストですね」


「わかりました、せんせ」


「………………へーい」


(クッソ、マジで俺ってバカになってたのかよ!?)


口では落ち込みつつ、心の中では嘆いていた。

そして先程のテストに目を落とすと、ひたすらにメアリの解説に集中し始める。


そもそもどうしてトキワが二十歳前になってまで勉強することになったのか。それは世界会議に出席することになったことも原因の一つだ。

各国の上層部が一堂に会す場所なのだ。会議で護衛として出るトキワには言葉を発することはないだろうが、会議ではない所で誰かと会話する可能性はないとは言いきれない。

そして何よりも大きな理由はトキワの周りの人全員が、トキワのあまりのバカさ加減に真剣に悩み始めたということだ。


和の国に行く辺りから、いやカタリベでリッキーと戦ってから段々と加速度的にトキワがバカになっているような気がする、最初にそう主張したのは妖精のファーニーだった。

思い当たる節があったのだろう。

エリスやメアリ、そしてトキワを知るアルカディオやミーシャもまたそれを聞いて納得していた。

実際、トキワは前世でこのアミューズという世界よりも高度な教育を受けていた。その時から頭が悪かったのだが、それでも一生懸命勉強すれば平均点くらいは取れていた。そのトキワがメアリの作った小テストにほとんど間違える程、バカになっているのは確かだった。


以前から皆、病気が原因ではないかと影で心配していたこともあった。

それで先日トキワとキャバクラで話していたアルカディオが本当にトキワの様子がおかしいことを確信したのだった。

そのためアルカディオは過去の記憶を遡って、トキワがバカになっている原因を突き止めた。


それは正確には病気とは言えないものだった。一番当てはまる言葉が代償。そして余りにもトキワのようになった人が少なすぎて、ほとんど誰にも、当事者や世界を旅して色々な人と話してきたアルカディオくらいしか知らないこと。

アルカディオがある国で出会った、『覚醒』したことのある老兵から聞いた話。


「俺は難しい本を読むのが趣味だったんだけどよ。『覚醒』した後辺りから段々と難しい字や単語の意味がわからなくなってきちまってよ。それに怒りっぽくなったり、人の話聞かなくなったりと散々だったぜ。他の知り合いに同じ経験したことある奴なんていないから『覚醒』が原因だったとかはわからないけどよ。大変だったぜ、また元に戻るようになるまで一週間は勉強漬けだったよ」


ここからアルカディオは推論を立てた。つまり『覚醒』すると頭が悪くなるというものだった。人の身に余るその力を星から受けたことによる一時的な代償ではないか、ということだった。

アルカディオにしてもトキワと老兵以外に『覚醒』した知り合いなんて居るはずもないので、正しいことはわからなかった。しかしそうでなければトキワに起こっている症状は説明できない。

真実は星の力を頭に受けたことによるものであり、肉体に受けても筋肉痛以外のペナルティはないのだが詳しいことはアルカディオたちにはわからなかった。だが『強制覚醒』という能力を持っていたトキワでさえその事実を知らなかったのだから仕方のないことだろう。


だが老兵の話では決して戻らない、というわけではなかった。

勉強しさえすれば。


それがトキワにも当てはまるのかどうかわからない。だがやるだけやった方が良いということで勉強しているのだった。もちろん身体も鍛えてはいるが。


「メアリ。この計算はどうなってんのか教えてくれ」


「はい、トキワ様」


トキワはかつてない程に、勉学に集中していた。

遅れを取り戻すように、そして失われていくような自分を取り戻すために。

アルカディオたちから、話を聞かされた時トキワは目の前が真っ暗になったような気がした。

老兵のように普段から何か勉学に関わるようなことをしていれば良かったのだが、生憎トキワは小さな頃から身体を鍛えることしかしていなかった。

そして元々もバカだった。だから気付けなかった。己の変化に。


トキワはエリスたちには言っていないことがある。

別段敢えて秘密にしていたと、言うわけではなかったのだが。

それは今まで既に二回『覚醒』したことがあるということだった。

だからこそ、トキワの恐怖と勉強への熱はさらに大きくなっていく。あの時から、小さな年の頃から自分は段々と段々と、弱い毒がじわじわと回っていくかのように頭から知識や、感情のコントロールが失われていたのだとしたら。

そう考えてしまったからだ。



(エリスたちと出会って直ぐの頃、ご飯を食べている時に……いただきますって言葉の意味を聞かれた。あの時俺は答えられなかった。けど、けど俺たぶん知ってた気がする! それに俺、俺。エリスの気持ちを考えないで、色んなこと言っちまってた。あんなこと、するような奴じゃなかったよな俺)



『覚醒』の代償を知って、ようやくトキワは今までの自分の行動の不可解さに気付き始めていた。


それを理解しただけで、かなりトキワは回復している。

元々大したことのない代償だったのだ。何の対策も行わず、三度も『覚醒』して、十年以上放っておいたことの末に起きたことなのだから。

虫歯だって放っておけば歯全てが抜けてしまう。

それと同じことなのだ。


トキワは勉強を続ける。日が暮れても、ポチやメアリが寝ても、トキワは勉強を続けた、

昔のトキワ、エリスたちと出会う前のトキワに戻る迄。

トキワは勉強を続けるのだった。


そして最後に、勉強しながらトキワは思った。


………………今度から虫歯になったら即治療だな。





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