妹からの電話
初短編ということで、力を入れました!
結構悩みました!
読んでいただけると幸いですm(__)m
俺の名前は池田和也。ただの高校生だ。俺の高校はすぐそこにある近所のなんの変哲もない普通の高校。んで、俺の横で腕を組みながら睨んでいるのが妹の池田美穂。
俺の妹は優秀だ。中学三年生で容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、人当たりも良くて誰からも好かれるような理想的な女さ。つっても、それは外面だ。家の中では兄貴には罵倒するし面倒なことは全部俺に任せてくる。たまーに可愛いとこ見せるもんだからやりにくい。
ていうかなんで睨んでんだよ。
「ねえ、宿題手伝って」
「は?」
驚いたよ。睨んでたから怒るものとばかり思ってたけど宿題か。てかなんでそんな上から目線なんだよ。
「は?じゃないわよ、宿題手伝って」
「あ、うん」
曖昧な返事で返し、妹の部屋へと足を運ぶ。妹の部屋は二階の一番奥だ。俺の部屋はその隣なんだが、なんていうか俺の部屋は狭い。んで、妹の部屋がどでかい。これは差別だろ。
「ささ、入って入って」
笑顔で言われたら困るなぁ。笑顔届ける池田美穂美穂、青空もーみほっ!このネタ知ってる人いますかねぇ・・・・・・俺自身が恥ずかしくなってくるよ・・・・・・。
「・・・・・・なぁ」
「なに?」
「・・・・・・なんでお前の部屋は俺の部屋の三倍はあるんだよ」
「知らないわよ、やっぱり私って完璧じゃん?それが世界の理っていうの?」
何だよそれ、お前中心に世界は回ってるのか?頭の中お花畑だな。
「それでね、これわかんないんだけど」
おもむろにワークを取り出しわからない部分を指でさす。
「なになに?」
言いながらワークへと近づき、問題を読んでみる。
・・・・・・なんだこれ。こんなん習ってねえぞ、覚えてるわけねえだろ・・・・・・。なにこれ本当。
「あーなんだ、その・・・・・・自分で解かないと力が身につかん」
適当な言い訳で誤魔化すも、妹には通じなかったようだ。そりゃこの手は古いもんな。はぁ。
「ごめんわからない」
素直にわからないと伝えるも、妹の顔には眉間が寄っている。
「はぁ!?高校生にもなってわからないの!?」
また始まったよ。ていうかこのキャラはツンデレっていうの?なんか某アニメの妹キャラに似てるぞ美穂。
「ごめん、答えさえ見れば答えはわかるよ」
当たり前のことを言って胸を張った俺にグーパンが飛んできたことは言うまでもないだろう。
次の日、妹とショッピングだ。突然出かけようなんて美穂が提案してきたから焦った。まぁ、友達と遊ぶつもりで由美子ちゃんとやらに電話したけれど遊べないだのなんだので断られたらしい。結果、暇になった妹は俺とショッピングだ。何するのかなーと思って行ってみれば荷物持ち。それについては半分予想はしていたが、予想外のことが一つあった。
「妹よ・・・・・・なぜ俺の金で買うのだ」
涙目で聞く俺の姿に呆れたのか、ため息をついてから口を開く。
また予想はしていたが、もちろん罵倒だった。
「妹のためでしょ!?いやなわけ?本当、使えないわね」
おいおい、代金俺払いな上に荷物持ちしてやってるのに疑問を洩らすと罵倒かよ。ひでぇな。
その時俺の中で弾ける音がした。擬音すると、プチッかブチッだろう。
俺はそのとき思った。妹なんていらない。死ねばいいのに、と。誰でも一度は思うことだろう。俺だってその時は本気で思ったが、毎回熱が冷めるとそんなことは思わなくなる。それが人間の難しいところだよな。
帰り道、俺は大量の荷物をぶら下げてヨロヨロと歩く。荷物が多いせいで前がみえない状態だ。美穂の言葉通りにヨロヨロと進んでいるが、今にも倒れそうだ。重いし、何より金が俺持ちだってことで気分が非常にナーバスになっている。
あー信号青か、急いで行かないとな。倒れそうになりながらも小走りで信号を駆け抜ける。なぜだろう、俺が走っていると妹の笑い声がする。こんにゃろう・・・・・・。
「おっそーい、早くしなさいよー」
くっそー・・・・・・覚えとけよ。そんなことを思ってしまうが実際は何にもできない。家族での権力構成で表すと俺と父の男組は最下層である。父は妹や母に顔が上がらない。一家の大黒柱として情けないものだ、俺もだけど。なぜだろう、池田家の権力構成図では、ペットである猫のトラコのほうが男組よりも上なのだが。
埒のあかないことを考えながらノソノソと歩いていると、ふいに声をかけられる。
「あにきっ、あぶない!!!!」
妹の声だ。いや、叫びに近い。
瞬間、俺は妹に押され、吹き飛ばされる。持っていた荷物などは空中に舞い、少しの間浮遊する。妹の買った(俺の金で)服やお菓子は道路にボトンと落ちる。その一連の動きはスローモーションに見えた。そして、こうなった元凶である妹の方へと目を見やる。
妹は俺を押したからか、道路の真ん中でへたり込んでいる。妹の顔色は悪そうだ。何やら怯えるようにしているのでその目線の先へと見やる。
大きな一台のトラックが突っ込んでくる。ものすごい早さで。
ブーーーー、ドーン。
何が起こったのだろう。すぐには状況を判断することはできなかった。ただ、呆然としているだけだった。
