パーティー
遅れて申し訳ありません
アルファーム大陸にあるアルサケス王国。
その歴史は大陸にある国の中でも一番古いとされている。一説では神話に描かれた時代からあったともされている国だった。
滅びずに済んだのは、立地上攻めづらくまた手に入れてもそれほどメリットのない土地柄であるから。そしてそのため歴史上一度も内乱が起こらなかったという奇跡にも近い理由からだった。
まさに安定という言葉がふさわしいこの国に、危機が迫っていた。
そう未だかつてなかった内乱が起ころうとしていたのである。
ことの発端は第二王子アキレウスが平民の少女に入れ込んだことから始まった。
平民の少女の名はマリア、彼女はその類い稀な魔法の才能でアルサケス王国の貴族しか通うことを許されていない学園に通う許可を得ていた。
マリアは学園に通う内に、アキレウスやその他大勢の有力貴族に好かれることになった。
そのまま学園生活が過ぎ去り、いよいよ卒業という時だ。マリアに惚れ込んだアキレウスはそこである事件を起こした。
それが、一方的な婚約破棄だった。
親や家が決めた縁談を事前の申し入れもなく、行ったのである。
その相手とはアルサケス王国でも一二を争うほどの大貴族ユグドレミア家の長女であるエリスフィア ユグドレミアである。
婚約破棄で話が終わればまだ良かった。いや、いいと言うわけがないがまだマシだったのだ。
だが話はまだ悪い方に続く。
あろうことか、アキレウスたちはエリスフィア ユグドレミアを魔の森に放逐し勝手に国外追放させてしまったのである。
エリスフィアは《魔物避け》という特殊能力を持っていたから命が助かったが、それを知らなかったであろうアキレウスたちはエリスの命を狙ってわざとそこに放逐したことは、はっきりとわかる。
大衆の面前で行われたこれらの行動はすぐに貴族たちに知れ渡る。
元々、体を崩し全く人前に姿を表さなくなった国王のことを苦く感じていた貴族派。そして妾腹ではあるが、第二王子であるアキレウスよりも人間的に優れた第一王子を後継者にと推す第一王子派。
さらに元々国王派ではあったが、今回の一件で失望して袂を分かった者たちも大勢いた。
さらには、エリスを追放した者たちの実家もまた動いていた。最近の評判の悪さ、さらには自らの家を考えない勝手な言動、そして家の存続のため当事者たちと縁を切り対王派へと鞍替えしていた。
その中でも加害者と被害者の両名がいるユグドレミア家は内乱を回避したいためどちらかにつくということはなかったが、加害者の長男とは絶縁したため本心ではどちらに着きたいかなど、皆は口に出さずともわかっていた。
圧倒的に国王派や第二王子派は不利な立場にあった。
それにはアキレウスやその取り巻きたちが全く人前に出なくなったということもあるのだが………………。
国民たちもまた、そのような情勢を肌で感じたのであろう次々と王都からは人が離れていく。
そして今、国の中心であったはずの王都から人は消えさながら廃墟のようになっていた。
国の中心はまた別の所に移っている。
勝敗はすでに見えており、ただ貴族派たちは王都の王城に居座る王たちが白旗をあげるのを待っている状況だった。
そのような情勢の中今王城の中では盛大なパーティーが開かれていた。
ただメイドや執事の格好をした者は大勢いるが客は一人しか居らず、寂しげな顔を張り付けてチビチビとワインをすすっている。
それに見かねた、黒い仮面をつけメイドの格好に身を包んだ少女は一人座るアナスタシアに話しかけた。
「あの~アナスタシア様ぁ………………。このパーティーって何の意味があるですかね?」
黒い仮面をした少女はこの一人しか居ないパーティーを疑問に感じていたのだ。
いつもの黒いドレスから一転パーティー用の胸元が大きく開いた赤のドレスに身を包んだアナスタシアは少女の物言いにビックリしたような顔を張り付ける。
「あれ? 貴女知らないの、今日のこと?」
「え~と……もしかしてあたしがマーレーン王国でアルカディオのあん畜生に馬車の中でぶっ殺されてから復活するまでの間に言った話ですかぁ?」
「ええと………………確かそうじゃないの? たぶん」
「なら知らないっすね~。教えてもらえませんか?」
あっけらかんと言う黒い仮面の少女………………まぁ此処に居るアナスタシア以外の者は全員黒い仮面を身に付けているのだが。
アナスタシアはクスリと笑う顔を張り付けて、ワインをまた少しあおる。そしてポツポツと話始めた。
「今日はねぇ。懐かしいお友達が来るのよ、二人もね」
「えぇ!? アナスタシア様友達居るんすか!?」
「………………友達くらい居るわよ。もう『黒面』ったら」
プンスカとした顔を張り付けたアナスタシアは頬を膨らませながら抗議する。
「んで? 誰なんすか?」
「ええと………………ほら噂をすれば来たみたいよ」
アナスタシアが指差した所には何も無い。
