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猫の街と妹 上

カタリベを出発してから一週間が経とうとしていた。

マーレーン王国は小さな国だ。一日置きには町や村に着くことができる。つまりはベッドで眠れるということだ。

いやしかし、馬車が寝心地が悪いとかそういうわけではない。流石はマーレーン国王が手配した馬車である。その乗り心地は良かった。

ようするに道中は大変快適だった。


この日もトキワとメアリは一応周囲の警戒などをしていたが退屈になるほど何も起こらない。

トキワは馬車を引く馬の御者をしながら空を見上げた。雲一つない相変わらずの良い天気である。トキワは馬の頭の上で眠りこけているファーニーを見て、こんなに良い天気なら自分もああして寝ていたいなぁと思った。


「ダメですよ、トキワ様」


それを察してか、先んじてメアリがトキワに言い放つ。

トキワは誤魔化すように苦笑いする。


(メアリの奴、心でも読めんのかな?)


「心を読んでいるわけではありません。トキワ様のお顔に全て書いてあるのです」


「やっぱりお前心読めてるだろ!」


トキワはエリスが馬車からチラチラと見ているのにも気付かないまま、メアリと楽しくお話していた。

さらにそのエリスの様子を見てアルカディオとミーシャは笑っていた。他人の恋路ほど楽しい物はないからだ。……恋かどうかはまだわからないが。


何にせよ、マーレーン王国王都までの道のりは平和である。


そもそもここマーレーン王国は旅や旅行には最適な国だと有名なのだ。

理由として治安が良いということがあげられる。ほとんど盗賊というものが存在しないのだ。マーレーン王国は小国だが肥沃な大地があるため、食料に全く困らない。その上そこでの仕事にも困らないのだ。これで盗賊になる奴は逆にどうかしている。



「お、見えてきたな」


トキワの良すぎる目は、次の町がポツンとだが捉えていた。


「ああ、もうそんな頃か……。なぁミーシャ、あの町って何処だったっけ?」


「あんたの国なのにわからないの?」


馬車の中では、本気で首を傾げているアルカディオと呆れているミーシャ。

仮眠をとっていたのであろうか、目をしょぼしょぼさせたエリスも馬車の中から御者側に顔を出した。寝起きなので少し髪がボサボサになっていたが、トキワが瞬きした間にいつもの綺麗な縦ロールになっていた。

その光景にトキワは目を疑ってしまう。

だがトキワはなんだかエリスの髪型については触れてはいけないような気がしたので、取り敢えず一度置いておくことにした。


「えーとここまで出てるんだけどなぁ……」


アルカディオの嘘丸出しの発言にため息をつくミーシャ。


「あんたねぇ…………彼処は猫の街よ。ったくそれくらい覚えときなさいよ」


「「猫の街!?」」


ミーシャの言葉に激しく反応したのは、トキワとメアリだった。


「な、何よあんたたち……。ビックリするから突然大声出すの止めなさいよ」


ミーシャが二人を諌めるが、トキワもメアリもそれを全く聞き入れていない。猫の街という素敵ネーミングな名前の街に思いを馳せていた。


「ねぇ、エリス嬢。あの二人どうしたの?」


「トキワ様の方は存じ上げませんが、メアリのことなら……。メアリは昔から猫が大好きだったのでそれであんなことになったのだと思います」


メアリの猫好きは昔から凄かったなぁとエリスは思った。よくメアリがユグトレミア家の裏庭に集う野良猫たちに餌付けをしていたなぁと。



「へぇ……あの二人猫好きなんだ。俺としては犬の方が好きなんだけどな……」


「あら? 珍しく意見が合うわね。私も犬派よ」


「実は私もなんです……」


「「「言うこと聞くから(ので)」」」


アルカディオの言葉にミーシャとエリスも同意した。

その理由はナチュラルにサディスティックが入っている三人とも全く同じものだった。


犬の方がかわいいという呟きにも激しく反応したのはやはりトキワとメアリだった。


「いやぁ……犬もかわいいけどやっぱり猫でしょ?」


「猫の方がかわいいです。こればかりは譲れません」


徹底的に争う姿勢を見せる二人に頬を引くつかせるエリスたち。エリスたちにとってはあくまでも、犬か猫かどちらの方が好き? と問われて犬の方を選んだだけである。トキワとメアリほどの情熱はそこにはない。


