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謀反 下

2章の会談という話に出ていたキャラが出ます。

もし忘れていたらまた見てください。


あと、投稿が遅れた代わりに今回は長いです。僕はもう疲れました。

しばらく寝ます。




それとありがたいことにようやく体調が万全に近くなりました(大量の口内炎には未だに悩まされている)。

ストックらしいものは完全に切れてしまったのですが、出来るだけ毎日更新できるように頑張るのでよろしくお願いいたします。

王様が寝るにふさわしい、巨大なキングベッドの上にアルカディオは大の字になってグーグーとイビキをかいて寝ていた。下半身にこそ寝巻きを着ているが、上半身は裸だ。普段は細目に見られるが実際のところ上半身の筋肉は引き絞られたかのようにガチガチに固まっていて、そこには数えきれないほどの消えない傷痕があった。

普段ならばそこに大量のキスマークがついているのだが、色町に行っていない今日は違った。

アルカディオの寝室は、そのキングベッド以外の物は何も置かれていない。殺風景な部屋だったが、機能性を重視するアルカディオにとってはそれだけで十分だった。むしろ寝室に他の物を置くということが信じられないほどであり、それは身を守る武器や防具も同様だった。




アルカディオの無防備に寝る姿を魔道具で監視していた者たちは、暗殺の好機ではないかと騒いだ。もちろん大きな声でではない。それくらいは彼らだってわきまえている。

それを見るからに屈強な男が諌めた。


「そんなに急くな貴様ら。予定通りに行動しろ。どうせ全ては明日決まることよ」


屈強な男の言葉に、黙って敬礼する他の者たち。どうやらこの屈強な男こそが、彼らのなかでも一番偉いことがわかる。

屈強な男ーーこのマーレーン王国の王国軍の幹部でもあるガウラークはそれを見て満足そうに頷いた。

これ程の忠誠心を植え付けられたならば国盗りは上手くいくだろうと確信したからである。


そもそもガウラークにとってこのタイミングでの謀反は、想定外のことだった。本来の計画ならばもっと時間をかけてじっくりと力を付けて、行うはずの計画だったのだ。それがこのように前倒しにされたのは先日行われた会談のせいであった。

度重なる失態を責められそれを払拭するためということも確かにあった。しかしガウラークとしては、もうあのような組織に頼らずとも以前から切望していた国を持つという野望を達成できるのではないかという考えから起こしたものであった。


「ポチ……他の奴等にも《洗脳》はかけたんだろうな」


「はいガウラークさま」


ガウラークとしても長年組織に奉仕してきたのは、マーレーン王国を自らとその部下の力だけでは到底奪うことなど出来ないという考えがあったからだ。

その思いはあるモノと出会う最近まで変わることはなかった。

そのあるモノこそが今ガウラークが話しかけたガリガリで骨が浮き出た表情のない子供だった。

子供は元は戦争孤児であり、ガウラークが所属している組織が欲した『進化』した十三人の内の一人である。そして何よりガウラークの奴隷だった。

犬と同じようにポチと名付けられた子供は『魔狂い』のリッキーとは違い、従順でありガウラークとしても使いやすいことこの上なかった。

さらには『進化』した際に手に入れた特殊能力も非常に便利なモノだった。それこそが《洗脳》という能力だ。これは通常肉体的また精神的拷問や甘言、思想の押し付けなどのあらゆる工程と多大な労力を使う洗脳を簡単に施すことができるといったモノだった。レベル差や力量差がかなりあれば使用できないといった制限はあるにはあるのだが、それを考慮に入れても素晴らしいとガウラークは感じた。


これを知った時、ガウラークはマーレーン王国を落とす手段を直ぐに思い付いた。それこそが今この状況だった。すなわち、《洗脳》がかからないであろうアルカディオや今この国にいる『七星』の四人を除いた城の全ての者に《洗脳》をかけるというものだ。

多勢に無勢、数で押し込もうという何とも安直な作戦だ。正直な話ガウラークはトキワ並みに頭が悪いためそれほど難しいことを考えられないのだが、実のところこれは確かに効果的だった。

