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後継者騒動 10

しんどすぎて日本語変かも………………

トキワとクチナワが最後の決着をつけるための戦闘を行っている頃、少し離れた四上山の平原で多くの人間が呻きながら地面に倒れていた。呪い師やその操り人形である人柱たちだ。

中には死んだのか、動かない者もいる。


「ヒヒヒ………………元々は私が単体で貴方のお相手をしようと考えていたのですがね。想像以上にお強い」


数少ない、地に伏していない敵の一人であるハバキリがそう述べる。


敵はトキワとムラサキと戦闘する時、あらかじめトキワに戦力を集中させることを決めていた。

それはトキワがタイマンを好み、大人数相手は苦手であることを考慮していた。しかし一番の理由は単にムラサキがなめられていたのである。

トキワは強い。強いから『思考』操作も難しい、だから大人数であたる。そしてムラサキはトキワに比べて落ちる。だからハバキリとある一人の人柱が相手をする。

そういう決まりだった。


だがムラサキは強かった。

昔からトキワと違い、ムラサキは体が弱くいつも家に居た。

当然和の国の各領地で行われる自国の戦力自慢、公開組手も出席していない。

そしてここ二十年程クニシロ領では戦争は小競り合いもほとんど起こっておらず、戦場にムラサキが立ったことはなかった。

つまり誰もムラサキの戦闘力を知らなかったのだ。


そうムラサキの第三の手のことも。


「おかしな話だね。君達は私の『ハンド』を知らなかったのにカガリの妊娠は知っていた。調べようと思えばいくらでも調べられたであろう私の力を知らなかったのに、まだ私でも、カガリが妊娠したと聞いて二日も経っていないのにその事を知っていた」


別の場所でトキワがクチナワに指摘したいたことと同じことをムラサキはハバキリに指摘していた。

トキワたちがクニシロの城下町に着いた時、そのことをリュウはムラサキに知らせにムラサキの私室に向かった(後継者騒動 1)。実はその時ムラサキが隠した手紙こそが妊娠を伝えてきたカガリからの手紙に対する返事を書いていた手紙だったのだ。


「ヒヒヒ………………おめでたい話ですからどこかから漏れたのではないですかな。念願叶って子供が出来て、クニシロ家の当主になり、これでようやく結婚することが出来るようになったのですから」


「それはないよ。カガリは家族にしか知らせていないと言っていたんだ。家族にしか………………ね。それと君は随分私とカガリの実家について詳しいようだね」


カガリの実家。今回敵に襲撃されて半壊したサラシナ家は長年クニシロ家に仕えてきた家臣の一家である。

その褒美と成果そして忠誠心を買われて、リュウの息子とつまりはクニシロ家との縁を作る婚姻を認められていた。そうであればサラシナ家としても次期後継者と目されているムラサキと結婚させたいのは当然であった。

そのためムラサキとカガリは幼い頃から交流があったのである。

二人は幼心ながら、互いに恋心を抱いていた。

だがしかしここで問題が起こった。

ムラサキが大病を患い、そして次第に弱っていったのである。

シビアな話だが、カガリの実家であるサラシナ家は主君であるクニシロ家と絶対に縁を結んでおきたかった。それも次期当主にである。

そのためいくら長男でもいつ死ぬがわからないムラサキよりも、次男のトキワに目を付けた。

何よりも、サラシナ家の当主でありカガリの父である男もまたトキワの強さを目の当たりにして心酔していたのだ。カガリの父はカガリ自身の気持ちを考えることなくカガリの許嫁を是非ともトキワにと進言した。


だがサラシナ家の思惑は外れ、カガリは家に引きこもりトキワはカガリに興味すら示さない。その上、サラシナ家の次期当主であったカガリの兄である男が大事件を引き起こした。

これでサラシナ家の信用はがた落ちする。


その上さらにはムラサキは順調に回復していったのだ。

クニシロ家の次期当主と、カガリを婚約させたかったというサラシナ家の思惑はことごとく空回り事態を悪くさせただけだった。

家臣であるサラシナ家から、カガリをトキワを許嫁にさせてほしいとお願いしたのだ。もう変更も取り消しもできない。というよりもカガリの兄がトキワを殺しかけたことでトキワとの許嫁すら解消されてしまったのだ。

クニシロ家と縁を結べると喜んでいたサラシナ家は一転して不幸のどん底へと叩き落とされた。

そんなサラシナ家にもまた転機が訪れた。


それはトキワが和の国を出奔した後のことだった。

再びムラサキとカガリの交流が始まったのである。

ムラサキはカガリの家にお忍びで通うようになる。お忍び、とは言うものの人の口には戸が立てられぬ。カガリはムラサキの正妻にはなれないが、妾という認識は多くの者が持っていた。

まぁリュウやゲンそしてカエデは知らないことだろうが。

互いに迫る結婚適齢期。カガリはムラサキの妾ということで縁談の話は全く来なかったが、ムラサキにはやはり正妻にと多くの縁談が来た。

ムラサキとしては正妻、側室に問わず兎に角カガリと結ばれたかったが、妾以外であればそれは多くの家が反対することになる。

それらを乗り越えるには権力、つまりクニシロ家当主という立場が必要であった。そしてそのタイミングでの妊娠発覚である。

ムラサキとカガリは、リュウが当主を引退する三ヶ月前そしてカガリの排卵日に合わせて性交して子作りに励んだ。

そして先日ついにカガリが約妊娠三ヶ月であることが発覚した。

さすがにこのタイミングで子供が出来てしまえば、子を大切にする和の国では結婚くらいはできる。


「ちなみにだがサラシナ家が君達もしくは君達の仲間に襲撃された時、死傷者は多かった。カガリの妊娠を知っていた彼女の父も死んだらしいんだが、どうにも腑に落ちないんだ。その死体には拷問の後も見られなかったらしい、となればどこでカガリが妊娠したことを知ったか………………なんだが」


