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エピローグ

これにて第2章は終わりです。

次回から第3章になります。

和の国を出て、またマーレーン王国に戻ります。

2章よりは面白い………………? 感じになるとは自分でも思ってるんでよろしくお願いいたします(書いているとはいっていない)。



「トキワ様、こんな所にいらっしゃったのですね」


「エリスか」


真ん丸とした大きな満月。

和の国では風情があるとされるそれの周りには、たくさんの星たち。

地球では場所を選ばないと見ることができないほどの美しい景色。その下でトキワは一人、果実水と焼き鳥片手に一人くつろいでいた。


時刻はもう夜中だろうか。

普段は寝るのが早い、トキワもエリスも今日ばかりは起きていた。

もちろん疲労はある。なんせクチナワたち呪い師と戦ってまだ十時間程しか経っていないのだから。



クチナワを新しい必殺技で倒したトキワはそのかっこよさに別の意味で痺れながら、一人空を眺めていた。

そんなクニシロの城の城郭にあるクニシロ邸の庭のベンチに座るトキワの隣にそっとエリスが腰かける。

手にはトキワと自分のためだろう。皿に盛った焼き鳥や焼き肉に果実水があった。


(距離が近い………………。風呂上がりの良い匂いがする)


ロマンチックな空を見上げながら好きな人と共に過ごす。

トキワは今まさに人生の絶頂期に居た。まぁ、唯一気に入らないことがあるとすればエリスと恋人ではないということなのだけれど。


「トキワ様は皆様との宴に混ざって来ないんですか?」


「俺そういうの苦手なんだ………。こうして二人で飲んでる方が楽しい」


トキワはわいわいと人と騒ぐことがずっと苦手だった。新年会や忘年会も基本的にあまり楽しいとは思えなかった。酒が弱いからもあるだろうが。


「そうなんですか………………」


トキワの二人で、という発言が嬉しかったのだろう。エリスは少し機嫌が良くなり、笑顔が見える。

そのまま二人の間はまた黙る。

時折、果実水を口にしたり食べ物を頬張ったりするが、会話らしいものはなかった。このような静寂をお互い楽しんでいる。

価値観の似た二人はとても相性が良いことがわかる。


「そういえば………………トキワ様、おめでとうございます」


「ん? 親父たちのことか。………………俺は国出たから、今一関係ないからなぁ」


トキワとクチナワそしてムラサキとハバキリたちとの戦いが終わりカガリを無事に取り戻した後のことである。

先に城へと着いたトキワたちの後から、ゾロゾロと部下たちを引き連れてリュウやゲンそしてソウジロウたちが帰還した。

その中には、トキワたちが港町で世話になった鎧武者の姿もある。誰もが土や血に汚れており、中には傷ついた者もいたが皆がやりきった顔をしていた。

たまに首を掲げている者も居り、エリスは卒倒していたが。

どうやらリュウたちは、クニシロ領にちょっかいを出してきていた敵の本隊と交戦しその後壊滅させたらしかった。

それもソウジロウがあまりの背の小ささにより馬からたまたま落馬したことを、敵からの攻撃を受けたとか難癖をつけて突然総攻撃を仕掛けたらしい。


(我が父ながら悪どいやり方だ………………。俺も似たようなことすると思うけど)


リュウのやり方を責める者もいるかもしれない。だが、歴史上このような難癖をつけるということは幾度となく繰り返されてきたことである。

有名な事件で例を挙げるとする阿衡の紛議や大阪冬の陣で使われた手も同じだ。

その事は知らないにしてもトキワはリュウを責めることはない。

トキワは気付いていないが、和の国で育っていくうちにいつの間にかリュウたちの考え方が身に付いていたのである。


「そちらだけではありませんわ。トキワ様のお兄様のこともです」


「あぁ………………そう言えばそっちもだな」


トキワは若干嫌そうに顔を歪めて応える。


リュウたちが凱旋し、皆で宴が始まった。

全員がぐでんぐでんに酔った頃、ムラサキは爆弾を放り込んだ。カガリとトキワの見慣れない綺麗な女性を連れて、皆の前に出て結婚することと妊娠していることを発表したのだ。

どうやら見慣れない綺麗な女性はムラサキの本妻になる予定の女性らしく、これまた同じタイミングでムラサキは当てにいったらしい。


これには酔っていないトキワや、ほろ酔い気分のエリスは驚いた。

もう一人もかよ、とツッコんだのはトキワだけで他の面々は酔っていたので適当に囃し立てて了承していた。

言質は取ったとばかりに悪い笑みを浮かべたムラサキは二人の妻の手を取りどこかに消えていった。


トキワとしてはムラサキが童貞でないどころか、二人相手にあんなことやそんなことをしているのだと知り一気にムラサキのことが嫌いになっていた。


「カガリ様と本妻の方………………随分と仲が良さそうでしたわ」


「前々から三人で仲良くしてて、今回の事も全部グルだったんだろうよ! あのスケコマシめ。つうかアイツ色々と俺たちに黙って絶対何かしてたぞ」


トキワの言う通り、ムラサキの本妻とカガリは仲が良かった。

ムラサキは縁談の話が来た時に選んだ女性と婚約を済ませた後、本妻の女性をカガリと引き合わせていた。

本妻の女性もカガリも箱入りだったこともあるだろう。同年代の同性の友達が皆無の二人はどんどんと仲良くなり………………ムラサキの思惑通りに事は水面下で進んでいたのだ。