黒い仮面の少女はそれに首を傾げていたが、少し経つとそこから黒いコウモリが現れた。それも一匹と言わず大量にである。
その様子は薄気味悪く感じるおぞましい光景だったが、ここにいるアナスタシアと『黒面』たちは皆ケロリとしていた。
コウモリたちは一塊になる。
そしてコウモリたちの姿はたち消え代わりに一人の少女の形になった。
少女の姿はゴスロリと表現するのが正しいフリフリとドレス姿であり、またその服装に似合った人形のような美しい顔立ちをしていた。
金色の黄金のような髪に、赤い瞳、そして口元から覗く鋭い犬歯。
背は小さく胸はない、十二才ほどの年齢にしか見えない。
「アナスタシア、久しぶりね! 元気だったかしら?」
ゴスロリの少女はニコリと笑ってアナスタシアに話しかける。
随分と機嫌が良さそうであった。
普段はこのようではなく、機嫌悪そうにしていることが多いためアナスタシアは驚いたような顔を張り付けた。
「あらメロディ姫。随分と嬉しそうね、何か良いことでもあったのかしら?」
アナスタシアの言葉にメロディと呼ばれたゴスロリの少女はますますニコニコしながら言葉を返す。
「アナスタシアのプレゼントのお陰じゃない!? あんな良い素体はないわよ! 顔も実力も才能も段違いよ、それも王族の子や大貴族の子たちみたいな育ちが良いのばっかりだし。今までの吸血鬼、そして《人形師》人生の中で最高の『人形』の完成よ! 」
メロディは鼻息をふんふんと吹かせながら、アナスタシアに詰め寄る。
距離は近く、いつでもキスができそうだ。美少女と美女のキスシーンともあればもしトキワが近くで見ていたら興奮して二三日ムラムラのあまり眠れそうにないほど、淫靡な光景だった。
「あれー? もしかしてあの子たちが居ないのってメロディに渡したからだったっけ?」
「そうよ、アナスタシアが私の誕生日プレゼントにってくれたんじゃない!?」
「なら良いや。どうせあの子たち、いらなかったし」
アナスタシアはきっぱりと言う。
「ふふん。また見せてあげるわね!」
「楽しみにしてるわ」
ない胸を張るメロディにアナスタシアがそう返す。
年齢で言えばメロディの方が大分年上であるのに、まるでアナスタシアの方が大人のようだった。
肉体が精神を引っ張るという良い例だったのかもしれない。
「随分と盛り上がってるみたいだな、これなら俺は居なくても良かったんじゃないか………………?」
アナスタシアとメロディが話していると、後ろから男の声が聞こえてきた。
男にしては少しばかり高いその声。
メロディとは違い、機嫌の悪さが伝わってくるような声だった。
アナスタシアとメロディが振り向くと、そこには二人が見知った顔がある。
男にしては長い栗色の髪を肩まで伸ばしている。顔は男だとははっきりわかるが、可愛らしい顔つきをしている男だった。
年齢は十八才だが、見た目だけならもっと若く見える。まぁ実年齢から千才以上若く見えるメロディとは比べ物にならないが。
「あらキャンベル。貴方も来たのね! 私のお人形凄いのよー! 貴方も死んだら私のコレクションの一部にしてあげるわー!」
メロディがコロコロと笑いながらそう言う。
それに対してキャンベルと呼ばれた男は苦い顔をしながら言葉を返す。
「色々とツッコミどころはあるんだが………………取り敢えず名前で呼ぶの止めろ。ハスターって呼べよ」
キャンベル・ハスターは自らの顔や声、何よりも名前がコンプレックスだった。只でさえ女っぽく見られることが嫌なのに、名前が極めつけに女らしい名前だからである。
そんな思いが全面に出たキャンベルの発言を完全にスルーしてメロディはさらに話続ける。
「いやぁ。相変わらず貴方可愛い顔してるわねキャンベル。貴方が人形に加わったら美少年にイケメン大集合の最強軍団が作れるわ! 国滅ぼせるレベルのやつ!」
「話聞けよてめぇ」
キャンベルは額に青筋を浮かべている。
だがメロディはそれに気付かない。………………気付いた所でどうもしないのは確かだが。
「二人とも仲が良いわねぇ。友達同士が仲良いのは嬉しいわぁ」
そこにアナスタシアが空気を読まずに話に混ざる。
メロディは機嫌が良いため、そうね~とだけ返したがキャンベルはそれに嫌そうな顔をした。
「………………もうツッコむのはいいや。それで………? 何のために俺らを呼び出したんだよ。なんか命令でもあるんならいつも通り使いよこしてくれれば良いだろ」
キャンベルの質問にメロディも同調する。
「確かにそうよね~。私はアナスタシアに会いたかったから別ないいけど、それは気になったわ」
アナスタシアはにっこり笑顔を顔に張り付けて一言
「取り敢えず………………『黒面』たちが用意してくれたご飯食べながら話ましょう。………………と言うわけでよろしくね」
「あい~す! アナスタシア様」
黒い仮面の少女のエスコートでメロディとキャンベルもまた席に着く。
滅び逝く運命の城の中でパーティーが始まった。