ムラサキが語り続けていた時だった。

一人の呪い師が自らの人柱を動かしてムラサキに攻撃を仕掛けさせた。


と、同時に宙を舞う。

頭から落ちた人柱は、首の骨を折ったのだろう。ぴくぴくと小刻みに痙攣し、そのまま静かになった。


「最後まで話を聞いてもらいたい」


ムラサキが人柱を動かした呪い師の方をピンポイントに見て告げる。

呪い師は顔を青くする。

ムラサキとの距離が近すぎたのだ。人柱がやられたように自分のまたムラサキの殺傷領域に入っていたのだと気づいた。


「ヒヒヒ………………まぁ君達も落ち着きなさいな。話を続きを聞きましょう」


ハバキリもまた、ムラサキの推測を聞きたがった。

意図は不明だがムラサキは取り敢えず話を再開することにした。


「これはうちの妹の未来の夫から聞いた話なんだけれども、サラシナ家では死体が見当たらない人間が多数いたらしい。まぁ死体が残らないほど滅茶苦茶にされたり………………ということは確かにあるんだけどもね。不自然なんだ。なぜかサラシナ家の離れで幽閉されていたカガリの家族もまだ死体が見つかっていないんだってさ」


ムラサキは話続ける。


「カガリの兄だよ………………。私の親友だった男で、どうしてかトキワを襲ったんだ。確かに直情的な性格だったが、それほどバカな男じゃなかった。ずっと不思議で不思議で仕方なかったんだ。だから父上に無理を言って、トキワに罪悪感を抱いてそして助けてもらった。せめて理由が知りたい。そう長い間考えて、そして今回のことで君達のことを知って合点がいった」


「なるほどねぇ。つまりムラサキ殿は私たちが、カガリさんの兄をどうにかしたと言っているのですね」


ニヤニヤと笑いながらハバキリは告げる。

そしてハットを深く被り直しうつむく。

ムラサキが怪訝な目で見ていると、ハバキリが何か小さな声で言っているのが聞こえる。


「ヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ………………」


それは笑い声。芯から絞り出したような笑い声だった。

ムラサキはハバキリの行動の真意を理解している。ハバキリが行っているのは挑発である。

ムラサキの推測を的外れだとでも言って怒らせでもしたいのであろう。


そんなムラサキの考えは外れた。


「その通りです。その通りなのです! いやぁ流石はムラサキ殿だなぁ………………。私がサラシナ家でカガリさんの兄上殿に幼少期から勉学を教えていたことも。その時から徐々に『思考』を操作し続けていたことも。そのおかげで洗脳に近いイヤ違う人形にできたことも。サラシナ家のご当主様にカガリさんの許嫁をトキワ殿にさせるように『思考』を誘導したのも。カガリさんの兄殿を使ってトキワ殿を襲わせたことも。みんなみんな気付いていらっしゃったとは」


いつもの胡散臭い笑みを浮かべながらハバキリはさぞや自慢げにムラサキにそう告げた。

その中にはムラサキが想定していなかったモノも含まれている。


ここでハバキリが全てをネタバラシしたことは予め決めていたことだった。そしてこの後のイベントを彩るためのハバキリの演出だった。


「ということはムラサキ殿。聡明な貴方ならばわかるだろうなぁ、行方不明になった彼が今どこにいるのかが………………感動の再会ですね! 来い『ヒヅチ』」


ハバキリの声と同時に来た男。

黒髪に黒い目、カガリとは少し雰囲気が似ている男だった。

生きてはいるが死んでいる。クチナワとはまた違う、目と表情が死んでいる男がいた。その姿はまるで精巧な人形のようであり、他の呪い師たちが使う人柱とはかけ離れたモノであることがムラサキにもわかった。

この男こそカガリの兄にしてムラサキの親友、そしてかつてトキワを襲った大罪人であった。


「ヒヅチ………………」


「あぁ、ムラサキ殿。名を呼んでも無駄ですぞ。『ヒヅチ』は私の呪い師人生の中でも最高傑作。それはかの吸血姫が作る『人形』に肩を並べるほどのモノです。名を呼ばれても、それこそ殺されてももう元には戻ることはありません」


ハバキリは嬉しそうに、そして楽しそうに語る。


「『ヒヅチ』は大変時間をかけて作った逸品。無意識の内にトキワ殿を襲いその後、自責の念に苛まれて精神が壊れかけたその時に完成させたのです」


「………………やはり私が全て間違えていたのだな」


ハバキリは、自身の話でムラサキが激昂し襲いかかってくるだろうと考えていた。だがムラサキはハバキリの話を聞いても平静を保っていた。

そんな中でムラサキは一言そう呟いた。


「始めから私が自分の意志の元で行動していれば全て済んだことなのだ。私は自分が憎い!」


ムラサキが憎み、恨んだのは過去の自分。

己が気付かなかったから、己が行動しなかったから、己が力不足だったから。

ムラサキの思いは止まらない。


「………………だからこれは八つ当たりだ。君たちを殺すよ」



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