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嫌な再会

同居人がもう一人増えたことによって、消費される食糧もまた必然的に多くなる。というよりも倍になった。

あれだけ痩せているのに意外とメアリはよく、いやトキワが引くほど食べる。従者の矜持故にトキワやエリスやファーニーとは一緒に食事をすることはない。基本的に、エリスが魔法の修行で庭に出たときなどに食事をとっている。

一度トキワが偶然にもメアリの食事風景を見たときは腰を抜かすほど驚いた。噛まずに、飲んでいるのだ。大量の料理を。

トキワはそれを見て、エリスの匂いをかぎ分けられるという話を聞いたときより一層にメアリがもしかしたら人間じゃないのかもという疑惑を深めた。

ということでメアリのせいでなくなる食糧をトキワは買い出しに来ていた。

今までならエリスの護衛があったため、片時も傍を離れなかった。そのため買い物一つにも一緒に来ていた。しかしメアリが来てくれたことにより、護衛の負担も少しだけ減りこうして一人で出歩くことができている。

いくら好きな人とはいえ、ずっと一緒にいるのはさすがに息がつまる。

トキワはメアリにとても感謝していた。



近くに格好の狩り場である魔の森があるせいか、基本的に市場には魔物の肉が多い。トキワとしては、人間を食べたことがあるであろう魔物の肉を食うということに、なんだか共食いしているような感じがして嫌な気分になる。

だから割高になるが、いつも普通の動物の肉を買うことにしている。

それも夕方にだ。

地球と同じように、アミューズの商店も夕方になると少しだけ安売りするようになる。特に足の早いなまものなんかだ。


少しでも安いものをがトキワの信条であった。

貧乏性ともいう。




夕方に買い物をしていると同業者によく出会う。

仕事帰りなのだろう、その表情は疲れたようなどこかやりきったような感じが見える。

トキワに話しかけてきた冒険者の二人組もまさにそんな感じだった。


「トキワか!? お前久しぶりだなぁ。最近ギルド来てないけどどうしたんだよ?」


「バッカお前、トキワは護衛任務についてるって知らなかったのかよ。確か……商人のお嬢だったよな。この前見て綺麗だったから覚えてたたんだよ」


捲し立てるように話すのは冒険者特有ではない。

ただ彼らがせっかちだというだけだ。


「ああそうだよ。商人の一人娘さん。綺麗な子だけどわがままだから大変なんだ」


エリスの詳しい素性はカタリベでは領主やギルドマスターのような上の人しか知らない。

だからエリスは商人の娘ということで、話を通してあった。


そのまま三人、道の真ん中で盛り上がる。

話題は定番のイヤらしい話だ。男と長いことこういう下世話な話をしていなかったので、トキワはいつもより楽しく感じた。

だが、冒険者の一人の出したある話題がトキワの気分を損ねることになった。


「そういえばなんだけどさ、最近ゴルドの奴がウザくてウザくて仕方ねーんだよ。トキワやランクが上の人たちが居ないからってギルドに来て威張り放題してるしよ」


ゴルド……嫌な名前を聞いたとばかりにトキワは顔をしかめた。

それを敏感に察知した冒険者の一人はニヤリと笑った。


「そーいやぁ、トキワとゴルドは滅茶苦茶仲悪かったよなぁ。一回決闘もしたし。あの時はスカッとしたなぁ」


ゴルドはカタリベの冒険者中でも一番トキワが嫌いな男だった。

もちろん一般的な価値観を持つトキワが嫌いということは、他の人からも嫌われている。

実力はあるものの、とにかく最低な人間でありギルド内でも幾度となく問題を起こし今はDランクまで落とされていた。


トキワとゴルドの不和の原因はそもそも、トキワがカタリベに来て名を上げてからゴルドが幾度となく難癖をつけてきたり嫌がらせをしたりと陰湿な行為をしてきたことからだ。

代表的なのは酒を頭にかけられたり、足をひっかけられたり、唾を吐き捨てられたりだろうか……。

初めは無視していればじきにしなくなるだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。

無視すればするほど行為は酷くなっていき、そして……ついにトキワが完全にキレた。


トキワはギルドの冒険者や職員が皆見ている前でゴルドを叩きのめし見せ物にした。

わざと手を使わず足のみでという明らかに手を抜いた状態で、自分の力に自信のあるゴルドを倒したのだ。

それ以来、ゴルドはトキワを避けるようになった。

基本的にトキワの居ない時間帯にギルドに来るようになり、最近はてんで見なくなっていた。


(しかしあいつ……あれだけやられて、まだそんな下らないことやっていたのかよ)


