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始まりの出会い

マーレーン王国。

歴史の浅く、国土面積の小さな国であるのは確かなことだが、そのような些事を感じさせないほどにこの国は豊かであった。


豊富な資源に、豊富な人材、そして齢三十歳足らずにして圧倒的なカリスマ性と強さを持った王。

国を支える三本の柱と、それを強固にするであろう画期的な国内政策の数々はこれから何千年もの国の繁栄を確信させるにふさわしいものであった。


だからこそ、地球の日本という国から転生した少年トキワ クニシロは滅びることがないであろう、この国で冒険者をしているのだ。


ーーーーーーー


トキワはマーレーン王国の辺境でもあるカタリベという町にいた。

カタリベの周辺に存在する魔の森には多く魔物が存在しており、危険である分金を稼ぐことができる場所だからだ。

日本人であったトキワにとって安全というのは一番に配慮しなければいけないことであった。

しかし実入りが良いということにトキワは引かれた。

自らが持つチート能力を持ってすれば、そうそうの危険は対処することができるであろうと考えていたからだ。

これは高校生足らずの人間にありがちな何の確信もない無意味な全能感とは違う。

確固たる事実がそれを示していた。それこそがこのアミューズという世界に伝わるステータスであった。


「よう、トキワ。今日はなんで昼間からギルドにいるんだよ。いつものお前ならハントに行ってるだろう?」


ギルドの中に作られている酒や軽食を楽しむスペースで、自身のステータスが表示されたステータスカードを手で弄びながら、チマチマと果実水を飲んでいたトキワにそう声をかけたのは顔見知りである冒険者のトーマスであった。


「ようトーマス。今日はちょっと夜の依頼を受けててな」


トキワ自身は何気ない内容を話したつもりなのだが、トーマスは顔をひきつらせていた。

夜の依頼とは昼の依頼とは難易度が桁違いに高いからだ。

半端な力の冒険者にはギルドは夜の依頼は受けさせない。


トーマスは、今でさえ圧倒的な力を持ちさらにその将来性を期待されるトキワならやむ無しかと思うことにした。


「さすが『新星』だな」


そう言いながらトーマスはトキワと同じテーブルに腰をかけ、トキワの手のステータスカードをスッと抜き取り見た。


【偽】


name【トキワ クニシロ】


age【18才】


rank【B】


level【52】


skill【剣術 5.格闘 4.索敵 4.木魔法 3】


トーマスの行為にトキワは眉をひそめる。

他人のステータスカードを見るというのは基本的にはアミューズにおいてはその人間の全てを見られることに等しく、余りにも失礼かつ非道な行いだったからだ。


「おい、トーマス。止めろ」


「なんでい、ケチクセーなぁ。どうせ隠蔽かけてるだろ?」


隠蔽とは、そこそこの実力者になると行えるようになるステータスカードの書き換え行為である。隠蔽は違法ではなく、それができるということ自体がその者の実力を示していると判断される。

しかし、隠蔽を行うとステータスカードにしっかりと【偽】という文字が表れるため、隠蔽しているのかどうかはステータスカードを見れば一目瞭然であった。


「それでも止めとけよ。ここの女職員がまたキャーキャーうるさいんだから」


トキワの発言に今度はトーマスが顔をひくつかせた。


「ここの女職員はかわいいのに、腐ってるからなぁ……」


「まったくだな」


例外的に他人のステータスカードを見ることのできる者もいる。それは本人が許可した場合であり、基本的には家族であったり、恋人であったり、長年連れ添った仲間であったりだ。


トキワとトーマスは確かに数回パーティーを組んだこともあり友人のような付き合いをしていたが、まだ出会って半年程度であり、いくら隠蔽をかけているとはいえステータスカードを見せ合う程の仲ではない。

ならば、いったいこの二人の関係はなんなのだろうか?

そこで恋人だと答えるのがここカタリベの冒険者ギルド女職員ズだ。

彼女らは日本でいう腐女子であり、よく冒険者たちで勝手にカップリングを作ったりして盛り上がっているのだ。

そしてここ最近のネタは、『新星』の異名を持つトキワと、ゴツゴツの筋肉男トーマスだった。


散々、目に見えるところで噂されれば二人とも憂鬱な気分になるのは仕方のないことであろう。


「『新星』ねぇ……」


日本から転生した時は浪人生でありながらにして、未だに中2病を患っていたトキワは自身に付けられた二つ名を口にしてニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。


その姿を見てトーマスは若干引いたが、トキワが時々このような表情をすることを知っていたので動揺は少なかった。


「『七星』にあやかって付けられた名前なんだろ。やっぱお前はすげーなぁ」


『七星』とはこのマーレーン王国の王であるマーレーン王の盟友であり、また直属の兵士でもある国最強の七人のことを指している。

その七人は他国では蔑みの対象でもある亜人をも含むらしいのだが、こんな辺境にはそれほど詳しい情報はやってこない。

そしてトキワ自身も必要としていなかった。


トキワの目的は安定と平和とスローライフである。

自らが持つチート能力でもって若いうちに大金を貯めて、そこそこに大きな家を建てて、何人かと結婚してハーレム築いて、猫と犬を飼うことが目的だった。

元の世界のように誰にも頭を垂れず、自由気ままに冒険者として生きていたい。それは誰もが想う夢であり、そして日本では叶えられずアミューズならば叶えられる夢だった。

だから国の情報なんていらない。

国に取り立てられるつもりもない。

ただ静かに、ただ大人しく、そして楽しく生きていたかった。

それが二度目の人生の過ごし方だ。


まぁそうは言うものの中二病と高二病が発症しているので、冒険者稼業でチート能力をフル活用してド派手に活躍している。

そして周りから『新星』とかいう二つ名をつけられたり、最速でBランク冒険者になったりと注目されて嬉しがっていた。

トキワは所詮18才。そんな活躍をしておいてマーレーン国どころか他の国にも目をつけられていないはずもないのだが、それには全く気がついていなかった。


女性ギルド職員からの粘ついた視線を無視しながらも、トーマスとの会話を楽しんでいるとすぐに夜になった。

それに伴い、仕事を終えた冒険者たちも帰ってきて酒飲み場が盛り上がってくる。トキワはカタリベの冒険者の中でも一番の出世頭であったが特に嫉妬されることもなく、関係は一部を除いて非常に良好だった。