口を大きく開けながら周りを見渡す。
妹と買い物したときに買った服やらお菓子やらを見る。数秒前までは普通だったものが、今では赤く血塗られている。道路にはところどころ赤色で塗られている。
その赤色のなにかを目で追うようにして赤色の間隔が狭くなる方へと顔を上げる。
その先には、得体の知れない何かが血をドバドバと流している。人・・・・・・だろうか。何も考えずに立ち上がり、その何かに向かって行く。
人間のようだが、顔は原型を留めていなかった。顔なのか、と疑うほどだ。誰だろう、俺は視線を下げる。
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・・アアアアアアアアアアアアア」
見覚えのある服。服の柄は全て赤くなっており、赤一色といった感じだ。そう、この服は・・・・・・今日一緒にショッピングに行った妹の服装だ。
「アアアアアアアアアアアアアアアア」
何度も買ってきた物と妹の姿を交互に首を動かす。トラックの運転手は未だに運転席で座っており、ビクビクしていたがそんなことはどうだっていい。何度も交互に首を動かし、現実を受け止めようと思いながらも、信じることのできない自分がいた。
何度も首を動かすが、周りの背景ははいってこない。いつのまにやら騒がしくなり、ハッと我に返ったところで、ギャラリーが集まってきていることに気付く。
知らない間に救急車やパトカーまで来ていた。救急隊の人は、その死体を見るや汚物を見るような目をしていたので自然と怒りという感情が湧いた。
警察の人はトラックの運転手を連行し、署まで連れていくとかどーとか話していた。
何があったかについて俺も連れていかれるのだが、その時には俺の意識は途絶えた。
「うぅ・・・・・・」
「泣くな、母さん・・・・・・」
目が覚めた。そこは俺の家の飯を食べるときの食卓ルームだ。ソファーで寝かされていたらしく、少し肩が痛いし首も痛い。
「おぉ、起きたか和也」
父さんが俺の方を見て言う。
「父さん、今日は早いね、どうしたの?」
俺が聞くと、悲しげな表情をする。父さんの横に居た母さんも泣き始める。というかずっと泣いていた。
「どうしたの?」
何食わぬ顔で再度質問をする。
父さんは諦めたかのように、
「美穂が死んだんだ。和也、お前のほうが知っているだろう・・・・・・」
は?美穂が死んだ?そんなわけないだろ。冗談きついぜやめろよ。
「何言ってるんだ?縁起わるいなぁ」
笑い飛ばすように言う。何を言っているんだよ。
「和也・・・・・・」
「はは、美穂ならほら、俺の横に居るじゃないか。なぁ、美穂」
俺が言うと可哀想な目で俺を見てそっと目を閉じる。
「ほら、美穂がおなかすいたってよ。早く何か食べようよ」
淡々と一人で会話し続ける俺に止めの一言を言い放つ。
「美穂はいない。今日、五月三日に死んだんだ。和也の前で」
「やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろ、アアアアアアアアアアアア」
発狂する俺に家族は何も言わなかった。顔を俯かせ、泣いているだけだった。
何ヶ月、何年が経っただろうか。俺は心の病ということでカウンセリングに毎日通っていた。だいぶ心も安定してきたようで、今日でカウンセリングは終了とのことだ。
妹か。いやなやつだと思ったり、死ねばと思ったこともあったけれど・・・・・・、実際そうなるともうだめだ。生きる気力さえなくなってしまう。たまに妹の夢を見るけれど、そのたびに枕が濡れている。寝ているときに涙が流れてしまうのだろう。それほど悲しかったということだ。
「・・・・・・もう大丈夫」
呟いて、家に向かう。もう学校は一年近くも行ってないな。妹が死んでから一年も経ったのか。時が経つの早いなぁ。
今までのことを振り返りながら帰っていると、いつの間にか家の前だった。
「早い」
時計を見るが、そんなものか。最近本当に時間が経つの早いわ。
鍵を使って開ける。ガチャリとドアを開け、今は誰もいない家に対して「ただいま」と帰宅を告げる。当然返事はない。前までなら、妹が居たというのに。自分の考えたことに首を振る。
「俺って寂しがりなのかな」
今までの日常が崩れ去ったのだ、しょうがないのかも知れない。
自分の部屋へと戻ろうとする。もちろん、妹の部屋はあの日から何も触られていない。
ふっと笑い、階段へと足を運ぶ。
瞬間、家の電話が鳴りだす。
聞いたことのない音だ。電話の方へと恐る恐る近づき、受話器を取る。
「は、はい、池田です。どちら様でしょうか・・・・・・?」
間違いなくイタズラ電話か間違い電話だろうと確信していたが、礼儀として対応する。
正直、もう切ってもいいとは思ったが待つ。次の瞬間、受話器から声が聞こえたが、それは良く知っている声だった。
「え、あ、兄貴!?なんで兄貴がそこにいんのよ。あたし友達のかけたんですけど」
え?嘘だろ?そんなわけない。まて、まて待つんだ。
「いや、お前誰?」
「いや、美穂だけど」
「俺の妹?」
「そうだけど、なに?頭でも狂ったわけ?病院行けば?」
狂ったのかな?カウンセリング終えたんだけどまだ必要なのか・・・・・・?