アルカディオや『七星』は敵には厳しいが、自国の民に優しいからである。昨日までの部下を殺すことはさすがに一瞬躊躇う。その隙をつけさえすれば如何様にもやりようがあるとガウラークは考えていた。


「ようやくだ…………。ようやく俺の国を持つことができる。このマーレーン王国を」


ガウラークの瞳は狂喜に染まっていた。

口を大きく歪めて嫌らしくニヤリと笑う。

それをポチは横でただじっと見つめていた。その目はまるで人形のようで、そこには何も写していなかった。





マーレーン王であるアルカディオの朝は早い。

王という役職でありながら、アルカディオは誰かに起こされるわけでもなく自分で起きる。着替えだって自分一人でするし、大体のことは使用人ではなく、自らの力で行う。

唯一自分が行わないで部下に任せきりにするのは政務だけだ。いや、政務を王自らが行わないというのは随分と問題はあるのだが……。


一人で寝るのは些か寂しくなるほどの大きなベッドから降りたアルカディオはのびをした。骨がボキボキと鳴り、固まった体がときほぐれていく。

いつもなら一晩寝たら、嫌なことも疲れも吹っ飛ぶアルカディオなのだが今日の朝は違った。


「う~ん。寝ている時に暗殺してくると思ったんだけどなぁ~」


誰にも聞こえないように、そして誰にも口の動きを読まれないようにアルカディオは小さく呟いた。

続けて、「昨日の夜あれだけ隙だらけでいたのになぁ~。賭けは負けちゃったみたいだなぁ」と言う。


アルカディオは一晩中起きていたのだ。目を閉じて無防備でいるフリをしていたがその実、神経を張り巡らせて周囲を警戒していた。

もちろん監視されていたことにも気付いてもいた。


「…………眠たいなぁ。出来れば早く済ませたいもんだよ」


ファと大きく口を開けてアクビをする。だらしない行為のため人前では出来ない。王様は面倒臭いと思うアルカディオだった。



寝室にある水桶で顔を洗い、用意されている服に着替える。

もうすっかりと準備を済ませたアルカディオは、寝室のドアに手をかけてニヤリと笑った。

ノブを回していると、突然ドアから剣が何本も生えてくる。

アルカディオは足元に突き出た剣を踏んで、バック転をして後方に下がった。

ドアからアルカディオが十分な距離を取ったと同時にドアからは剣が引き抜かれ、ドアがバタンと思い切り開いた。


寝室に入ってきたのは武装した兵士たちだった。


「君達……一体どういうつもりかな? もしかして給料に不満でもあるのかな? それなら俺は知らないから是非違う人に聞いてくれた「ごたくいい。我らが主がお前をお呼びだ。我らに着いてきてもらう」」


アルカディオの軽口に横から強く言う兵士たち。


「主って……。君達の主って俺だよね? 君達の言う主って一体誰なのかな? もしかしてそういうプレイのご主人様のこと言ってるの?」


だがアルカディオは軽口を止めない。ヘラヘラした態度を取ってして兵士たちに話しかける。


「喧しい! いいから黙って着いてこい。コイツがどうなってもいいのか!?」


そう言って兵士たちが連れてきたのは手を縛られた深い皺が顔中に広がる老女だった。見た目こそまだ七十代に見えるが実年齢は九十代半ばであることをアルカディオは知っていた。


「久しぶりですじゃ若様。こんな再会になるとは思ってもおりませんでしたがじゃ」


「本当だね、婆や。いやはや人の人生とは色々なことがあるものだね」


「若様ほどの若造が何いっぱしに人生を語っておりまする。人生を語れるのはわしのようなババアだけですじゃ」


そう言ってカラカラと笑う老女。

剣を首筋に突き立てられているのにも関わらず老女は気にした素振りすら見せない。

それを見て昔から変わらないなぁと釣られて笑うアルカディオ。


老女はアルカディオの祖父の乳母だった女であり、マーレーン王国の王族の家庭教師をやっていた女性だった。当然、幼少期からずっとアルカディオの面倒は彼女が見てきており、気心知れた仲であった。


