第三話:「魔界」
ライドは目が覚めた。
「ここは・・・一体?」
その直後謎の男が近づいてきた。
「目が覚めたね。色々とあって混乱していると思う。すまなかったね。私の名前はナイトホークだ。よろしくね。」
その男は人間のようだった。しかし、この男も魔族なのだろうと思った。年は二十代前半くらいだろうか。背は高く、体から光を放っているようだった。
顔は穏やかだった。
ライドは何があったかを一気に思い出した。そして、怒りが込み上げてきた。「ナイフとフォーク?聞いてねえよ。人間界に帰しやがれ」
「・・・残念だけどそれは無理だ。魔人は人間界に住むことができない。君
は現世で生まれたから人間という判定だったが、本来君は魔族だ・・・つまり、君がここに来た以上君は魔人として魔界で一生を過ごさなければいけない。」
全く何を言っているかわからない。
「俺が魔族?ふざけんな。お前ら変態誘拐魔と一緒にするな。」
ナイトホークはこういった。
「・・・残念だけどそういうことなんだ。」
ライドは信じられなかった。夢だと思いたかった。
「君にここまで来てもらったのは君の力が私たちに求められているからだ。」
そして、ナイトホークは土下座していった。
「どうか、君の力を貸してくれ。ライド君・・・!」
ライドは何も言えなかった。ただ怒りが薄れた。どうして真剣に土下座してお願いをしている人に対して怒れるだろうか。
「・・・わかりました。とりあえずどういうことかを聞きます・・・」
そしてナイトホークによる説明が始まった。
「今魔界は大戦中なんだ。民族戦争が起きている。魔族は細かく分けると六魔族に分けることができる。雷魔族、風魔族、水魔族、炎魔族、闇魔族、天魔族。それぞれの魔族の力にはそれぞれの特徴がある。
まあ、それはおいておいて今魔界は六つの民族と一つの集団に分かれて戦っているんだ。わかるね?」
「はい。わかります。ということは僕はナイフフォークさんと同じ魔族に所属しているということですね。ちなみに何魔族なんですか?」
「ナイトホークだ。気を付けてくれ。」
「ああ、すいません。」
「まあ別にいいよ。そして、君と僕は同じ民族ではない。私は天魔族なのに対し、君は・・・いや、何でもない。とにかく違う魔族だ。
「・・・!!敵同士なんですか!?」
「・・・まあ基本であればそうなる。しかし私たちは味方同士だ。言っただろ?魔界は六つの民族と一つの集団に分かれて戦っているって。私たちはその一つの集団ってことさ。魔族連合軍とでも言っておこうか。」
「な、なるほど・・・ちょっと驚きました。つまり、今魔界では七つの勢力に分かれて戦っているということですね。そして、僕は魔族連合軍に力を貸すということですか。」
「そういうこと。まあ今はこのくらいわかってもらえれば十分。何か質問はある?」
そう言われたライドは、質問したいことがいっぱい出てきた。
「えっと・・・じゃあ一つ目です。僕
一人がそんな大きな戦力になるんですか?」
「ああ。君は救世主だ。君の戦力はおおきい。しかし、今は君の話はこのくらいにしてくれ・・・」
ライドは救世主と言われて少しいやな気がした。ライドは、昔から褒められるのは嫌いだった。
「わかりました。すいません。えっと、じゃあ二つ目です。なぜ連合軍なんかができたのでしょうか。ちょっと不自然に感じました。」
「・・・話すと長い。しかし興味があるなら。」
ライドはいつの間にか怒りを忘れていた。
「ぜひ教えてください。」
「・・・戦争が起きたきっかけはともかく、魔人は富や栄光を求めているんだ・・・理由はただそれだけだ。くだらない話だろ?魔人っていうのは強欲な生き物でね、常に富を欲してるんだ。こうして民族間での領土争いやその他の財産の取り合いが発達していまに至るんだ。私たち連合軍は、こうした考え方に反対した者たちが各魔族から集まってできてるんだ。かといって連合軍以外の魔人が下等で私たちが上等というつもりは無いから勘違いがないようにね。」
「そうだったんですか・・・」
ライドは返す言葉がなかった。てっきり自分を誘拐したこの連合軍を悪だと思っていたのだが、こんな深い理由があったとは・・・。ライドは質問を続けた。
「み、三つ目です。六年くらい前から誘拐事件が発生してるんですが、それと魔界はやはり関係があるんですか?」
「そうだね・・・さっきの話の続きになるけどこの大戦は約八年位前から始まっていて今に至るんだ。私たち連合軍は最初は相当の勢力だった。あらゆる魔族のあらゆる部隊を撃滅していったさ・・・しかし、その勢いも開戦から約二年後に起きた戦いでの大敗を通して失われた・・・。まあ、その戦いの話もまた今度。
このようにして私たち連合軍は劣勢に立たされた。そしてこの大戦に勝つ術はもう一つしかないと連合軍参謀の人達が言った。伝説の魔人を見つけて仲間にする、と。君のことだよ。ライド君。」
「・・・」
ライドはそう言われてまた嫌な気がした。
「私は・・・魔人ではありません・・・」
ライドは今になってそれを言った。もう認めかけているのに。しかし、ライドの心の奥底ではまだ自分は人間だと信じていた。「・・・そうか。悪かったね。まあとにかく君を見つけることを連合軍は最優先した。」
「あれ?でもさっき魔人は人間界に行けないって言ってませんでした?どうやって探したんですか?」
「おっと、言い忘れてたね。そう、私たち魔人は君たちの世界には行けない。しかし、魔界の使徒と呼ばれる魔人たちは魔界と人間界を行き来することができる。私たちは連合軍側の魔界の使徒を人間界に送り込み君を探し出したんだ。」
「そうだったんですか。それで六年の歳月をかけて僕を見つけたんですね。しかし、誘拐事件はたくさん起きていました。僕じゃなかった人たちはいったいどこにいるんです?」
「・・・君には申し訳ないが君じゃなかった人間はもう・・・死んだ・・・。
本当にすまない。しかし、魔人の魔力を受けた人間は死んでしまうんだ。しかし君は魔人だから、いや、すまない。とにかく君は私たちに近づいても死なないんだ。人間と魔人は姿はまるで一緒だ。こうして君を探すしかなかったんだ。本当にすまない。わかってくれ・・・。」
ライドは仕方ないと思った。人間界は平和だ。それは自分がいなくなろうと変わらない。それに比べて、魔界は大戦中だ。連合軍曰く、自分の力がなければ魔界は破滅する・・・。
「そうですか・・・。まあ僕の力で両方の世界が平和になるなら構いません。」
しかし、そういったライドには未練がまだ残っていた。
「あの・・最後の質問です・・・。」
ライドは言った。
「ああ、何でもいいよ。答えられる範囲ならね。」
と、ナイトホーク。
「・・・。どうか・・・現世に戻る方法は・・・。他に無いんですか・・・?」
そういったライドの目には大量の涙が浮かんでいた。
「・・・。すまない・・。しかし、君の力が必要なんだ。わかってくれ・・・。」
「・・・はい。」
ライドは前向きな男だった。だから決心することができた。大戦を終わらせ魔界を助けることを・・・。
しかし、自分が魔人であることはまだ認めきれなかった。