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会談

遅くなって申し訳ございません。


部屋の中にはテーブルがポツンと一つだけあり、その上に蝋燭が一本立っていた。蝋燭の灯りが部屋を薄暗くだが照らしている。


室内の雰囲気は極めて悪い。


場に居るのは三人。

一人は腰の曲がった老人。

一人は線の細い若い男。

一人は見るからに屈強な男。


突然老人が話を切り出した。


「アナスタシアの奴は遅れとるようじゃから先に始めておくか……。どうやらリッキーの奴が殺られたらしいのう……。しかもエリスフィアは殺せずじまいじゃ」


ピリッーー聞こえないはずの音が聞こえたかのように、雰囲気はさらに悪くなる。

いや、その発生源は屈強な男だ。老人と若い男も苦い顔をしているが、屈強な男ほどではない。

リッキーはこの屈強な男の部下だったのだ。体裁だけの話なのだが。しかしそれでも一応、部下の失敗を上役として責任を取らなければいけない。

屈強な男にはある夢があった。それは自分が支配者になるということ。すなわち自分の国を造るということだ。男は夢を叶えるために、ここまでこの組織に力を尽くしてきた。何年もの間だ。


そして男は組織の中でも最高幹部となり、夢を叶える時間もすぐそこへと近づいていたのだ。

それがこんなところで……。男は目の前が怒りで真っ赤になっていた。

男はリッキーをカタリベに向かわせることを提案したアナスタシアへと怒りの矛先を向ける。そもそも男が自身のさらなる出世のためにアナスタシアの提案に喜んでのったという不都合な事実は頭の中から既になかった。

屈強な男は心に秘めた野望を成就させるべく、改めて心に誓った。


手柄をとるのはこの俺だ……。




「これでこちら側の人数が一人減ってしまったのう。『文書』にはなかったことがまた続いたようじゃ」


「でも確かさ、『文書』にはこっち側の奴らが死ぬ時もあるってあったぞ」


若い男の言葉に頷く老人。


「左様……しかしそれは戦争が始まった後の話じゃ。まだ戦争も始まってもおらんのにリッキーが死んだということはおかしい」


老人の顔に刻まれた皺が一層深くなる。怒りと困惑と悲痛と憎悪がごちゃ混ぜになったような複雑な顔だ。

若い男はキョロキョロと他の二人の顔を見た。若い男にとっても今回の件は頭が痛い話だったが、このままの雰囲気ではろくに建設的な話も出来やしないと考えた。

少しでも雰囲気を良くしようと若い男はヘラヘラと笑いながら口を開いた。


「いや、でもさぁこっち側はまだ十二人いるんだよね? それなら大丈夫じゃない。だって『文書』の通りに『進化』前に俺らが始末しまくったからあっち側はエリスフィアと聖女と魔王の娘の三人だけなんでしょ?」


「その三人が難しいんじゃよ……」


老人が若い男の言葉を即座に否定する。


「そもそもワシらがその三人をあらかじめ始末しようとしていたのはお前も知っていたことじゃろう……。ヴィルヘルミア皇国と魔王の国には間者すら入れられんかった」


老人の言葉に若い男は苦笑いを浮かべる。やぶ蛇だったようだ。


「それにエリスフィアは『文書』に書かれていた通り、相手側の中でも唯一戦争が起こる前の殺害で条件をつけてあった存在じゃ……。そんな特別な者が生きておったということはまずいことになるやもしれんということじゃ」