酒飲み場はどんどんと盛り上がってきてみんな楽しく談笑していた。

トーマスも今日はもう早くに仕事も終わったようで、このままギルドの酒飲み場で飲んでいくらしい。

だがトキワは依頼があったため別れの挨拶をして、ギルドを出た。


(みんな楽しそうだったなぁ~。俺も参加したかった……)




今日の仕事は夜にしか咲かない、月草と呼ばれる素材を取ってくることだった。

月草は様々な疫病の特効薬には欠かせない存在であり、もしものときに備えて備蓄しておくことは絶対であったが、如何せん夜にしか咲かない。なので、思うように備蓄できないのが実状であった。


月草は光る草だ。

だから真っ暗な闇の中では簡単に見つかる。

しかし、それはまた魔物にも言えることであり、魔物たちも夜になれば月草の周りにたむろする。

それ故に入手するのが難しいのだが、トキワにとってはそれほど脅威には感じない。光に集まる魔物はトキワにとっては強くないからだ。


ヒョイヒョイと夜の森を月草の光る場所に向かって進んでいく。

片手は腰の剣に添えられていた。いつでも抜刀できるようにだ。

だがそれは必要のないことであろうとトキワは理解していた。そしてそれ以上に頭は困惑していた。


(おかしいな……。索敵に何の魔物も引っ掛からないなんて)


カタリベの近く魔の森はかなり広大であり、そこにはあらゆる魔物が想像を遥かに超えるほど大量に存在している。そのため国が総出を挙げても、制圧は難しく、また採算がとれない。

事実、魔の森の向こうにあるアルサケス王国が三十年前に行った大規模進行の失敗は記憶に新しく、世情に疎いトキワであっても知っていることだった。


それくらいこの森には魔物が多い。それなのに、月草の周囲に魔物が一匹もいないというのは甚だおかしな話だった。


(いや、もしかして俺の索敵を打ち破るほどの隠密スキルを持ってる魔物がいるのかもしれない……。気を付けた方がいいかも……)


思わぬ強敵と遭遇するかもしれない。

トキワの心は不安で一杯だった。


(自分より明らかに弱いやつなら俺tuee! 出来るんだけどな……。拮抗した実力とか格上とか嫌だぞ……。死ぬかもしれないじゃん……)


トキワは情けないことに、自分と同格以上の敵とまみえたことはなかった。それは初めからチート能力が付与されていたことにも起因するのだが、いつもいつもトキワは自分の力に及ばないものばかりを相手にして来た。

だからこそ、その実力とは比例せずに『戦う心』が育っていなかった。


(今日は、人生で一番良い日になるとか言ってたくせにあの婆さん……。やっぱり占いなんて信じるもんじゃないな……)


今日、借りている家からギルドまで歩く道中で、怪しい婆さんに「ただにするから……」と言われて、しぶしぶ受けた占いの結果をトキワは思い出していた。



そして月草の場所に辿り着いた。

即座に利き手である左手で抜刀し、剣を構える。また右手には魔方陣が描かれた自作のグローブを着け、剣に添えるような独特な構えをする。

これが異世界に来て、自分なりに試行錯誤を繰り返して磨きあげた自分の型だった。


だが誰もいない。


(隠密のレベルがMAXなのか……? もしかしてヤバイくらいの強敵?)


という、トキワにとって最も都合の悪い、最悪の考えも浮かんだがそれはすぐに消えた。



月草の群生地に一人の少女が横たわっているのを発見したからだ。

少女の着ているドレスは汚れていて、また破れてもいるが元は非常に高価であっただろうもわかるような代物だった。

顔はこちらの方を向いておらず、見えないが髪はいかにも貴族といったロールを巻いていた。まぁこれもドレス同様汚れているが。

靴は履いていない。手と足は皮がズルムケになっていて、血が固まっていた。


(なんか、いかにも問題抱えてますって感じだな……。それよりもこの娘、よく魔物に食われなかったな……。もしかして何かのアイテムか?)


そんなことを考えていても仕方がない。本人に聞こうとばかりに、少女を起こそうとする。

ここで、黙って朝まで護衛してやって十分休ませてから翌日話を聞くという紳士的な選択肢が無いのは一重にトキワが早く帰りたいという面倒臭がりであったからだ。


そしてトキワは少女の顔を見て固まった。



(………………超ドストライク)



土や血に汚れていたが、目を瞑っていたが、それでも少女が前世と今世を合わせた自分の人生の中で、最も好みのタイプであることは間違えなかった。


トキワは少女の体を揺り動かそうとした手を止めた。



(朝まで寝かせてやろうじゃないか! 俺は紳士だからな。…………だから惚れてもええんやで)


打算丸出しの考えだった。




そして今この時、後に世界を揺るがす戦いに巻き込まれていく異世界からやってきたチート転生者と悪役に仕立てあげられた元公爵令嬢が出会った瞬間なのだった。

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