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王都とアルカディオの懸念

「すっごーい!」


「すごいのだー!」


「これはまた……」


「素晴らしいですね」


ファーニー、カエデ、エリスにメアリと続けて感嘆の声を上げる。その視線の先にあるのは高く分厚い壁。そしてそれよりも大きい城とその横にそびえ立つ塔があった。正直なところ、どこの国の王都でもありふれた光景だった。

このように城を見慣れている筈の出生の四人が驚くのには訳がある。

そのスケールの大きさが違うのだ。


「すっげぇ…………」


トキワの口からも、言葉がこぼれた。


王都に入るまでの関所には多くの人が列をなしていて、中々入れそうではない。王様ならば顔パスで入れるのではないかとトキワは考えたりもしたが、アルカディオがそのようなことをする性格でないことはトキワは短い付き合いでよくわかっていた。

待つのは大変だが、未だ入ったことのないマーレーン王国の王都を想像している五人にとってはその時間は短く感じるものだった。

五人とは違い、いつもの見慣れた光景であるアルカディオとミーシャはさすがに落ち着いた様子だ。いや、いつもはしない貧乏揺すりをしている辺りミーシャは待ち望んでいた帰還に待ちきれなくなっているようだった。

できる女教師といった風貌のミーシャが、鼻息荒く子供っぽい仕草をする様子はトキワの男心をくすぐるものがあった。

だが視線を落として絶壁とも言える胸を見ると、胸のドキドキは消えてどこかほっこりとした気分になった。大きな胸の持ち主しか愛せないトキワにとってはミーシャは恋愛対象ではないのだ。


「楽しみにしてたみたいだね、ミーシャ」


「あったり前よ! アンタのお守りはもううんざりなんだから」


ミーシャは毒々しげにアルカディオに言う。


主君に対する対応としてはおかしなものだったが、アルカディオとミーシャの間ではいつも通りのことなのでお互い気にもとめない。

元々ミーシャにとって今回のカタリベに行くことは急に決まったことだった。たまたま朝早くから何の気なしに王城の庭園を散歩していたら、気色悪いほどの笑顔のアルカディオに捕まえられて急遽王都をたつことになったのだ。

そして行く先々でアルカディオはミーシャの財布を持って色町を練り歩き、ミーシャのお金を使い倒した。

カタリベに着いてトキワたちと出会ってからは随分と色々な面で楽にはなったが、それまでの道程でアルカディオに散々迷惑をかけられていたミーシャにとって一刻も早く王都に帰ってアルカディオと離れたいと思うのは至極当然のことだ。


「ハッハッハッ」


だがアルカディオはミーシャの言葉を聞いてもただ笑っていた。

そんなアルカディオを見てミーシャは諦めたようにため息をつく。昔からミーシャにとってアルカディオに何度嫌味を言っても気にもとめない性格だったことはわかっていたからだ。




「確かマーレーン王国の王都といえば、大陸各地から集まった様々な美食が存在すると聞いたことがあります」


「「ご飯!」」


メアリの言葉に過剰に反応するファーニーとカエデ。

ファーニーは言うまでもないことだが、二人とも小柄なのに良く食べるのだ。そのため食に対する欲は強かった。


「あ、お二人さん。楽しみにしてもらっているところ悪いんだけど、皆には王都に入ったらすぐに船の方に行ってもらうから食事とかできないよ」


アルカディオが横から機先を制するようにして言う。

さっきまで「「ご飯! ご飯!」」とリズムに乗っていたファーニーとカエデはそれで途端に元気がなくなる。


「そう言えばそうでしたよね。確か王都で何か起こるとか言ってましたもんね」


「そうだね、トキワくん。出来るだけ君達には王都にいる時間を短くしてほしいんだ。王都に入って船に乗り込むまでの短時間なら多分大丈夫だと思うんだけど、それ以上となるとどうなるかわからないからね」


アルカディオは関所をくぐるのをわざわざ待ってはいるが、トキワたちが長い間王都にいることを良しとはしなかった。その不可解なアルカディオの発言にトキワは気にはなったが、アルカディオが予想している何かの正体を尋ねたりをしなかった。興味がないわけではない、アルカディオが話さないから聞く必要がないと判断しているのだ。


(巻き込まれたくないしな……)


そして打算的な考えからでもあった。



「船ですか……私は乗ったことがないので楽しみです!」


「お嬢様……恥ずかしながら実は私も楽しみにしています」


母国であるアルサケス王国から元々出たことがなかったエリスとメアリには今まで船というものに乗る機会はなかった。

カワイイ女の子が二人揃って話しているのを横目でチラリチラリと盗み見ているトキワ。会話に混ざりたいのだが、混ざり行くことで嫌われたり嫌がられたりしないかなぁと考えて入りにくそうにしている。


そのトキワの様子を見て、アルカディオとミーシャは顔を見合せ薄く笑い合う。トキワのお子様ぶりが二人には微笑ましくて仕方がないのだ。


そうこうしている内に関所の検問の順番がどんどんと近づいてくる。

関所にいた兵士たちはローブの奥にあるアルカディオの顔を見て驚いた顔をしたが、特に声はあげなかった。

口元に一本指をあてているアルカディオを見たからだ。

騒がれたくないのを察した兵士たちはアルカディオの口元に耳を寄せる。


「城や宮殿の皆にはもう伝えてある。俺とミーシャはこのまま城に戻るから俺たち二人以外を船着き場まで案内して、貿易船に乗せてやってくれ。これは王命だ」


「「承知しました」」


小さな声でやり取りをするアルカディオと兵士たち。

トキワは兵士の目を見て、マーレーン王国という国の強さを垣間見たような気がした。


(忠誠心マックスだな……。和の国でもあんな奴らは見たことがある)


命令ともあれば平気で己の命をも捨てる覚悟がある。そんな目をしていた。


関所を通りついに王都へと踏み入れたトキワたちの馬車は、入り口近くの壁で止まった。そこからぞろぞろとトキワ、エリス、メアリ、ファーニー、カエデが降りていく。


「ここで君達とは一時お別れだな。すぐに兵士たちが船まで案内してくれる。和の国での用事が終わったらまた会おう」


「じゃあね、皆。短い間だったけど楽しかったわ。また今度ね」


アルカディオとミーシャが別れの言葉を言う。


「またすぐに会えますよ」


「本当にお世話になりました。この御恩は決して忘れません」


「じゃあね、アルカディオにミーシャ。それにお馬さん」


「うむ。さよならなのだ!」


トキワにエリス、ファーニーにカエデと言葉を返す。

メアリだけは一言も発さずにただ頭を下げ続けていた。


「ではさらばだ」


そしてすぐにアルカディオを乗せた馬車は去っていった。

後に残されたトキワはその背を見ながらあることが思い出された。そして素早く隣にいるエリスを見た。いや正確にはエリスたちだ。そして全員がいることを確認して息をつく。

至近距離から見つめられたエリスは思わず頬を赤く染めてしまう。

いつもならトキワもなのだが、今回ばかりは違った。



(どういうことだ。さっき馬車の中に王様とミーシャさんの他にもう一人いたような気がしたんだが…………。見間違えだったんだろう)



トキワは不安だった。ふとアルカディオの言葉を思い出す。


「王都で何かが起こる…………ねぇ」


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