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悪夢の夜 6

次回で戦いは終わります。

今話、前話と短かったので次回は長いです。


今日は朝に投稿できず、夜になってしまいました。

申し訳ありません

「世界は確かにあの一瞬だけは私を中心に回った」


そう言ったのは今や昔、神話の時代の勇者と呼ばれる存在だった。

勇者は、歴史上で二人しかいない二回の『覚醒』を経験している人間の内の一人であり最初の『覚醒』経験者だった。


彼の死後もアミューズでは記録に残っているだけで百人程度の『覚醒』経験者がいたが、皆勇者と同じことを口を揃えて言った。


「世界というのは誰か個人の回りを回るものではない。だが一瞬だけ、一瞬だけ自分の中心を回った」


『覚醒』は現象である。

どんな法則によってそれは起こるのだろうかとアミューズの学者は躍起になって調べた。

すると同じ条件で『覚醒』は起こっていた。

一つ目は一対一での対決だということ。

二つ目は『覚醒』した人間は瀕死、もしくは死亡した直後ということ。

そして三つ目は世界に注目されたということだ。


すると学者たちは世界に注目されるとはどういうことなのだろうと考えた。

根拠はないが、一応の結論は簡単に出た。世界もきっと意思を持っているのだと。そして自らを害する可能性のあるものを排除するためにそれに敵対するものに力を与えるのではないだろうか……と。

この仮説が正しいのかなんて誰にもわからないし、これからもわかることはないだろう。


だがもし三つの条件の内の、難しい三つ目を自分の意思一つで行える人間がいるならばその答えは意外と簡単にわかるのかもしれない。






血臭蔓延る静かな戦場で、エリスの悲鳴だけが聞こえていた。

メアリはどこかから短刀を取りだしエリスの前に立つ。トキワを瞬殺したスピードを脅威を感じ、エリスを守る盾になるためにだ。

アルカディオやミーシャもまたリッキーを警戒している。


そしてついに誰かが動き出そうとした時だった。


先程リッキーが『究極身体強化(ウルティマドーピング)』を発動した時と同じように、巨大な魔力が放出された。


リッキーは眉をひそめた。

魔力が生まれた場所が死んだはずのトキワだったからだ。リッキーは中々死なないトキワを頭を完全に潰して殺害した。

そして普通、死んだ人間からは例え生前に魔方陣を仕込んであったとしても魔力は生まれない。そのことをリッキーはよく知っていた。


だからこそおかしい。


リッキーがトキワの方へ向かおうとした瞬間、魔力が爆発した。

土煙が戦場に起こる。

リッキーは身体強化を行っているため、目を瞑ることはなかったが土煙で目の前が見えなくなってしまう。

だがトキワの死体からは先程よりも強い魔力、そして東方の大陸に伝わる気というエネルギーを感じた。


その余りの強大さにリッキーの額から思わず汗が垂れる。



土煙が晴れる。



爆発の中心になったところには、トキワらしき人が立っていた。

ここでトキワらしきと表したのには訳がある。トキワの死体がないことと面影があることからトキワだとわかるのだが、色々な所が変わっていた。


まず髪が腰ぐらいまでに伸びている。

黒く綺麗だった髪色は真っ白になり、疎らに黒がある。

そして黒い瞳はまるで吸血鬼のように紅く染まっている。

そして何よりも、潰れたはずの頭が何事もなかったかのように元通りになっていた。



トキワの身に何が起こったのか一番最初に理解したのはアルカディオだった。

心底驚いたと言わんばかりに、絞り出すように声を出した。


「『覚醒』したのか……!?」


元々第七王子であり王位継承にさらさら興味のなかったアルカディオは若い頃、様々な国に冒険に出掛けていた。そこでアルカディオは多くの人間や亜人と出会い知識を増やしていった。

その時に出会った『覚醒』経験者が言っていたのだ。『覚醒』は対象者の姿を一時的に変化させると。今のトキワのように。



リッキーの強化された耳がアルカディオの呟きをとらえていた。


「『覚醒』か……。確かにお前のその変化と甦りはそうでなければ説明がつかん。まさか本当にあるとは思ってもいなかったがな」


リッキーはトキワを見据えていた。決してその目はトキワを離さない。

そこにはアルカディオのように、滅多に起こらない『覚醒』現象を前にした驚きはなかった。

いや、驚く暇がないと言った方が正しいだろう。

先程からリッキーはビシビシとトキワから殺気を当てられているのを感じていたのだ。



「っ!?」


リッキーの視界からトキワが突然消えた。

すると次の瞬間、リッキーの右にトキワが現れる。拳を振りかぶった状態でだ。

それをリッキーはなんとか上体を反らして避ける。お返しとばかりにトキワに膝蹴りを放った。

蹴りはトキワの横腹に突き刺さり、トキワは吹き飛ぶ。


空中で二回転し地面に着地し、トキワは何事もなかったかのようにリッキーを見る。しかしその瞳は空虚である。


再びの衝突。

今度はリッキーから仕掛けたのだがお互いの拳と蹴りは空を切り、全く当たらない。

最後はトキワの蹴りを、腕でガードしたリッキーが弾き飛ばされて二人の距離は離れた。


外野で見ていた、アルカディオとミーシャにとってでも目で追うのがやっとのハイスピードな攻防戦だった。

メアリにもまるで黒い線が走っているようにしか見えない。当然エリスは何も見えていない。



魔の極致である極大魔法による身体強化をかけた怪物と『覚醒』した怪物。



アルカディオの目には二人が怪物にしかうつらなかった。

そして二人の怪物と戦いたいという戦士としての欲望が胸の内から沸き上がってくるのを感じていた。

もう三十代に入ろうとしているのに、昔の無鉄砲だったときを思い出させる懐かしい気持ちだった。


ミーシャは武者震いをしているアルカディオの手にそっと手を重ねた。

その手にはこれ以上、戦場に怪物が現れてはたまらないとばかりの思いが込められていた。

だがアルカディオはその手を何かと勘違いしたらしく、ミーシャの腰を抱いた。

そしてそれにキレたミーシャがアルカディオをひっぱたいた瞬間。



二人の怪物がぶつかった。


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