変わらない実力
短いです。ですがキリが良いのでこれで終わらせたので勘弁を。
長きに渡る内乱が一段落済んだ和の国に激震が走ったのは今からもう十年以上前の話だ。
国の中でも屈強で忠義に厚い兵を持つとされるクニシロ領で、歴代の中でも最高峰に位置付けられるほどの三人の天才が立て続けに産まれたのだ。
一番目に産まれた長男は智と柔の武技に優れ、二番目に産まれた次男は頭が悪いがそれ以外に関しては稀有な才能を持ち、最後に産まれた長女も頭が悪いが太刀に関する才能を持っていた。
和の国という大きなくくりはあるものの、その実態はバラバラである。戦乱の世はひとまず終わったと思われていたが、ただでさえ強いクニシロ領に新たなる風が吹いたことで周辺にある大名領は警戒心を一層強めることになった。
その中でも特に際立って警戒されていたのが、次男のトキワだった。
トキワには転生云々の関係なしに天賦の才能を持って産まれた天才だったが、それは他の兄妹も同じ。遺伝子が良かったことも起因するだろう。
なぜそこまで注目を集めたのか、それはトキワの成長を見越してのことだった。アミューズにはレベルというものが存在しているのだが、一つ上がるまでにかかる労力も上がり幅も限界値も全員異なっている。
そのレベル関連でもトキワの持つモノは凄まじかった。
レベルが低い状態での身体能力が高く、レベルが一つ上がっただけでそれはさらに伸びたのだ。
限界値こそわからないが、そこに達した頃にはトキワ クニシロは怪物になっていると周囲からは畏れられていた。
だがその周囲とはあくまでも外の話だ。クニシロ領の中では、素晴らしいことだと盛り上がっていた。ついにはトキワの強さに感服した者たちが、病弱の長男ではなく次男のトキワを当主にするべきだという声を上げる程だった。
そしてクニシロ家の長女であり、トキワの妹でもあるカエデ クニシロもまたトキワのことを信奉していた。
もちろん優しい長男のこともカエデは好きだったが、いつも遊んでくれるトキワのことはカエデは誰よりも大好きだった。意地悪をされたりからかわれたりもしたがそこには愛があった。
何よりもカエデが心引かれたのが、トキワの強さだ。
頭の出来が悪く、騙されやすいカエデは家族からたった一つのことだけを信じて生きていきなさいと言われていた。そのたった一つこそが自分の強さだった。
カエデはトキワが前クニシロ家の当主だった祖父と稽古しているのを影から見ていた。カエデは幼いながらにもその時思ったのだ。
持って生まれたモノが違う。一生勝てない。
だがそう思ってもカエデは傷つくことはなかった。むしろ誇らしかったのだ。トキワはきっと和の国で最強の男になれると思ったからだ。その時にこれが自分の兄なのだと! 胸をはって言えるからだ。
だからこそカエデは許せなかった。
トキワが和の国から旅立って五年だ。それくらいあれば人なんて変わってしまうものだろう。だがトキワは何も変わっていなかった。普通ならそれを喜ぶ人もいるかもしれないがこと強さということに関してだけはカエデは違った。
「五年もあったのに……兄ちゃんは何をしてたんだ?」
カエデの言葉にトキワは声が出なかった。
伊達に兄妹はやっていない。トキワにはカエデが言いたいことが痛いほど良くわかったし、トキワ自身もそれを自覚していたからだ。
「………………」
トキワのレベルはこの五年の間でほとんどレベルが上がっていない。つまりそれは強敵との戦いを全くこなしていなかったということだ。
冒険者としての任務でも出来る限り安牌を選んでいたトキワには心当たりはたくさんあった。
「えっと、お二人ともまずは先に宿に……」
雰囲気が悪くなったのを察したのだろう。エリスが横からフォローをいれてくる。
メアリといえば先程からケットシーと触れ合ったことが相当嬉しかったのだろう、上の空だ。そのためエリスがメアリの分も頑張るはめになっていた。
「あ、ああそうだなそうだよな。ほらカエデ、話は宿に戻ってからにしよう」
まるで浮気が家族にバレた後で、娘から冷たい態度を取られて相手をするのが難しくなった旦那のように情けない態度で先に宿へと早歩きしていくトキワ。
その背中を見てカエデが呟いた言葉を近くにいたエリスだけが聞いていた。
「わたしの兄ちゃんが強くなってないだなんて……こればかりは許せないぞ」




