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後継者騒動 2

夜12時45分。

大幅に加筆しました。申し訳ありません。

みすぼらしい浮浪者の格好をした男から放たれた斬撃を、トキワは薄皮一枚でかわしていた。

ギリギリかわしたというわけではない。完全に見切っていたからこそできた神業である。しかしこれは浮浪者の男の実力が低いからというわけではない。むしろただの浮浪者にしては異常すぎる程の実力の持ち主だったのだが、如何せん相手が強すぎた。


カエデとの命がけの修行は、トキワにレベルアップという恩恵と多少の度胸とを身に付けていた。

もはや以前までのトキワではない。


返す刀で振るわれた刀を再び目で見て避けるトキワ。

それを驚愕して見ていた浮浪者の男は、後ろからメアリが近づいていることに気付かないまま簡単に意識を失った。

地面に崩れ落ちる男を見て、トキワは額からわずかにかいている汗を裾で拭った。


「さすがはメアリだな。それ、コツあるの?」


「慣れれば簡単に人の意識程度なくすことができます。トキワ様のあの避け方の方が何倍も難しいと思います」


異常な練度を誇る山賊たちに突然森で奇襲を受けたのはつい先程の話だった。

格好こそみすぼらしくても、目が落ちぶれていない。見る人が見ればわかる程の稚拙な変装だったのだが、メアリ以外は見事に騙されてしまい先制攻撃を受けてしまっていた。

とは言えども、馬車に乗っているもしくは護衛しているのは一流の武芸者ばかりである。

鎮圧は容易かった。今メアリが意識を落とした敵で最後であった。


「この者たちの狙いは何でしょうか?」


「え? 山賊だから、お金とか奪いに来たんじゃないの?」


この襲撃の異常性に気がつかなかったトキワは真顔でメアリにそう答えた。

メアリはトキワの顔を数秒間じっと見つめて、誰にも聞こえないような本当に小さな声で溜め息をついた。

思わず身分の差を忘れて、一言物申しそうになったからである。


「ふむ………………どうやらこいつらの狙いは僕たちだったみたいですね」


「え? ソウちゅん何言ってるんだぞ? 山賊なんだからお金持ってそうな私たちを狙うに決まってるじゃん」


「………………カエデちゃんは少し黙ってようか」


トキワとメアリのすぐ近くでも、ソウジロウとカエデによる似たような会話がなされていた。

この二組の会話を丁度両方聞いていた、ソウジロウの部下の男は思っていた。この二人がもしクニシロ領を統べることになったらとんでもないことになるんだろうなぁ………………と。

たがそんなことは決して口には出さない。出したら切腹だからだ。


「しかしまさかエリスが戦いたがるとはなぁ」


トキワの言葉に、傍にいたエリスが過剰に反応した。


「ふふん、頑張りましたのよ! 私が一人倒したんです」


エリスは今まで見せたことがないどや顔をする。元来の顔立ちや髪型に伴って本当に意地悪そうに見えたが恋するトキワには天使がはしゃいでいるようにしか見えなかった。

トキワは瞬間湯沸かし沸騰器のようにすぐさま顔を赤くするが、実際の所その心境は複雑なモノだった。


トキワはできるだけエリスを戦わせる、つまり危険に陥らせたくはなかったのである。確かに修行はつけたし、エリスは以前に比べて格段に強くなっていた。

今日そこそこ強い敵の一人を倒せる程には。だがトキワがエリスに力をつけた目的はエリスが自らの命を守れるようにである。

命の危機が迫った時にそれに立ち向かう、もしくは逃げるだけの力を備えてやりたいという思いからくるものだった。そのためトキワはエリスには修行以外でできるだけ危険が少しでも伴う戦闘はしてほしくなかった。

だがそれはあくまでもトキワの考えだ。エリスが望んだのならばそれを叶えてやればいい、いざというときは自分が守ればいいとトキワは思い直すことにした。


「強くなったなエリス。俺本当にビックリしたよ」


トキワの口から出たのは紛れもない本心だった。

突然の誉め言葉を聞いて、エリスは満面の笑顔で受け止める。軽くだが頬が赤色に染まっていたことはメアリとエリスの肩に乗るファーニーしか気付いていなかったことだが。


「義兄様、今すぐここから動きましょう」


トキワとエリスがいい雰囲気になっていた頃、ソウジロウが空気を読まずに話しかけてきた。

トキワとメアリ、そしてファーニーは「余計なことをするなよ。良いところだったんだからさぁ」とでも言いたげであったが、どうにもソウジロウの様子がピリピリしているため怒りを抑えて対応する。


「どうしたんだよソウちゃん。何かあったのか?」


「この山賊ども、おそらくは義兄様の命を狙う刺客であります。ここで立ち往生していればもしかするとさらなる数を送り込む可能性があります。今はどうか早く城に着くことだけを考えましょう」