続けて老人が言った、それにあの大陸最強とうたわれるマーレーン国王が奴を保護したと。

その言葉で先ほどまで笑顔だった若い男が固まる。


「…………大陸最強ねぇ。この俺を差し置いて大層な名を語ったものじゃないか」


若い男にとっては自らの強さは何よりの誇りであった。

様々な強敵を打ち倒し、居を構えている国の国民からある名で呼ばれるようになった今ではそれはなおさらだ。

だからこそ若い男にはアルカディオの大陸最強という肩書きが気に入らなかった。

口には出さないが若い男は胸にある決意をしていた。


アルカディオを殺すのは自分だと……。




老人は静かになった若い男と、唸る屈強な男を見て嘲りの表情を浮かべた。

『文書』を何よりとし、それを書いた方の意向を何よりとする老人にとってくだらない野望も胸に秘めた二人の男は見下す対象でもあった。


事が済めば処分してやろう。だが利用できるうちは利用しよう。

バカな奴らめ……。


老人はそう考えていた。



ピリピリとした室内。誰も言葉を交わさず、変化もない。

これ以上ここに居ても無駄だと、老人が解散を宣言しようとしたときである。

アナスタシアが影からヌッと出てきたのは。


一番最初にアナスタシアの変化に気づいたのは、若い男だった。


「あれ? アナスタシアさんイメチェンですか?」


「クフフ、切られちゃったのよ。でもこれはこれで似合うでしょ?」


若い男の言葉に満面の笑みを貼り付けるアナスタシア。


アナスタシアのあれだけ綺麗でまるで高級な絹のようだった黒髪が肩までバッサリとなくなっていたのだ。


「切られちゃったって……アナスタシアさんが? いったい誰に?」


若い男が疑問を口にする。老人も屈強な男もまた同じ疑問を持っていた。

あのアナスタシアがそんな失態を犯すだろうか? と。

若い男を除いた二人にとってアナスタシアは気味の悪い女という印象だったがその実力は買っていた。だからこそ謎だった。


「ええそうね。あなたたちにもお話しとかなきゃいけないことだから。……トリアク死んじゃったの」


何でもないようにアナスタシアが言った発言に場が凍る。


「ああ、それと向こう側残り三人じゃないみたい。私の髪を切った娘がね、どうやら『進化』してるみたいなの」


再起動したのは同時だった。


「トリアクが死んだだと!? バカな!?」


「なんじゃと、他に『進化』した者がいるなど『文書』には書いておらんぞ! 戯言を言うでない」


「じゃあこっち側はもう十一人しか居ないってこと!?」


激昂する屈強な男と老人。困惑する若い男。


そしてそれを見て笑みを貼り付けるアナスタシア。


「クフフ。本当のことよ。だって目の前で《瞬間移動》使われちゃったし……て言うことは多分例外というわけではないんでしょ。多分あなたたちの誰だったかは忘れちゃったけど……事前に処分出来なかったんでしょう?」


クフフと笑うアナスタシア。

そしてその言葉を聞いて顔を真っ青にする屈強な男。


「《瞬間移動》の担当って確か……あんただったよね?」


「うむ、貴様じゃな……」


若い男と老人が屈強な男を睨んだ。


「ま、待て。俺は確かに奴を始末したはずだ。あの女が嘘をついているにきまっている」


「そんな嘘ついて、私に何の得があるって言うのかしら? あなたみたいに誰かを蹴落としてまで偉くなりたくないのに……ねぇ。クフフ」


アナスタシアに同調するように頷く老人と若い男。


「確かにそうじゃのう。アナスタシアは読めない女じゃが、そんなくだらないことで嘘はつかん」


「なら、アンタの失態だよね。エリスフィアと聖女と魔王の娘以外の奴らを殺しておくのは俺たちの中でも至極命令のはずだぜ」




「あらあらガウラークさん。あなたいったいこの責任どうするつもりかしら?」


アナスタシアは心の中で笑っていた。

マリアには何かがある。はっきりとは思い出せないがあの話し方にも覚えがある。

なにかしらの策を用いて、組織の手から逃れたのだろう。

きっとガウラーク、屈強な男以外でも見抜けなかったはずだ。


だけど、それはどうでもいい。取り敢えずアナスタシアはガウラークの墜ちるところが見てみたい気分だったのだ。








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