「クソッ。貴様ら黙れ! いいから着いてこい」


「むじゃっ」


アルカディオと老女の様子にしびれを切らした兵士の一人が老女の首に突きつけられている剣をグッと近付けた。

さすがにマズイと思ったのか、アルカディオと老女は口を閉ざし兵士の言うがままにすることにした。

兵士たちはアルカディオの手を魔道具の縄で縛る。


「ねぇ、これくらいは答えてよ。どこに連れていくつもりなの?」


「直ぐにわかることだ」


アルカディオの問いにすげなく答える兵士。


そのままアルカディオと老女は兵士たちに連れられていくことになった。その場所はアルカディオにとって慣れ親しんだ場所であった。

そうすなわち玉座である。

そこには両手両足を魔道具で縛られミーシャ、に幸薄そうな男にリザードマン、そして前髪で顔をおおいつくしている独特の髪型をした少女がまるで芋虫のように地面に転がっていた。

そのすぐそばには銀髪碧眼の少年や幸薄そうなメイドの少女、リザードマンの子供と女などが兵士によって囚われていた。

それを見れば『七星』のメンバーたちがどうして容易くここまで連れてこられたのかは簡単にわかる。要はアルカディオに取った人質という方法と同じである。


「随分なマネをしてくれたね。ガウラーク、これはどういうつもりなのかな?」


アルカディオは笑みを絶やさないままに玉座に腰かけるガウラークに視線を移した。

ガウラークはそれを見て口の端が耳にもつかんばかりに口を大きく開けて豪快に笑った。そしてひとしきり笑い終えた後に、アルカディオたちをゴミを見るかのような目で一瞥した。


「無様だなぁ………大陸最強の男よ」


「こんな姿にしてくれたのは君なんだけどね」


「元マーレーン国王よ。貴様は国を統治する者にとって何が必要だと考える?」


ガウラークが口にしたそれは質問のようなものだが、その実持論を展開する上での前口上に過ぎなかった。

続けてガウラークは言う。


「それが足りないから今貴様はそこにいるのだよ」


「なら教えてくれるのかい?」


「いいだろう。それは非情さである。アルカディオ、貴様は本来ならば兵士など容易く殺すことが出来たろう………だが貴様はそれをしなかった。それはそこのババアが人質になっていたから………そして昨日までは忠誠を誓っていたはずの兵を斬れなかったからだ。違うか?」


「まぁ、そうだね」


「だから貴様は愚かなのだ。兵とは言わば使い捨ての道具に等しく、女とは若さを過ぎれば何の価値も見いだせない肉人形へと成り果てる。そのような存在に情などやつすからいけないのだ」


ガウラークの暴論とも言える主張にアルカディオは何も言わなかった。

ただ黙っていつも通りの笑みを浮かべているだけだ。

それを見てガウラークは鼻をフンと鳴らす。


「どうやら言ってもわからないようだな」


「そうだね。ガウラークと俺とでは意見が余りにも違いすぎるみたいだね」


アルカディオはガウラークの目を見つめて言葉を紡ぐ。


「兵士も、女も子供も誰も彼も国民だよガウラーク。国民とはすなわち国の宝であり、資本だ。何者にも変えがたい彼らを尊重せずに一体君は王になって何を尊重しようと言うのだい?」


「国民………だと? 王だぞ何を言っているのだ貴様は………?」


ガウラークにとって国とは王によって成り立っているモノであり、アルカディオにとって国とは国民によって成り立っているモノである。その認識の根本からの違いは越えられない壁のように思えた。


「ガウラーク………君には王の資格はないよ」


ガウラークの姿を見てアルカディオは先程までの笑みを消して、冷たい顔をして言った。

アルカディオは元々トキワと同じように根っこは自由を求める気質の人間だった。貴族は愚か、王族などを務める気はなかったし第七王子であったアルカディオにとっては王位に着くことなど考えもしないことであった。