まぁ他にも色々とムラサキがしていたのは本当のことだった。また同じようにトキワの母や祖母さらにはリュウやゲンもまたである。

だがトキワがそれをもはや知ることはないだろう。もともとトキワは和の国を出奔した身なのだ。

昔の恩義に報いるため、戦いくらいになら手はいくらでも貸す。弱い敵なら尚更である。

しかし領地に関する諸々のことなどはトキワは知る必要がない。


そのためムラサキがヒヅチを遺体としてではなく人形として持ち帰っていたということもあるのだが、これにより一体これからどのようなことが起きるかトキワは知ることはなかった。


「トキワ様。貴族であれば側室の一人や二人作ってもおかしくはないのですよ?」


「さすがにそれは俺でも知ってるよ。まぁ俺はあんまり器用じゃないから、一人しか愛せないけどな」


エリスの顔を見てトキワが溢した一言。

それに強烈な反応を示したのは、言われたエリスと言った本人であるトキワだった。

深夜のテンションだからだろうか、柄にもない言葉を言ってしまったとトキワは後悔する。それと同時にエリスは今のトキワの言葉にどのような反応を示すのかがとても気になった。


「あの、私も、わかってはいるのですが、やはり………………私のことだけを見てくれる殿方と、その添い遂げたいと………」


チラリチラリと上目遣いになりながら、顔を赤くしながらエリスはトキワに告げた。

そのあまりの可愛さと、胸元から覗く大きな胸にトキワの胸もまた高鳴り、同時に顔が赤くなるのを感じた。

二人ともほとんど酒は飲んでいない。そのためアルコールで顔が赤くなっていないことなど、簡単にわかる。


「あのさ、エリス………………」


「………………はいトキワ様」


二人の距離が近づく。

もともと近かった距離を完全に埋めてしまうように、二人の影が重なろうとしていた。


エリスが目を閉じた。

つられてトキワも目を閉じる。


互いの吐息が聞こえる距離。トキワとエリスは互いに詰める。



「義兄様ー! そんな所でなにやってりゅんれすかーぁ?」



トキワとエリスの時が止まった。

二人の世界から出てきたトキワとエリスが見たのは、へべれけになったソウジロウの姿。

頭に包帯を巻いているのは戦場で頭から落馬したことによるものであろう。実に痛々しい。


………だがトキワにはそのようなことはどうでも良かったのだ。

最高の時間を邪魔されたせいか、トキワの頭には太い血管が浮き出る。


新しく覚えた打突マイナスで本気で葬ろうか、そう思った時だった。


「トキワ様が手を下す必要はありません」


どこからか、メアリが現れた。

先程まで厨房でご飯を作っていたからだろうか、服装はエプロン姿だ。

そのままメアリはへべれけのソウジロウを何処からか出した糸でぐるぐる巻きにし、引きずって連れていく。

わざと頭が地面にくるようにである。


「では後はお二人で。もう邪魔は入りませんから」


そう言い残して、足早に去っていった。


邪魔者は消えたとはいえ、せっかくのムードをぶち壊されたのだ。

トキワとエリスの距離は自然と先程までと同じくらいに開いていた。



「ええと………………ですが幸せそうで良かったです。正直あの部屋でトキワ様のお兄様からお話を聞いた時、不幸なことになるとしか考えられなかったので」


「ダイジョブだろ。兄貴なら」


気まずい雰囲気の中言葉を絞り出したエリス。

そしてそれに返すトキワ。


再びの沈黙。

だがそこにはいつもの何とも言えぬ居心地の良さはなく、ただただ気まずさだけがあった。



「………………トキワ様は和の国に来た時、突然クニシロの家の皆様に色々と頼み事をされていました。そしてそれを文句も言わず全てこなしてしまいました。信頼なさっているのですね」


ぽつりとエリスが言った。どこか寂しそうな、それでいて懐かしい昔話をするような声音だった。

その言葉は無理に絞り出したものではない、それくらいはトキワでもわかることだった。


「エリスも心配みたいだな、故郷の親父さんたちのこと」


エリスはトキワたち家族を見て、己の家族を思い描いていた。

まだマリアが現れていなかった頃、そして弟がまだ正常だった頃の思い出を。


「大丈夫です! 私の自慢の家族ですから」


「ああきっと大丈夫さ。きっと………………」


根拠のない言葉かもしれない。

だが根拠がなくとも、そこにはエリスを労るトキワの気持ちが籠っていた。

だからエリスは嬉しく思う。






家族であっても、その関係に甘えるられる者とできない者がいる。

血を分けた肉親に甘えられない者の気持ちはトキワにはわからない。

トキワはリュウたちの願いを言われるがままに従える。こうして書けばまるで便利屋のように扱われているだけだが、逆もまた同じなのだ。


そしてそれが絆の形。


人それぞれ異なるそれは、人それぞれ美しい。

人と人とが出会い、別れそれぞれの絆を造る。


ムラサキはカガリたちと、新たな絆を造った。

トキワはまた帰郷によって絆を取り戻した。


そしてチートな転生者のトキワは、あの日拾ったエリスとの絆を造っていたのだ。

それがどのような形に落ち着くのか、まだわからない。

だがせめて、悪いものでないとだけは祈りたい。




続く。


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