「はぁ・・・・・・。じゃぁ切るね、友達と遊ぶために電話したんだから。なんでそっちに繋がったかは知らないけど。まさかあれなの?由美子と一緒にいるわけ?」
由美子とは美穂の友達のことだろう。その子に電話でもするつもりだったのだろうけど。
「いや、待て!マテ!!!」
怒鳴るように叫ぶ。
「・・・・・・何?」
少し低いトーンで聞いてくる。少々イラついているようだがそれどころじゃない。
「今、何月何日だ?」
「はぁ?なんなの?」
「いいから」
俺が切羽詰ったように聞くため、妹は素直に従う。
「はぁ・・・・・・。五月の三日よ。それでなに?」
ハッ、妹の死んだ日と一緒だ。まて、携帯をポケットから取り出し日付を見る。
二〇一五年、五月三日。
「今、何年だ?」
「日付?」
「うん」
「二〇一四年よ。本当なんなわけ!?」
まて。一年前?おかしい。
「本当に二〇一四年なのか?」
「当たり前じゃない。もしかしてあれなわけ?もう何年か忘れたの?携帯とかで見ればわかるでしょ」
「聞いてくれ。今から言うことは本当のことだ。信じられないだろうけど、聞いてくれ」
「なによ」
「今、俺たちの世界では二〇一五年なんだ。五月三日のな」
「はぁ?なにそれ中二病じゃん。俺たちの世界って、ウケル」
馬鹿にするように笑う。そりゃ当然だろうな、俺だって信じられない。
「それでな、美穂。お前は、ちょうど一年前に死んだんだ。それと、由美子ちゃんは遊べないはずだ。それで暇になったお前は俺とショッピングへ行くんだよ。帰り道、お前は俺をかばってトラックに轢かれた。場所は――――の角のところだ。そのトラックは、居眠りなのかブレーキが利かなかったのかは分からないけど・・・・・・」
受話器の向こう側からはため息が聞こえる。呆れているみたいです。
「妹として恥ずかしいよ。でもよくわかったね、由美子に断られたらあんたとショッピングするつもりだったって」
「当たり前だ。一年前に本当にあったからな。信じられないことは重々承知だ。でもな、これだけは聞いてくれ。今日、俺とはショッピングへは行くな。もしくは、俺を庇うな」
「あんた何言ってるか分かってる!?ついに兄貴も電波の仲間入り?ていうか充電切れそう。じゃぁ兄貴、き―――――」
ツーツー。電話が切れる。妹は何かを言おうとしていたが、充電が切れたのだろうか。あとでかけなおしてくるだろうか、電話番号は前の妹のやつのままだった。ポケットから携帯を取り出し、番号を打ち、電話をかける。
「おかけになった―――――」
繋がらない常套句で繰り返される繋がらない時のあれは健在だった。やはり、一年前の妹からかかってきたという結論が正しいのだろうか。もしかすると、俺は本当に病んでいるのかもしれない。さっきまでのことは、全て俺の幻想だったり幻聴だったりするのかも知れない。しかし、微かな希望を胸に携帯をしまい、自室へと閉じこもった。
×××
「はぁ、なんなわけ?」
本当、兄貴意味わかんないわ。兄貴の宣言通り、由美子は今日は遊べないとかなんとか。だからしょうがないけど、兄貴とショッピングでも行こうかな。
「あにきー、ショッピング行くよー」
「はー?俺もついて来いってか?」
「当たり前よ。兄貴と久しぶりに出掛けたくなったの」
まぁ、そんなのは嘘。こうやって言っておけばいやでも行かざるを得ない。荷物持ちさせる!ついでに奢ってもらうんだぁ、ふふん。ってあれ?さっき、兄貴と電話してたよね?なんで家にいるわけ・・・・・・?私、さっきの電話は誰と?
