第二話:「悲劇」
「おはよう、トム、スティーブ。」
「おう、ライド。」
トムとスティーブが言った。今日もまたくだらない話をしながら学校へ向かっていた。
朝礼の時間である。
学校長の話。
「昨日の夜また誘拐事件が発生しました。ここ数年誘拐事件数が増える一方なので、くれぐれも気を付けてください。特に今回の事件はだいぶ近かったので帰る時などは複数人で帰るように。以上。」
「また誘拐事件か・・」
朝礼が終わり、三人でレポートを書いているときにスティーブが言った。確かにここ数年事件数が増していく一方なのである。
「ああ。政府も何年も前から調査してる
とか聞いたけど全く何もわからないらしいぞ。」
と、ライド。
「まぁ、別にここら辺で事件が起こったことなんかたくさんあるし、今回も大
たしたこと無いっしょ。」
と、トム。
「いや、誘拐事件自体大事件だろ・・・」
ライドが言った。
「冗談だよ。でもどうせ今回もすぐ終わるよ・・・」
ライドは大事件と口では言ったが、いつものようにトムの言う通りだと思った。
しかし、今回だけは少し違った。何故がいつも以上に恐怖を感じた。しかしそれも三人でレポートを書いているときに忘れてしまっていた。
「さ、今日はこの辺にして帰ろうぜ。」
と、スティーブが言った。
「そうだな、帰るか。」
満月の夜だった。またくだらない話をしながら帰り道を歩いていた。
「おい、満月が出てるぞ。綺麗だな。」
トムが言った。本当に綺麗だった。
「そうだな。さあ帰ろうぜ。」
しばらく月を見つめていてからライドが言った。そして、事は起こった。三人が目を逸らそうとしたその時、見ていたその先の空間が裂けた。
「お、おい、なんだあれ。空間が・・・!」
スティーブが言った。そしてその破れた空間から瞬く間に四人の男が出てきた。すぐに男の正体がわかった。誘拐犯である。三人は恐怖した。しかし、やることはわかっていた。
「に、逃げろ!!!」
ライドが言った。その掛け声と同時に三人は走った。三人とも小中高と運動部に所属していたため体力には自信があった。しかし、全然彼らとの差ができなかった。
三人の恐怖が最高潮に達したその時、スティーブとトムが突然倒れてもがき苦しんだ。
「トム!スティーブ!!大丈夫か!?」
ライドは必至で呼びかけた。しかし、なぜか助からないとわかった。
「た、魂が・・吸い取られるぅ・・」
スティーブがかすれ声でいった。そして二人は動かなくなった。死んだのだ。
そして、彼らはライドを囲んだ。彼らはとても不気味な仮面をしていた。服はこの世のものとは思えない素材からできていた。生物の魂を織って作ったのだろうと思った。そして彼らはしばらくたってから言った。
「ほう・・・我々の魔力を受けても死なないか・・・」
もう一人が言った。
「こいつに違いない。連れて行くぞ。」
ライドは確信した。彼らが誘拐犯だということを。そして、何とか声を絞り出していった。
「お、俺をどこに連れて行く気だ!二人を戻せ!」
彼らは言った。
「どこに連れて行くかはわかってるだろ?そしてこいつらはもう戻らない。魔族と言えど魂を戻すことはできない。」
「魔族?冗談はよし子ちゃんだぜ。どこに行くかわかる?知らねぇよ!」
なぜか恐怖が薄れていった。そして怒りが込み上げてきた。そして、ライドは薄っすらわかっていた。どこに連れて行かれるのかを。魔界である。
「詳しいことは後だ。貴様がカーチス様が仰っていた半人半魔だということは確かだからな。」
また何を言っているかわからなかった。しかし、口を開く間もなく先ほどできた空間の裂け目に吸い込まれた・・・。
悲劇である。