世界会議
11月になるまで、投稿が遅れることが多いと思います。
雲一つない青空。地を照らす暖かな日光。
和の国とは違い、一年中夏のような温暖な天気が続くマーレーン王国ではこのような天候は当たり前のことだった。
「いやー久しぶりの陸だな」
背中に鞄を背負ったトキワが言う。そこにはトキワだけの荷物ではなくファーニーの荷物も入れた鞄だった。どんなにトキワが提案しても、エリスやメアリがトキワに自分達の荷物を持たせることはなかったため鞄はそれほど大きくはない。
「本当に懐かしいです。それに相変わらず船から地面に移ると歩きにくいですわ」
トキワに続いてエリスも話す。
船に慣れきっていたためか、平行感覚がおかしくなっており歩くのに苦労していた。
「お嬢様、お手を拝借」
そんなエリスに手を差し出すメアリ。
エリスはメアリの手を取って、よたよたと歩き出す。
「むはー! マーレーン王国だー!」
パタパタと飛びながら、ファーニーはトキワの頭の上に乗る。
鱗粉がトキワの目に入っているのだが、ファーニーはそんなことを気にしない。
「久しぶりだね、トキワくん。エリス嬢やメアリ嬢やファーニー嬢も。改めてようこそ俺の王国へ」
マーレーン王国の王都の港に着いたときに出迎えてくれたのは、なんとマーレーン王国の王であるアルカディオ直々であった。
普通こんなことは起きない。それこそ国賓に対してならば話は別だが、トキワたちはいくら身分が高かろうがそれほどではない。
ならばなぜアルカディオがここにいるのか?
それはアルカディオと共に一ヶ月程過ごしてきた面々ならば簡単にわかることだった。
「王様、俺たちを利用して仕事サボっただろ」
「………………ハッハッハ。トキワくんそれは内緒だよ」
政務嫌いのアルカディオは、トキワたちを迎えにいくと言い張り他の部下たちに仕事を丸投げしてここに来ていたのである。
無論、だらだら城まで帰って今日も仕事を全くしないで過ごすつもりだったことは言うまでもない。
「と言うわけでだ。俺はまだ城には帰りたくないんだが、皆は疲れているだろう? だからこれから休憩がてらお茶でもどうだい。美味しいところ知ってるよ」
アルカディオは最高の笑顔でそう言ったが、トキワたちの雰囲気は白けたものだった。
「いや、早く帰った方が良いだろ」
「あの、私もそう思います」
トキワとエリスの忠告も何のその、アルカディオはニコニコ笑顔を崩さない。まるで勝ちを確信しているかのような余裕ぶりだった。
「まぁまぁ。俺の知り合いがね、最近王都に出したスイーツ店なんだ。もう貸し切りの予約も入れてることだし行こうよ!」
(既に予約まで入れてやがった………………。そこまでして休むつもりだったのか)
「え!? スイーツ! 食べたーい!」
アルカディオの言葉に反応して、ファーニーは羽根をパタパタしながらトキワの頭の上空を旋回する。そのたびに鱗粉がトキワの頭の上に落ちてまるでフケのようになっていたが、ファーニーは気にしない。
アルカディオの執拗な誘いと楽しみだと言わんばかりと笑顔のファーニーに耐えかね、トキワたちはアルカディオに着いていこうとした時のことだった。
「あら、あんた。仕事サボってどのお店に行くつもりかしら?」
「………………ミーシャなぜここに!?」
アルカディオの背後から音も無く、ミーシャが現れていた。表情はアルカディオのようにニコニコとしていたが、とても怖かった。
トキワたちは、アルカディオはミーシャに連れていかれるだろうと予想していたが、今回それは外れてしまう。
「ふ~ん。まぁこのバカ王が勝手に予約入れてたみたいだし、今日のところは皆でそこ行こっか?」
「「「え?」」」
あっけらかんとしたミーシャの発言に耳を疑ってしまうトキワとエリスとアルカディオ。思わず聞き返してしまう。
「だ、か、ら! 今日だけは許してあげるって! だから行こ、美味しいお店」
「な、ミーシャ。どうしたんだい急に。普段はいちいちガミガミ口うるさくて、仕事をサボったり君の給料をピンハネしたり財布からお金抜き出したりしただけで怒るのに………………。もしかして何か悪いものでも食べたんじゃないのか?」