疑問が頭の中でグルグルと駆け巡る。結論に到ることはなかったが、引っかかる部分があった。
一年前だとか、二〇一五年だとか、私が死んだだのと謎ワードを繰り返し呟いていた。その上、由美子とは遊べないって知ってたし、兄貴とショッピング行くことも知っていた。なんで?
「じゃぁ、用意できたし行くか」
兄貴が仕切る。
「う、うん」
言葉を詰まらして私は頷いた。
「あにきーーー!おっそーーい」
ふふーん、兄貴にいっぱい奢ってもらった!荷物持ちも兄貴にしてもらってるし、サイコー!こういうときは役立つんだから。
あーあー、ヨロヨロとしちゃって。情けない。まあ前が見えないのはちょっと危ないかもねぇ。
「兄貴ー!信号青だよ!急いで急いで!」
兄貴は私に急かされて遅いながらも小走りで走る。荷物は危ないながらもグラグラとする程度で収まっている。あー、ここから角かー。車来てないか確認しないとね。
一台のトラックが見えた。
「トラックだー」
トラックはまだまだ遠くにいる。私がここに居れば止まってくれるだろう。
「あにきーはやくぅぅ!」
兄貴は荷物持ちに夢中で声は聞こえてないかなぁ。兄貴面白いなぁ。一生懸命なところ結構好きだよ。
ふと頭をよぎる。家のときにした兄貴の電話のことだ。
この角でトラックがきて兄貴を庇って私が死んだ。そんな根も葉もないことが頭をよぎる。なぜだろう、少し不安。この角で帰り道、トラックが来ることは的中している。今までのことだって全て当たっていた。
「あ、あにき・・・・・・」
トラックはどんどん近づいてくるが、止まる気配はなかった。
「あにきっ!あぶないっ!!!!!」
私は大声で叫んだ。叫んで兄貴を突き飛ばした。兄貴は何が起こった!?という顔をしていたけれど、今はそんなことはどうだっていい。服やお菓子は宙を舞い、ボトリと地面に落ちる。
私は兄貴を押した反動でヘタリと地面へと座り込む。まだ距離はある。今なら避けることが―――
「えっ、腰が・・・・・・うごけないっ!!!」
声にもならないような叫び。兄貴に届くはずがない。兄貴の方を見て私は言う。
「あにき、だ・い・す・き」
兄貴は私の方を見ていた。何を言っているかは聞こえなかっただろう。私は死を覚悟して目を閉じた。
ブーーーーーーーー
クラクションを鳴らされ、目を開けてしまう。すぐ目の前にはトラック。横を一瞬ちらっと見ると、兄貴がこっちに走っていた。兄貴、轢かれちゃうよ・・・・・・?涙目になりながら兄貴の命だけ助かるように願った。
兄貴は私の方へと走る。もうトラックがすぐそこだ。兄貴はものすごい速さでこちらへとたどり着く。
私には、トラックや兄貴の動きがスローモーションのように再生される。死ぬ間際はスロー再生されるというのはよく聞く話だ。
兄貴は私の方へたどり着くと、私の腕や肩をガシっと掴み、アクロバティックな動きを繰り広げる。ガシっと掴むと、私を一瞬のうちに抱いて、バッと転がるように飛び、トラックを回避させて見せた。
トラックは、そのまま止まらずに突っ走っており、すぐそこの壁に激突していた。
「あ、あに・・・・・・き・・・・・・・」
私の目には涙が溜まっているだろう。一瞬の出来事だったけれど、長く感じた。
「美穂・・・・・・大丈夫か・・・・・・?」
兄貴はまず一番に私のことを考えてくれた。そのことが、すごく嬉しくて、私はまた泣いた。兄貴の腕の中は、とても暖かくて、優しかった。
「あ、ありがとう・・・・・・」
ボソリと呟いて兄貴と家に帰った。翌日、ニュースでは、居眠り運転か何かでトラック運転手死亡というのがあったけれど、怖いです。
兄貴からの電話については、まだ言っていません。言っても、信じてもらえないと思うから。
私は、あの電話のおかげで助かったと思います。やっぱり、兄貴は私の兄貴です。
私がトラックに轢かれる間際に呟いた だいすきと言う言葉は聞かれていなかったらしく、その内私から伝える日が来るでしょう。
感想頂けたら幸いです!!