そして王都までの道程で
未だに体調が悪い私。
おたふく風邪の熱自体は下がったのですが、喉鼻咳がまだ出てるし舌に大量の口内炎まで出来て悲惨な状態です。
更新速度に関しては、申し訳ないですが毎日はさすがに無理かもです。でも確実に二日に一回はやるのでよろしくお願いいたします。
ごめんなさい。
トキワは目の前に迫った猿の魔物の攻撃をすんでの所でかわした。
そのままみっともなくゴロゴロと地面を転がる。寝巻きに土が大量について汚いがそのようなことを気にしている状況でもない。
(助けてエリス!)
心の内で愛しい人の名前を呼びながら、口からは荒い息を吐いていた。今日も既に十匹近い魔物と素手と普段着で戦っているのだ。魔法の物理障壁すら張らないで戦っているため一撃一撃が致命傷になりかねない。トキワの緊張はピークに達していた。
「頑張れ兄ちゃん!」
そんなトキワに、離れた安全圏から大きな声で応援をするカエデ。
静かな早朝なのでその声は響き渡る。
カエデにとっての応援は、大好きな兄がパワーアップしようというので出来る限りのことをしたいという純粋な思いからくるものだった。
しかしトキワにとってそれは死体に鞭打つような真似に等しかった。
(無自覚な妹に殺される!?)
トキワの索敵には、カエデの声によって目を覚ましたたくさんの魔物を感知していた。
だが、基本的に妹思いなトキワには目をキラキラさせてこちらに手を振るカエデを責めることは出来なかった。
それに、トキワには何がなんでも短期間で強くならなければいけない理由が出来てしまったのだ。
「かかってこいや魔物ども!」
習慣と化していた、早朝の魔物退治を終えたトキワとカエデはボロボロの姿で馬車に戻った。それを出迎えてくれたのは、エリスたちだった。ちなみにファーニーは馬の鬣をベッドにしてまだ寝ている。
「おかえりなさい、トキワ様」
「おかえり~。トキワくんたちも帰ってきたことだし、私たちも終わりにしましょうかエリスちゃん」
額から出る汗を拭い、エリスは磨り減ったトキワの心を癒すような笑みをトキワに向けた。
それにトキワが顔を赤くしている間に、ミーシャがトキワとカエデにクリーンをかけてくれる。途端に汗と血と泥で汚れていた服が綺麗になり、トキワとカエデの心も晴れたように感じる。
実はエリスもトキワに触発されたらしく、朝から魔法の達人でもあるミーシャから指導を受けているのだ。トキワ以上に魔法についての専門知識を持つミーシャに弟子入りしたことで、エリスの魔法の腕もまたメキメキと伸びていた。
だがトキワは考えていた。エリスがその力を使わなくてもいいように自分が守らなければいけないと。トキワにはエリスを取り巻く状況もわからないし、またわかろうと努力する気もなかった。ただ目の前にやってきた敵を倒す、それがトキワの決めた自分の中のルールだった。
それを守るためには早急的に力を付けなければいけない。トキワはそれを理解していた。しかしトキワにはエリスを守るということ以上に力を付けなければいけない理由があった。
(まさか和の国に帰らなければいけないとは……)
そう猫の街を出発する日の朝にカエデが婚約者であるソウちゃんに渡されたという手紙は実は両親からのもので、また出ていってもいいので今回ばかりはすぐにでも国に帰ってくれという内容だったのだ。
もちろんトキワはエリスの護衛があるためマーレーン王国の王都に滞在しなければいけないと主張したのだが、アルカディオとエリスから和の国に行くことを進言された。
アルカディオは「いやぁ~丁度良かったよ。なんか近々マーレーン王国の王都でやっかいな事が起こりそうなんだよね。だからエリス嬢がいると逆に危険なんだ。たぶん一ヶ月もあれば完全に片付くと思うから、それまでエリス嬢たち連れて和の国に行っといてよ。彼処エリス嬢にとっては安全だからさ」と。
そしてエリスからは「トキワ様、ご両親がわざわざこうして別の大陸にまで連絡をとってきたということは一大事に違いありません。早急に戻るべきです」と。
二人からの強烈な押しに負けて、和の国にエリスとメアリとファーニーとカエデを連れて戻ることになったトキワ。そのトキワは今まさに恐怖しているのは故郷の祖父のことだった。
祖父からしてみればカワイイ孫を鍛えてやろうと可愛がったに過ぎないが、トキワにとっては幾度となく殺されかけた恐怖の象徴でもあった。
和の国に帰ったとなれば間違えなく祖父はトキワに接触しにくる。そしてその時トキワが強くなっていなければ……
(まず間違えなく、あの頃と同様に爺から特訓と言う名の虐待を受けることになってしまう……)
そしてそうなれば今度こそ死んでしまい、エリスを守ることさえできなくなってしまう。トキワはそう考えていた。
だから何がなんでも短期間でレベルを上げて強くなる必要がトキワにはあった。
アルカディオによればあと一週間もしないうちにマーレーン王国の王都に着くそうだ。そこからトキワたちはマーレーン王国の貿易船に乗せてもらい、和の国に向かう。
海の上では、わざわざ生息領域を通らない限り魔物は現れない。そして貿易をするための積み荷を乗せた船でそのような愚行を犯すとは思えない。すなわち王都に着くまでの一週間がトキワが強くなるためのタイムリミットなのである。
「食事の用意ができました」
トキワが決意を新たにしていると、メアリから声がかかった。それほど大きくはないがよく通る声で、それを聞いたトキワたちはメアリの方へと向かう。
「ファーニー、起きるのだ! 一緒にご飯を食べよう!」
「ムニュウウニャウニュ」
唯一まで寝ていたファーニーの柔らかそうな頬っぺたをムニムニと触ることで起こそうとするカエデ。
ファーニーの頬っぺたはめちゃくちゃに形が変わって、かなり寝苦しそうだっだがそれでも起きなかった。
ギュルルルル、カエデのお腹の音が鳴る。カエデも朝からあれだけ動き回っていたのでかなり腹が減っていたのだ。
そこでカエデは横目で馬車の外に出されたテーブルの上に並んでいる旅の途中とは思えないほどの料理の数々を見た。そしてまたまだ起きないファーニーを見た。三秒ほど固まった後、カエデはファーニーを寝させたままにしてテーブルの方に走った。
「食事の誘惑に負けたか……」
「少し後で友達と一緒にご飯を食べるよりも、今すぐにでもご飯を食べたいみたいだね」
「ハハハ……」
トキワとアルカディオがそのカエデの行動を分析し、そしてそれを聞いてエリスがかわいた笑い声を上げた。
カエデの漂う残念っぷりを改めて認識したトキワたちであった。
「やっぱり兄妹よね~。なんかああいう所トキワくんとどことなく似てる感じする」
「わかります。ミーシャ様」
そしてこそこそとミーシャとメアリは話していた。
トキワは、周りからどういうわけかどことなく残念な雰囲気がすると思われていることに気がついていなかった。




