プロローグ
短いです。
プロローグなので内容も薄っぺらです。
軽い気持ちで読んでください。
後継者騒動に伴う、他領とクニシロ領との戦いから既に一ヶ月。
トキワたちは修羅の国との貿易を済ませたマーレーン王国の貿易船に乗って、再びマーレーン王国へと帰ろうとしていた。
行きと同じくしばらくかかる船旅。
行きしと違うのはカエデの不在だろう。アホの娘が一人いないだけで随分と静かで、そして少し寂しかった。
心なしか船上の皆のテンションも低いように感じる。
「………………んむぅ」
日が仄かに差す午後三時頃。
ちょうど良い穏やかな天候にあてられてか、トキワは船の上で船をこぐと言う字面にしてみれば些かややこしいことをしていた。
「あの、トキワ様。お部屋に戻られた方が………………」
「ん………………だいじょ、ぶい」
エリスの忠告にも、寝ぼけながら空返事をするトキワ。いつもであれば大変気遣うエリスへの対応も今日ばかりは適当だった。
「トキワ! 爺ちゃんが今日も来たぞい!」
「ゲッ!? また来やがった、てめぇ。早く家帰れ!」
トキワとエリスが庭で鍛練を行っていると、そこに突然ゲンが現れた。ここ数日、時間や場所をトキワが変えても毎日やって来ていた。
心の奥底から恐怖を植え付けられているトキワはゲンにデカイ口を叩いても、足がガクガクと震えている。
本能的に勝てないことを悟っているのだ。
「ホホホ。ほんじゃあ、トキワの嫁さん。夜までトキワを借りるぞ」
そうゲンはエリスに言う。
エリスはその言葉に頬を赤らめて照れる。毎回会うたびに言われるのだがまだ慣れないのだ。
そのままゲンはトキワの鳩尾を殴り、トキワの動きが止まったのを見計らって肩に担ぐ。
そしてそのまま走り出した。
行き先はいつもと同じ、クニシロ家所有の森である。
そこで今日も虐待と言う名の修行と愛の鞭が始まるのであった。
「ほらほら、パンチが遅い。こんなモノ止まって見えるわい」
「クソッ!」
トキワの一撃をゲンはアクビをしながらかわす。
それに腹を立てたトキワは、さらにゲンの方に踏み込み二度三度再び殴りかかる。が、それさえも容易くゲンはかわす。
ちなみにトキワが放ったのは、この前クチナワと戦った時に放ったジャブだった。クチナワでは避けられなかった力よりも速度を重視した攻撃でさえもゲンにとってはかわすことは難しくなかった。
「今度はこっちからいくぞ」
「げ!? いやちょ待って!?」
いつの間にやら、ゲンはトキワの傍に立っていた。
あくまでもきちんとゲンの動きはトキワには見えてはいるのだ。ただトキワの想定以上に早かったり遅かったりして、トキワはリズムを崩されていた。
ゲンの拳がトキワの鼻っ面に突き刺さる。
トキワは情けなく短い叫び声を上げて吹き飛ばされる。
「馬鹿者。後ろに逃げようとしたからバランスを崩されたのじゃ。今みたいに避けられそうにない時は腹をくくって自分から相手の拳に頭突きするくらいの覚悟がないと勝てんぞ」
そう言いながらゲンはトキワの腹に蹴りを落とす。
容赦のないその一撃は完全に殺しにいったソレだった。鈍い音が響き渡りトキワの腹部にかなりのダメージを与えたことがわかった。
それによりトキワからカハッという声がこぼれる。
「フム………………。まだまだ大丈夫そうじゃのぅ。なら今度は昔教えられなかったネジリ込む攻撃の仕方を教えようかの。まずは喰らってみよ」
トキワが血を吐かなかったのを見て、トキワがまだやれると判断したゲンは爪先をトキワのズボンのベルトに引っ掛けて蹴りあげる。
二度三度、宙を舞いそしてトキワは地面に立った。だが足元はおぼつかない。
「ぐっそヤロヴ!」
トキワは、口から大量の唾と涎をぶちまけながら怒鳴る。
そしてそのまま駆ける。ゲンの方へと。
頭の中からは恐怖が消えて、残るのはただ怒りと生存欲求だけだった。
「ほう、また学んだか!」
だが一直線に向かうことはなく、トキワは足元の砂をゲンの視界を潰すようにして蹴り上げた。
それを見て、ゲンは嬉しそうに笑う。
自らがトキワにぶつけた生き残るための、勝つための術をスポンジが水を吸うように吸収していくトキワを見ていると嬉しくて仕方なかったのである。
「ガアア!」
トキワの放つ攻撃は、がむしゃらに見えたがその実力任せなソレではなくただ当てることを重視したジャブ。
先程と同じような速度で放たれたソレは、先程とは違いゲンの頬をかする。
「ほう、緩急も身に付けた!」
それを見て、そして頬から流れる血を拭いまたゲンは深く笑う。
「………………じゃがまだまだじゃのう。取り敢えずコレを喰らっておけ。そしてまた学んで強くなれトキワ。お前はワシの大切な孫、誰にも殺されることない程強くなり天寿を全うせよ」
「ガアアァ!!」
「ギャアアアア!?」
「ヒャウン!?」
嫌な夢を見て、トキワは目を覚ました。そしてそのまま頭を乗せていたモノからどかして、起き上がる。
思わず叫んでしまうトキワに、また驚いて可愛らしい悲鳴が聞こえた。
トキワは寝ぼけ眼をこすりながら、辺りをキョロキョロと見渡す。
日が沈もうとしていた。夕暮れ時である。
だいたい五時前くらいだろうとトキワはあたりをつけた。
「………………エリス?」
トキワは悲鳴の正体である少女に声をかけた。
「は、はい………………。トキワ様もしかして何か嫌な夢でも見られていたのですか?」
メアリが用意したのであろう、クッションの上に女の子座りしていたエリスが聞いてくる。
ムッチリとしていて、でも決して太っているというわけではない。男の人が好きそうな程よい肉付きの足にトキワは見惚れる。
けれどもあんまり見ていて、それに気付かれては気持ち悪がられると判断したトキワは早々にエリスの足から目をはずし、質問に答えようとして………………はたと気付く。
(さっきまで俺が頭を乗せてたのって………………もしかして)
「あの~トキワ様?」
なにも答えないトキワを心配したのか、エリスが呼び掛けてくる。
「ひゃ、ひゃにかな?」
あの太ももに頭を乗っけていたのか、と考えるとトキワはまともに喋ることができないほどの恥ずかしさと嬉さで胸がいっぱいになる。
マーレーン王国まで後二週間程の海の上でのことだった。