親や兄たちが死ななければ今でもアルカディオは『七星』たちやその家族とともに旅を続けていたことだろう。


だがアルカディオは王になってしまった。正直なところ代わりがいるのなら直ぐにでも代わりたいものだが、ガウラークのような考え方の人間にはどうしても代われないとアルカディオは考えていた。


「君は悲しい人間だね、ガウラーク。君はきっと今まで信頼できるような誰かが居なかったんだろう。だから君は人を道具のようにしか見えないし、《洗脳》という手段を使うしかなかったんだ」


アルカディオの前半の推測はガウラークにとって全て事実だった。

だが今ガウラークが餌を欲する鯉のように口をパクパクと開閉を繰り返しているのは、それが原因ではない。


「なぜ………なぜ貴様が《洗脳》のことを知っているのだ………?」


「本当に君はバカだねアルカディオ。初めからわかっていたことなんだよ全て」


アルカディオのその言葉と同時に、一部の兵士たちは縛られた『七星』たちと人質たちを解放していく。

それの様子をガウラークと、《洗脳》を受けずにガウラークに従っていた者たちは呆けて見ていた。


「バカな………バカなバカなバカな。なぜポチの《洗脳》が解けているのだ!」


激昂したガウラークに水をかけるようにアルカディオはその答えを伝えた。


「君は本当に他人を信じられないみたいだね。奴隷であるポチさんが自分を《洗脳》するかもしれないと信用できなかった君は彼女のレベルを上げなかったんだ。だから君達が《洗脳》をかけた兵士たちやその他の者たちには《洗脳》がかからなかった人がでてきた。まぁ彼らには全員かかったフリをしてもらったけど………。後はいくら君でも言わなくてもわかるよね」


アルカディオから淡々と語られる真実に、ガウラークは頬をピクピクと動かし動揺する。額からは一筋の汗が流れ落ち、それが地面に垂れた。


「………あぶり出しに利用したのか」


「そういう訳だよ。どうやら一部は本当に君のシンパがいるみたいだったからね。特定するのが面倒だったというわけさ。だからこの場を利用して………そして彼女に協力してもらうことにした」


そう言った同時にアルカディオの側にやって来たのは、骨の浮き出た性別の判断すらし難い奴隷の子。


「ポチ………貴様裏切ったのか!?」


「この子を仲間扱いはおろか、人間扱いしなかった君がよく言うねガウラーク」


ガウラークは悔しげに唇を噛む。

強く噛まれたそこからは血が出ている。


「それじゃあポチちゃん、よろしく頼むよ」


アルカディオの言葉にポチはただ頭を縦に振る。


「《洗脳》かいじょ」


ポチから不可視のナニかが飛び出し、王城の隅々に飛んでいく。

エリスが《魔物避け》を使用したときと同じ現象だった。


「さて………これで君たちは丸裸になった訳だけど、どうする?」


アルカディオの死刑宣告に等しい言葉に、ガウラークは唸った。

どうする? とアルカディオは聞いたわけだが、答えは一つに決まっていた。


「クソがぁ!」


ガウラークは駆ける。一見鈍重にも見える筋肉の固まりからは想像も出来ないほどにそのスピードは早かった。

腰の剣を抜き、アルカディオの首を落とそうとする。


一瞬が生死を分けうる状況の中で、アルカディオは確かに笑いそしてガウラークはアルカディオの言葉を聞いた。



本当にバカな奴だよ、君は。せめてこの俺の本気の一撃で引導を渡してあげよう。



「待ちなさい、アルカディオ!」


ミーシャの切羽詰まった制止も気にせず、アルカディオは片手にただ魔力を込めた。その絶大な魔力を。

途端に腕からは竜巻のような空気の奔流が起こり裂くような音が響く。


「『雷絶(ウルティマサンダー)』」


アルカディオの腕から放たれた雷の一撃は次の瞬間、ガウラークやその仲間たちを消し飛ばし玉座を破壊し王城の外まで破壊される。


その惨状を見たミーシャは頭を抱え、そして宰相と財政管理を任されている幸薄そうな男は修理費用を考えてしまい、前から倒れることになった。


そしてアルカディオは過去のガウラーク(ともだち)を想い、そっと目を閉じた。

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