アルカディオがミーシャを心配しているのか、バカにしているのかわからないような発言をした瞬間アルカディオは宙を舞った。
ミーシャが魔法でアルカディオの足元から石柱を出現させたためだ。
だがそんなことも何のその。華麗にアルカディオが空中で二回前転して地面に降りる。
だがそれすらもミーシャは読んでいたのだろう。その時突き刺さるミーシャの拳。
「あんまり調子に乗らないでよね、バカ王。次ふざけたこと言ったらマジでアソコを潰すから」
ミーシャの絶対零度の視線と言葉に、アルカディオはただ頷くことしかできなかった。
そして関係の無いトキワまでもミーシャの言葉に震えていた。
アルカディオが用意しておいてくれた店。
新装開店したばかりだろう。内装その他諸々は新品であり、非常に清潔感がある。
敢えて中古品を置くことで、風情を感じさせるという手法もあるのだがこの店の雰囲気的には新品の物を集める方があっている。
店主が店の奥に案内してくれた個室に座るエリスは隣に座るトキワに親しげに話しかけた。
「素晴らしいお店ですね、トキワ様」
「ああ。王様が言うくらいだし、期待できるなぁ」
夫婦のような気安さを感じる、二人のやり取り。
それを見て、アルカディオとミーシャは敏感に反応した。そしてエリスの後ろに立つメアリの方を見て目で訴える。
トキワとエリスの間に何かあったのか? と。
それにメアリは首を横に振る。
無表情なので、わかりにくいがメアリとしてはトキワとエリスの間に余り進展がないのを非常に残念に感じていた。
ソウジロウさえ居なければ今ごろ………………と考えてしまう程にだ。
「店主、本日のおすすめケーキをホールで三つ。それと季節のパフェを五つ。後、メアリ嬢の持ち帰り用に本日のおすすめケーキをホールで一つ。………………それとうちの新しいメイド見習いのために持ち帰りでケーキを五種類ほどもらおう」
「はぁ!?」
アルカディオが店主に注文しているのを聞いて、思わずトキワが叫ぶ。
トキワが驚いたのはアルカディオがここでは食べられないメアリのために持ち帰り用を注文してくれたことではもちろんない。
量が半端ない程多いことだった。
ここで食べる分も、そして持ち帰りの分も。
この世界では成人しているトキワは、もちろんそれなりの量を食べる。
だがそのトキワでさえも驚く量である。
共に暮らしていた時、そして旅をしていた時、ここにいるメンバーが食べていた食事の量をトキワは知っている。その時はアルカディオとトキワ自身を除いた皆は、人並みの女性程度しか食べていなかった。
「楽しみねー!」
「はい。そうですねミーシャさん、私も楽しみです」
「うわーケーキ食べるぞー!」
「御厚情痛み入ります」
それにも関わらずアルカディオの注文を聞いてもエリスたちは平然としていた。それどころか、ウキウキとしている。
最後のは、メアリがアルカディオに頭を下げながら言っていたのだがメアリも同様で表情は変わらないが何処か嬉しそうだった。
それを見たトキワは目を見開いて驚く。
「トキワくん。どこの国の女性でもスイーツだけはたくさん食べるんだ。覚えておくといい」
すると見かねたアルカディオはすぐにトキワに声をかけた。
色町で様々な女性と関わってきた色男のアルカディオなればこその言葉だった。
童貞のトキワでは一生かけても追い付けないレベルにまでアルカディオは既に到達していたのだった。
(でもそれでも、さすがにあの量は食えないだろ………………)
まだ半信半疑のトキワはこの後信じられないモノを目撃する。
見ているだけで胸焼けしそうな程の、食いっぷり。あれだけ食べてさらにおかわりを注文するミーシャたち。
女性の神秘を目撃するのだった。
「あ、ところでさ今度ガイア平原の塔で色んな国に呼び掛けて会議することになったから。もちろんエリス嬢たちのアルサケス王国も呼んでだよ」
食後の紅茶を飲みながら、何気なくアルカディオが言った言葉は場をざわつかせることになった。