「……いっそのこと半殺しにでもしといたら良かった」


トキワのボソリと言った呟き、ビクッとなる冒険者二人組。

そんな二人を見てトキワはさっきまでの嫌な気分が少しだけがよくなった。


「なんでお前らがビビるんだよ。俺はゴルドのことを言ってたんだぞ」


「雰囲気があの時みたいだったからなぁ……」


「トキワは普段ガチで怒ったりしないから、余計に怖いぜ……」


普段怒らない人が怒るとより一層怖いというのはアミューズでも同じだった。

その後も二人と話続けた。もう日が暮れてしまう、という時間になって三人は自然と解散という形になっていた。




商店街からトキワの家に帰るにはいくつかの帰り道がある。どれを選んでもさほど時間は変わらないが、今この状況だからこそトキワはあるルートを選択した。


鼻につく香水の香り。

日も暮れているのに、盛況な場所。

女のかしましい声と客引きの男の声がそこら中で聞こえる。

漂う淫靡な雰囲気。


そう色町、もう少しわかりやすく言うと風俗街だった。

この色町では、そういうことをする部屋が薄い布一枚ごしで歩道側から見える。

誰かが利用していれば、布一枚の隔たりがあるとはいえまぐわいを見ることができるのだ。


「おぉう……エロい……」


早速、そういうことをしている部屋を見つけてニヤニヤと喜ぶトキワ。

トキワは利用するためにここに来たのではない。見るために来たのだ。


トキワは成人が十五才というアミューズで、十八才にして未だに童貞である。これはアミューズではかなり遅い方である。

実のところトキワ自身が捨てようと思えば、今すぐこの色町で女を買えばいいだけの話だ。

しかしトキワはあくまで純な考えの持ち主だった。


初めて同士で結婚したい。いつまでも愛し合っていたい。


などと恥ずかしいことを心の底から真面目に言える人間であるのだ。

そして勝手にエリスに操を立てている。

だから色町で女は買わない。

ただ、まるでエッチな本やDVDを見るように色町での他人のまぐわいを見るだけだ。


ゲヘヘヘヘと嫌な笑い声と嫌な笑みを上げながら色町を物色するトキワ。


(エリスたちが家に来てからは、一度も来たことがなかったからなぁ。久しぶりの色町は最高に楽しいぜ!)


「ちょっと待ちなさいよ。お金払ってよ!」


「うるっせえんだよクソ女! てめぇみたいなブス抱くのになんで金なんて払わねぇといけねぇんだよ!」


喜んでいる気持ちに水をさすように、怒鳴り声の応酬が聞こえた。


この色町ではトラブルがよく起こる。男と女と金が集まる場所なのだから当然だ。そしてそんなトラブルを暴力という手で解決してくれる者たちもいる。

色町を仕切っている裏組織だ。


(アホな奴だねぇ……。怖いお兄さんたちに連れていかれて朝までお説教かなぁ)


なんてトキワは考えながらも騒動が起きている方を見ない。それよりも見ておきたいものがあるからだ。


「お兄さんさぁ……。たっぷり遊んどいてお金払えないはありえないでしょう」


「痛い目にあいたくなかったら払うもん払っていけよ」


(ほら来た)


トキワはそれなりに耳が良い。

その耳で拾った声から、既に怖いお兄さんたちが来ていることがわかった。

この先の展開は読める。トキワはただ目の前だけに、集中していた。


だから、飛んで来た人間を避けるのが遅れた。


「あっぶねぇっ!」


横っ飛びに飛ぶ。

今までトキワがいたところには柄の悪そうな男がいた。散々暴力の雨に曝されたのであろう、その姿はボロボロだ。


(んだよ、良いところだったってのに!)


一言ぐらい言ってやろうと後ろを向いた。


そこにいたのは、血を至るところから流している男と口から血を流し頬を腫らしている女だった。

そして少し離れたところに男がニタニタと笑いながら立っていた。


(ヤられてる男が二人で女が泣いてる……ということは、まさか返り討ちにしたのか)


フェミニストのトキワとしては、女性が泣いている姿には心が痛む。

そして女性に暴力を振るう輩は嫌いだ。


トキワは女のところに走った。


「おい大丈夫か?」


布で口の血を拭いてやる。近くで見ると化粧は確かに濃いが顔立ちは綺麗な女性だった。そのことにトキワはさらに不快感を強める。当然だろう、綺麗な女性が傷ついているのだから。

男? それはどうでもいい。


「ううっ……ありがとう」


女性は目の端から涙が一筋流れる。


「おいおいおい……また新手かよぉ……。どうせ雑魚なんだろぉ」


ねばちっこい声だ。

その声をトキワは聞いたことがあった。


「お前……まさかゴルドか?」


久しぶりに見たのでその姿は随分と変わっていた。

髪が伸びており、頬には以前にはなかった一筋の傷痕があった。


「お前……トキワかぁ。会いたかったぜぇ……」


ゴルドはニタニタと笑う。

その笑い顔がトキワは嫌いだった。生理的に無理なレベルでだ。


(嫌な奴と再会しちゃったなぁ……)



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