会話の流れを少しでも変えようとエリスは、馬のたてがみで三編みをつくって遊んでいるファーニーに声をかけた。空気を常に読んでいなければいけない環境で育ったが故の早業だった。


「ファーニーは何の動物が一番好き?」


エリスの言葉に「うーん」と唸るファーニー。少しした後でポンと手叩いた。


「みんな大好きだけど、今は私たちのこと頑張って運んでくれてるお馬さんかなぁ? ね!」


「ヒヒーン」


ファーニーの言葉に嬉しそう頭を揺らして鳴く馬。


その心がなごむ光景を見て、むきになっていたトキワとメアリは己のさっきまでの姿を恥じることになった。






猫の街には日が暮れる前には着くことができた。

あれからメアリが一人で御者をやってくれる番になったので、トキワは馬車の中に入っていた。

国王が乗っているのだが、街に入るのに今までの街よりも時間がかかった。

トキワとエリスがそのことに疑問を抱いているとミーシャが横から説明してくれる。


「この猫の街にはね、ケットシーがたくさんいるの。ほらケットシーって高く売れるでしょ? だから無理矢理捕まえるような小悪党が入って来ないようにするため警備が厳重なのよ」


「さっき思い出したんだけど、確かここの領主は人よりも猫が大好きな変人なんだよ。だからほら……あそこに死刑にされた猫泥棒未遂の犯人」


ミーシャの言に補足するように横からアルカディオがある場所に指を指して言う。

トキワとエリスがその先を見てみると、そこには晒された生首があった。

「キャア」と声をあげながらトキワの胸に抱きついてくるエリス。

トキワも恐る恐るエリスの背中に手を回す。するとムギュッとエリスの大きなおっぱいがトキワの胸に当たる。ブラジャーがないため感触がダイレクトに伝わる。


(まさに至福の時だ…………)


だらしのない笑みを浮かべるトキワ。

そんなトキワにアルカディオは計画通りとばかりにグーサインを送る。それを見たトキワは思った。


(これがカリスマか……!?)




宿も取れたことだしと、トキワとエリスとメアリは宿の近くを探索していた。

ちなみにファーニーは馬と仲良くお話? しているため珍しく一緒に来なかった。


「ニャ!」


よう、とでも言いたげに片手をあげて挨拶してくる猫もといケットシー。柄は黒ぶちだ。

その姿を見て身悶えるメアリ。撫でたい感情を必死に押さえ込もうとしているのがわかる。流石に主の前でみっともない姿は見せられないと考えているようだ。


少し街を歩いただけでたくさんのケットシーと出会う。その多くが人と共に居た。

あぁこの街は本当に猫と人とが共存しているのだと、トキワとエリスはそう思った。そして同時に、こんなに素晴らしい光景は亜人を積極的に受け入れる平等主義のマーレーン王国でしか見られないことをとても残念に思った。

トキワとエリスが猫の街を見て色々と深いことを考えている中でメアリだけが暑くもないのに汗をダラダラとかいていた。


余程触りたいようだ。そんなに苦しいのなら触ればいいのに、とトキワは偶然出会ったケットシーの頭をかきながらそう思った。

ケットシーは気持ち良さそうに目を閉じてなすがままにされている。


(今のメアリ、まるで昔の妹みたいだな……)


とトキワは和の国にいたときのことを思い返し、小さく笑う。


「うっほぅ! 猫さんたちだぜぇ。超かわいい!」


そんな時だった。近くから聞き覚えのある声が聞こえたのわ。

トキワは目を見開いた。ここにいるはずのない、人間だからだ。



「カエデ……?」


ついさっき考えていた、妹の名をトキワは気付けば口にしていた。
















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