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一章三

蒼鴛を案内役に芳子は草原を歩き続けた。町までは後少しとなったが。芳子の足は既に限界を訴えていた。

痛み出したので、心配した蒼鴛が途中で休憩を挟む事にした。パンプスを脱いでみると踵の辺りが赤く腫れていた。

「…これは。気付かず申し訳ない。俺が無理をさせたせいですね」

「痛いけど。これくらいだったら大丈夫ですよ。まだ、歩けます」

精一杯、虚勢を張ってみたが蒼鴛は彼女の顔に疲労の色を見て取って、首を横に振った。

「無理はしないでください。ただでさえ、大変な目に遭われたのです。今日はここで休みましょう。俺が野宿の支度をしますから。足の手当てもしなくてはいけませんし」

有無を言わせない真剣な調子で言われて芳子は首を縦に振るしかなかった。それを確認した蒼鴛は早速、野宿の準備を始めた。




野宿のために木の枝などを拾って火を焚く準備をする。既に、日は西の方角にあり、夕暮れが近い事を指していた。蒼鴛はてきぱきと野宿の支度を終えた。

芳子にこちらへと声をかけると彼女を焚き火の近くに座らせる。パンプスを脱ぐように言うと腰紐の袋から、薬と包帯用の布切れ、手巾を出した。

竹筒も懐から取り出してまずは靴擦れを起こしている箇所に水をかけて洗い、手巾で拭く。そして、芳子の足を自分の膝に乗せると薬の容器を手に取って蓋を開ける。

薬を指で掬うようにして取り、その部分に擦り込んだ。当て布をして、包帯を手早く巻き付けると手当ては終わった。

「…ありがとうございます。薬を持ってたんですね。ちょっと、匂いがきついけど」

「ああ、これは切り傷やすり傷、その他にも効く万能薬ですから。匂いは我慢してください」

蒼鴛はそう言いながら、薬などを袋の中に戻した。そして、肩に担いでいたらしい麻袋から穀物、麦や稗、鉄鍋を出して焚き火の中央辺りにかけた。水は近くの池から汲んできていたのでそれも鉄鍋の中に入れる。麦などを入れて塩や(ひしお)を取り出して味付けに使う。しばらく、煮込むと雑穀粥の出来上がりである。

椀にそれをよそうと芳子に蒼鴛は勧める。木匙も渡してくれたので一口食べてみた。

「……」

味は今ひとつだったが。それでも、空腹を何とかするために粥を黙々と口に運んだ。



夕食用の雑穀粥を三杯ほどおかわりした芳子は驚いている蒼鴛に気まずさを感じていた。女としてこんなに食べるのはどうよともう一人の自分が訴えかけてくる。恥ずかしくもあって顔を赤らめた。

「…あ、ヨシコ様。そう、気になさらないでください。よほど、腹を空かしておられたんだなとは思いましたが。まあ、人は食べて動いてが基本ですし。もう、休まれてはいかがですか」

「そう、ですよね。私、もう寝る事にします。どうせ、明日も歩きますし」

そうしてくださいと蒼鴛に言われて芳子は頷いた。今はゆっくりと休みたかったのは言うまでもない。

横になる前に蒼鴛から、敷き布と外套、マントらしき物を渡された。

「とりあえず、こちらをお使いください。俺の予備の外套ですが」

「…はあ、わざわざすみません。じゃあ、お言葉に甘えて使わせてもらいますね」

「いえ。町に着いたら、ヨシコ様の外套や衣服などを買いますから。それまでの辛抱です」

わかりましたと言って芳子は瞼を閉じた。蒼鴛は周りに目配せをすると眠る彼女の黒い髪を撫でる。

「……後少しで貴方を手放さなければならなくなるな。それまではお守りします。朱凰様」

この命を懸けてでもという言葉は飲み込んだ。ヨシコは我が主の伴侶となるべき方。なるべくであれば、傷をつけたくはなかった。

だというのに、彼女を疲れさせ、靴擦れまで作らせてしまった。せめて、馬があればと思うが。後の祭りである。

月のない夜闇の中、紫の瞳を曇らせながら、蒼鴛はため息をついた。芳子はそんな事は知らずに眠り続ける。剣を握りしめて自分の至らなさを恥じていた蒼鴛であった。


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