ソウジロウの真剣な訴えかけに、首を縦に振るトキワ。

他の面々も特に異論はないらしく、早々に馬車の中に戻ったり馬に乗ったりとする。

ここでエリスやメアリはなぜここに刺客が現れたのかを理解した。ソウジロウの言葉と昨日の夜に家に泊めてくれた鎧武者の男の言葉の二つからである。

要するに、トキワは後継者騒動に巻き込まれているのだと。ここで山賊が現れてトキワを狙ったのはそのためだと。二人はアルサケス王国の貴族社会を生き抜いてきたためそのような争いにはめっぽう詳しかった。


情報の乏しい異国の客人が気付いたのにも関わらず、何もわかっていない者が二人。

再び馬が風を切って走り始めた頃、馬車の中で座るトキワとソウジロウ

の後ろで馬に乗っているカエデはそれぞれ同じことを考えていた。



刺客………………って何のことだろう。俺の命を狙ってるってどこから出てきたんだそれ………………。でも何か皆わかってるみたいだし、今さら聞けないんだけど。


刺客………………って何のこと? 兄ちゃんの命を狙ってるって何それ?

………………まぁいいや。


そういう風に考えていた。






それからは何事も起こらずにトキワ一行はついにクニシロ家のお膝元である城下町へとたどり着いていた。

懐かしい光景、懐かしい雰囲気にトキワやカエデは非常に嬉しい気持ちになる。特にトキワにしてみれば嫌で嫌で仕方がなくて逃げ出した所だったはずなのにも関わらずである。

頭ではどれだけ否定していても、トキワがこのアミューズという世界で産まれ育ったのはこの和の国の城下町である。トキワの故郷はここ以外にはない。


トキワとカエデが懐かしさに浸っている中エリスとメアリ、そしてファーニーは興奮していた。それはマーレーン王国やアルサケス王国とは異なった見たことがない形式の城を見たからであった。

普通の家屋や商店に関しては、昨日の港町で散々見ていたのだが城は三人とも見ていなかったためである。



「トキワ様はあのお城で暮らされていたのですよね。ですが王族ではない………………。いったいどういうことなのでしょうメアリ」


「申し訳ありませんお嬢様。私も他の大陸の国に関してほそこまで詳しくありません」


「うはー! お城やばー!」


三人とも揃って馬車から顔を出している。そしてエリスとメアリはこそこそと話始め、ファーニーはテンションが上がり絶叫する。見るからに三人ともおのぼりさんであった。


馬車は町の中をゆっくりと進んでいく。人の往来が激しい道であるためだ。それでも民たちは、武士のお通りだとできうる限り道を空けようとしてくれるからありがたい。


「ん? ありゃあ姫様じゃねぇか!?」

「おお、姫様じゃ。懐かしいのう」

「姫様は相変わらずかわいいハスハスしたい」

「ありがたやありがたや」


城で産まれ育ったトキワとカエデ。

だが、悪ガキだった二人は勝手に城を抜け出して城下町で遊ぶなどの行為を繰り返してきた。そのため城下町に住んであるならば一般人の間にもカエデの顔は広く認知されていた。


ソウジロウの後ろに相乗りしているカエデはその声に向かって大きく手を振る。

すると大きな歓声が響きわたる。

男女問わずである。………………いや若干男の野太い声の方が大きい。


(アイドルかよ………………)


その光景にトキワは内心ツッコんでいた。

前世で良く見た光景だったからだ。


「皆ありがとうー! 私、帰ってきたよー!」


「「「「「カエデ様~! キャー!」」」」」


(だからアイドルかい………………)


カエデと民のやり取りを見て、トキワは再び同じツッコミをいれる。心の中の話だが。


「ん? あの馬車から見える顔………………見覚えがあるぞ」

「どれどれ………………。あれはもしかしてトキワ様では!?」

「まさか、トキワ様が!? あの方は出奔されたんじゃあないのかい」

「帰ってきてくれたのかい? あの人が」


民衆の注目度は、カエデのパフォーマンスのおかげか非常に高かった。そのためだろう。馬車から軽く顔を出していただけのトキワの存在に気付いた者がいたのは。


カエデがいることがわかった時は歓声を挙げて喜んだのだが、トキワの存在に気が付いた民衆たちはざわめき始めた。

ざわめきは次第に大きくなっていく。

それと反比例していくかのようにトキワは落ち込んでいく。


(あの鎧武者のおっさんが例外なだけでやっぱり俺って人気ないんだなぁ。それにこの国出ていって五年だし………………)


実際は国を出ていってもう帰ってこないだろうと噂されていたトキワが突然帰ってきたことで、民衆は何かが起こるのではということを察知して混乱していただけなのだが。


落ち込むトキワの頭を赤ん坊の頭を撫でるようにエリスは触った。

トキワに元気になってほしいとした行為だったのだが、それは効果覿面だった。

すぐに元気を取り戻したトキワがさらなるナデナデを要求し始めた。

それを見て、クスリと笑いさらに頭を撫でるエリス。

馬車の中は若干二名だけがピンクな雰囲気になっていた。 メアリとファーニーは二人の様子をチラチラ見たりはたまた外を見たりしている。


そうこうしている内に城にたどり着くことになった。

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